Date1~迷子劇の裏方~
こんばんは、くらろぅです!
おかげさまで、【AsK】もユニークアクセス数が1,000越えていました! ありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします!
今回は短い話になりますが、ごゆっくりどうぞ~
灰色のマンションで行われた会議は、結局話合うことはできずにあのまま解散となった。つまり、会議と呼ぶにはあまりに残念な状況だったために、すぐに解散することになった。全員がトイレを済ませていたのを確認したから、とりあえず最低限の目的は達したということなのだろう。
あの場所をとっとと出て、一番乗りでワープポイントに到着する。行き先は「宮清高校」に設定して、中央の小さい円の上に立つ。しばらく光が眩しかったが、それもすぐに収まり、気がつけば自自分たちの領地がすぐに見える、宮清領のワープポイントに僕はいた。
僕こと日番谷孝介は、この八俣ノ島に来る以前からクエス・ラヴァーのことを知っている。黒垣君にこのことはバレてしまったけど、まだあのことまではバレていないのが、僕にとってセーフティな所だ。だがそれも、いつアウトになってしまうかは分からない。あの人は読めない人だから、いつ黒垣君に接触してくるか、もしも最悪の状態で接触を許してしまったら、僕は一体どう対応をしようか答えに悩んでいる。
僕の兄。
日番谷啼介。
宮清高校第三学年学年主席。宮清高校の開校以来、初めての超エリート。勉強、スポーツ、人望、社会に適合していく上でのスキルを全て兼ね揃え、その能力を完全に極めたような、どんな分野でも完璧にこなす兄が僕にはいる。
僕はそんな兄を尊敬しているし、小さい頃からずっと憧れて兄を見習って生きてきた。兄の背中だけが僕にとっての目標であり、それ以外はゴミに等しいだけ。僕にとって大切なのは、兄を追い、兄に認めてもらうことだけ。それが僕の十年間だった。
でも。
二ヶ月ほど遡る。
そう、クエス・ラヴァーが事件を起こす、それよりも前のこと。
兄は誰よりも先にクエスと出会い、彼の実験に手を貸すことを表明した。兄もまた、「願い」を叶えるために自分を売ったんだと思っている。
そしてそれから、兄は、兄さんは変わっていった。
黒く、黒く黒く汚く染まって。
いつからか、僕が追っていた、憧れていた、認めてもらいたいと思っていた兄さんは跡形もなく消えていった。もう僕の知っている日番谷啼介はいなくなってしまったのだ。
宿舎の自室に戻ると、相部屋の黒垣君はまだ戻ってきていなかった。まだクエスから話を聞いているんだろうか……。
それにしても少し長いような気もする。話すとしても、おそらくは学生戦争のルールとこの島の仕組みぐらいだろう。そしたら一時間あれば足りるはずだ、少なくとも僕より早く帰ってこれるはずなのだ。
心配、になった。
ただの友達、そう呼べるのかどうかすら曖昧な関係なのに、僕は彼がクエスと一緒のいることに不安を覚える。あの時も、あの雨の日もそうだった。黒垣君はクエスに近づいてはいけない。クエスが黒垣君に近づいてはいけない。根拠は何もないけれど、僕の本能とでもいえばいいのだろうか、とりあえず、僕の中の何かがそう告げるのだった。
部屋を出て、宿舎の玄関ゲートにIDパスカードをかざして外に出る。このパスカードは八俣ノ島に暮らす学生たち誰もが持っている物で、こうしたカギのなったりする。
宿舎を出て、僕の足は迷わずに、さっき来た道を……つまりワープポイントに向けて走り出した。ローファーではなくサンダルだけど、そんなことは気にせず走る。
宮清の宿舎はワープポイントから遠くない場所にあるので、割と早くにポイントが見える所に到着する。
「はぁ、はぁ……。体育館へのワープ設定は、確か」
想像以上の全力疾走をした僕には、大きくその分のフィードバックが体に返ってきた。元々体力がない分、体が異常にヘトヘトになった。ましてはサンダルでの疾走だ、無理した走り方にもなっていたんだろう足も痛む。
そんな僕が装置を操作するべく近づこうとすると、そうする前に装置の方が勝手に輝きを帯び始めた。つまり、誰かが宮清の領地に入ってくるということだ。もし今他校の連中に攻め込まれたら、僕一人では対処できないだろう。そうしたら、黒垣君に全てを話すこともできず、変わってしまった兄さんはを超えることも、何もできなくなってしまう。
「…………誰だ」
静かにそう呟いた。
多分、この時の僕の表情はだいぶ暗かっただろう、随分と冷静に言葉が出た。
でも。
そんな僕の諦めをひっくり返してくるような、そんな予想外の行動をしてくれるのが、僕の知る黒垣正紀であったということを、僕は思い出す。だからあの赤峰和哉にケンカを売ってしまうのだ。しかも彼は女ではないというのに。
全く、彼があの日、グラウンドに降りてこなければ、もしかしたら宮清高校の生徒は僕を含め、ここに来ることはなかったかもしれないというのに。
だが、黒垣正紀は日番谷孝介にとって今、大切な存在であることが分かった。そうでなければ、こんなに心配にはならない。まるで僕は彼の父親のようだ。
––––そして装置が輝きを失う頃。彼は帰ってきた。おそらき初めてのワープ体験だったのだろう、意識をなくしたまま。そんな姿で、僕の友人、黒垣正紀は帰ってきた。
実際の所、僕のこの約一時間の心情の動きについては、まるで壮大な物語のエピローグのようになっているけれど、それは違う。むしろ、これはプロローグなのだ。
黒垣正紀にとっての八俣ノ島のまともな生活はコレが一日目だ。そう、
たった一日目。
まだまだ、本当に序章に過ぎない。クエス・ラヴァーの用意した、一つの舞台の。




