第1話 見慣れた光景(物理)
作者の好きなものを好きなように詰め込んでみよう!という作品ですので、暖かい気持ちでお読みください。
「もう朝よー、早く起きなさーい」
階下から母さんが俺を呼ぶ声が聞こえる。
「早く起きないと永眠させるわよー」
何を馬鹿なことを…、と思う人もいるだろうが俺は今までの経験から急いで首を右へ反らせた。
次の瞬間
ズガンッ!
という音とともに、さっきまで俺の頭があった場所に突き刺さる白くしなやかな何か。
いや、訂正しよう。さっきまで俺の頭があった場所に突き刺さる白くしなやかな母さんの右足。
「って、息子起こすのに頭蹴り砕こうとする母親がどこにいんだよ! 下手したら死ぬぞ!?」
「ここにいるじゃないか。それに、この程度で死ぬような軟な鍛え方はしてないさ」
いや、右足のところから煙が出てるんですが……そうですね、いつものことですね。
「ああそうだ。今日はちょっと出掛けるから、早くご飯食べて準備しな」
そう言い残して、母さんは部屋を出て行った。穴の開いたベッドと床は放置して。
と、紹介が遅れた。さっきから大暴れしてくださっていたのが俺の母親で、名前はルシア・エンフィート。
年齢は一回聞いたことがあるけど死にかけた。ぶっちゃけ若いし、よく姉妹に間違えられる。
昔は名のある冒険者だったそうで、戦乙女<ヴァルキリー>なんて二つ名を持ってたみたいだけど、俺からしてみたら戦鬼<オーガ>にしか見え……ないなんてことはない! 全くない! だから、階下から殺気を放つのはやめてください戦乙女様。
……声に出してもないのに何で分かったんだ。
ま、まぁ、気を取り直して次は俺の紹介だな。名前はアリス・エンフィート。年齢は今日で16歳になる正真正銘の男だ。
誰だ、名前が女っぽいとか言ったやつは! これは母さんが「あんまり可愛かったからいいかなと思って」とか言って付けてくれた名前なんだぞ!
……マジで勘弁してください戦乙女様。
名は体を表すの言葉の通り、母親譲りのサラサラ黒髪・若干童顔な面構え・鍛えても厚くならない身体。
どこから見てもスリムな娘にしか見えません、本当にありがとうございました。
昔話に出てくる筋骨隆々な戦士を目指していたのにどうしてこうなった。
それと、父親に関しては顔も知らない。生きているのか死んでいるのか。物心ついた頃にはもう居なかったし、母さんに聞ける話でもないしな。
まぁ、あの母さんを嫁にするんだから尋常の人ではないんじゃないか、と密かに考えている。
さて、ご飯を食べようか。何か出かけるとか言ってたしな。と言っても、昨日俺が作った夕飯の残りを温めただけだとは思うけど。
だいたいこんなノリで進んでいきます。よければおつきあい下さいませ。