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AsK  作者: 倉助
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Date1 ~願いを叶える探求者~

こんばんは、くらろぅです!

久しぶりの更新となります、【AsK】です。不定期な更新ですが、しっかりと物語を進ませるように心がけます。

これからは更新と更新の間が長くならないよう心がけますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは、ごゆっくりどうぞ!

 新垣純太は、俺が高校に入学して始めての友達だった。

 慣れない環境で落ち着くことなく、クラスにも溶け込めていない俺に声をかけてくれたのが純太だった。


『黒垣君だっけ。俺も図書委員なんだ、よろしく』


 純太は特別成績が良い訳でもないし、スポーツだって俺の方が出来る。徒競走も俺の方が速いくらいだ。それに中々地味なヤツで、クラスの盛り上げ人気役っていう訳でもなかった。

 でも優しいヤツで、目立つことよりも裏方で表を支えるような、花の花瓶の水を変えたり、日直が放棄した学級日誌を毎日コマメに書いたり。そんな根のあるヤツだったし、それにアイツはお人好しで、例えば学級委員を決める時に誰も立候補しない時は自分から手を挙げてしまうような、そんなある意味事故犠牲なヤツだった。

 確か妹がいるって話も聞いたことがある。中学三年生の受験生で、自分とは違って成績優秀、スポーツ万能の才色兼備なんだって、自慢の妹だって誇らし気に話してた。

 その妹が良い高校に行けるようにと、親に代わって塾の授業料を自分のバイトの給料から出したりして、妹に対して凄く思いやっていた。


『俺の妹、超可愛くて超頭良くて、クラスの人気者なんだぜ。すごいべ?』


『お前とは正反対なんだな。』


『そういうこと言うなよな、正紀。俺だって目立つように努力してんだぜ』


『ほう、例えば?』


『教室の花瓶の水を変えたりとかな!』


『超目立たねぇじゃん』


『ふん。人間見えない所まで気にかけてこそだからなー!』


『何だよそのポジティブ思考』


 友達も家族も両方を表裏全体から大事にするような、優しいヤツだったのに。

 なのになんで、あんな所にいたんだ。

 なんであんな所で、あの女と闘ってたんだ。


 恵まれないな、アイツは……。最後の最期に嫌な目立ち方をしてさ、それで死んで。自分の努力を努力以上の何かに変えることもできないまま、報われないまま。

 でもそれも全て、あのオレンジ眼鏡女のせいだと俺は思っているが、日番谷に言わせれば違う。

「彼に力がないのがいけない、ただそれだけの自己責任さ」

 ……ということらしい。純太を貶していることに腹は立つが、その内容は何処か掴みきれないからスッキリしない。それこそ、ここで俺がキレたら俺の方が間違っているかのような、そんな感じだった。

 あの後、オレンジ眼鏡女何事もなかったようにサッサと体育館を出て行き、上にいた観客達もゾロゾロと出て行った。もう見るものはないから帰ると言うかのように。

 当然、そんな連中に腹が立った。ムカついた。もう殺してやろうかと思うぐらいに。

 勝手な感情だってことは分かっている。でも、それでも、俺にとってはそれぐらい大事な友達だったから。その友達がこんな扱いを、あんまりな扱いをされるのに酷く腹が立った。でも、だからと言って俺にできることは何一つもなくて、ただ、上を向いて声を荒げて叫ぶぐらいだった。

 悲しい。悔しい。ムカつく。

 せめて俺に力が、あのオレンジ眼鏡女を倒せるぐらいの、友達を守れるぐらいの"力"があれば。

 そう、"力"さえあれば……!!


「あるだろう、黒垣君。君にはそれが」


 その声は、前からでも後ろでもない、既に他が帰って誰もいなくなった観客席から俺を見下ろしていた。青色の眼鏡の奥で、諭すような瞳が俺を真っ直ぐ見つめている。

「日番谷……?」

「君の中には、君の望んでいるモノが既に存在しているはずだ」

 俺の心を読んで言ったような言葉を、日番谷は見下ろしながら言い放つ。

 お前、何言ってんだ、と。そう俺が言いかけた時に、


「日番谷、もういいぞ」


 俺の意識が今度は体育館の入口に向く。どこか聞いたことのあるような声が奥から聞こえてきた。

 奥からは強い気配、気迫のような、そんなものを感じる。その威圧感に気圧され、押し潰されてしまいそうだ。

「やぁ、久しぶりだな。黒垣正紀」

 黒コートで身を纏った長身の男。外人っぽい顔つきで、濁りのない青い瞳が俺を真っ直ぐ見つめてくる。男の笑った表情は一見爽やかな外国の青年に見えるだろうが、俺にはそうは見えなかった。口元が緩んでいても、目がいっさい笑っていないからだ。むしろ狂気さえ感じられた。

「アンタ、この前の……」

 そう、この男は俺が意識を失う一週間前の雨の日、グラウンドの真ん中で俺に「願い」を聞いてきた男。

「クエス・ラヴァーという。よろしく頼む」

 そう言うが、別に握手を求めるような仕草はない。コートの上から腰に手を当てる。そのせいでクエス・ラヴァーの腰の細さが分かる。細すぎず、太くもなく。絶妙なその筋肉の付き加減は、トレーニングを怠っていない様子を伺わせた。

「今日のゲームには不参加だったようだな」

「ゲーム?」

「そうだ。さっきまで見ていただろう」

 迷わず俺の拳が出た。

 が、それはクエスの小指一本に止められてしまった。どれだけ力を込めても俺の拳は前に進まない。

「いいか黒垣正紀。今お前は、一人のゲームプレイヤーなんだ」

 プレイヤーというのはさっきの純太とか、眼鏡女を指しているんだろう。ゲームは多分、さっきのアレを指しているのだろう。

 何がゲームだ、ふざけるな。人を、人の命をなんだと思っているんだコイツは!

「おいおい日番谷、予定が違うじゃないか。ちゃんと説明はしたのか」

 俺の拳を小指で押さえたまま、クエス・ラヴァーは上の観客席から見下ろしている日番谷を呼んだ。日番谷は目を合わせると、今まで俺が見たことのないような冷たい目をして、言葉を吐き捨てた。

「それはこちらの台詞。赤峰和哉のやり過ぎた行動のせいで、予定を変えざるを得なかったのだから」

「ほう」

 少しの沈黙が流れる。クエス・ラヴァーは口元だけを緩め、日番谷はいっさい笑っていない。正面から発せられるクエス・ラヴァーの威圧と、(俺に向けられた訳じゃあないが)上から苛立ちの込もった日番谷の視線に挟まれるように立っている俺は押し潰されそうで、クエス・ラヴァーに向けた拳を何時の間にか引いていた。その拳は今、フルフルと震えている。

 ふと、クエス・ラヴァーの方から目を逸らした。が、別に日番谷に気圧されたとかいう訳ではないようだ。

「お前は実際に目に見て、感じ、意欲を促せようとしたんだろうがな。だが、それでこの結果か」

「実際に体感させておけば良かった、そう言いたいのか」

「よく分かっているじゃないか」

「だがそれでは、赤峰和哉に殺られていた」

「それはどうだろうな。赤峰和哉を、既に超えているかもしれないぞ」

「ふざけるな。そんなことがありえるか」

「ふざけてなどいないさ。実際に才能はあるのだからな」

 ダメだ、全くこの二人の会話について行けない。

「お、おい。お前ら何を話してるんだよ」

 日番谷の方を見上げる。俺の声の直後に、日番谷の視線は俺に向く。

「ふむ、黒垣君。わからないかい? これは君のことを話しているんだよ」

「俺のことを?」

 そうだ。そう頷いて日番谷は腕を組んだ。

「君はもう、普通じゃあない。黒垣君、君は"能力者"なんだ」

「能力者……?」

 日番谷は何を言っているんだろう。普通じゃない? 能力者って何だ? 何なんだ?

「黒垣正紀。これを見ろ」

 日番谷の言葉に頭を悩ませていると、クエス・ラヴァーに声をかけられた。

 見ろと言われたのは、彼が片方だけ挙げている左手。その手は人差し指以外が折られている。

 俺の意識が自分の手に行っていることを確認すると、人差し指の先をチョイチョイと曲げた。そこを見ていろ、ということか。指示通りにクエス・ラヴァーの指先を見つめる。黒の手袋がはめられた手は、男らしく大きい。

 その黒色に集中している内、指先の周りに、薄い膜のようなモノが見えた。それは色がなく、透明で綺麗にも思える。

「更に、だ」

 クエス・ラヴァーが指をピンッ伸ばす。すると、さっきの薄い膜が今度はハッキリと濃く、更に厚く見えた。よく見るとソレは膜のように引っ付いている訳ではなく、透明な波が速い動きで指を覆っているような、そんな風に見えた。

「これは……?」

「見えたか? では次だ。これに見覚えはあるだろう」

 今度は指を何処か適当な……さっき純太が叩きつけられたのと同じ所の壁に指を向けた。眼鏡女が純太を殺った時の閃光(あの時に俺は目が眩んで、あの閃光が何だったのか分かっていない)のせいで壁は削られ、

 木目が漏れ出しになっている。人を消し飛ばすほどのせんこうだったのだから、むしろ壁が貫通して破壊されてなかったことの方がスゴいだろう。

 と、考えている内にクエス・ラヴァーの指の周りに厚く覆われている波が、球体状へと次第に大きくなっていく。小さい電球程度の大きさから、段々と手の平よりも大きくなり、それながら形を持続させて指先から動かない。

「よぉく見ておけ、黒垣正紀」

 一度俺を見て笑い、次に日番谷の方を向いた。言葉はかけていなかったが、また視線のやり取りがあったに違いない(いや、ただの睨み合いかもしれないな)。

「三、ニぃ。一……」

 その時だった。クエス・ラヴァーが最後の合図を口にする刹那、いつか感じた頭への痛みと共に、俺の意識に一瞬の映像が流れた。


 ––––どこかの病院の、どこかの病室のベッドで、多分俺と同い年ぐらいの女子が寝ている。

 その女子はうなされていて、とても苦しそうな顔をしている。どんな悪夢を見ているのか、今にも発狂してしまいそうだ。

 そんな女子の手を、かけ布団の上から握る、誰かの手が伸びてくる。

 どこからか現れた手は、女子の手を強く握った。白くて、折れてしまいそうなぐらい細い手だ。決して温かそうにも見えない。むしろ熱をとってしまうんじゃないかと思ってしまうほどに、白い。

 けどその手は、包み込むように、抱きしめるように優しく女子の手を握る。

 ––––大丈夫、ここに居るよ……。

 白い手に握られて、女子は悪夢を抜けたのか、その顔に苦痛の色は見えなかった。

 俺の視界からだと、ベッドの所しか見えない。だからこの白い手が一体誰の白い手なのか分からないが、何故かその手の主に覚えがあった気がした。顔を見ていなくて、手を見ただけで、だ。

 そう、ついさっきまで近くに感じていたような……。


 ––––そこで意識は切り替わった。というよりも、戻る、が正しいかもしれない。

 そして意識が戻ると同時、俺が刹那に感じた何かを吹き飛ばすように、最後の合図が口にされる。

「ゼロ」

 直後に、指に指された壁が爆発した。ついさっきもあの眼鏡女が銃から撃った時と同じ種類の爆発だった。

 爆発する寸前に、ついさっき見た閃光みたいに、しかも今度はビームに見えた気もするけど……。

 煙がおさまって、改めてもう一度壁を見る。今度は穴が空いていた。綺麗な円形の、直径五◯センチは余裕に超えていると思う。しかも本当に綺麗に、木材がそのまま職人の大工に切断されたが如くに断面が見えるのだから驚きは頂上を超えて空へ浮く。なんだコレは。コレは人間のやれることなのか! それともコイツは人間じゃないエイリアンか何かか! どちらにせよコイツはヤバい!

「さて、どうだ?」

 エイリアン(仮)のクエス・ラヴァーは、ニンマリとしながら俺に聞いた。俺はその顔を見て、壁を見てを三回繰り返して俺の目がおかしくないことを確認してから、上の日番谷に聞いた。

「ひ、日番谷……こらぁ、ゆ、夢なのか?」

「夢だと思うかい? いいや、コレは現実さ。彼は【波動砲】を放っただけさ」

「波動、砲?」

 何かアニメや漫画の中で聞きそうな言葉だなぁ。特に波動とか、なんかそれっぽいし、それに中国の武術とかに出てきそうな名前だ。

「波動を砲弾のように撃ち出す技術の名称さ。赤峰が……あー、さっきの眼鏡の女がやったことも同じなのさ」

 純太を殺したあの女のことか。いや、アイツに対しての感情は抑えて、抑えて……。そうだ、今は日番谷の話を聞かなくちゃいけないんだ。じゃなきゃ、状況を把握するためにも。日番谷だけじゃなく、この黒コートのクエス・ラヴァーの話も。

「そもそも波動っていうのは、人間に流れる生命エネルギーのことを言うんだ。イメージ的には中国の気道の武術だとか、マジックで有名なハンドパワーだとか、そんなモノで考えると分かりやすいかな」

 どうやら、俺の想像は的を射ていたらしい。まさかの的中だった。

 日番谷の話によれば、その波動というのは現在の人間、つまり新人(クロマニヨン)の以前に存在していたとされる旧人の体に存在していて、体の中を血が流れるように流れているらしい。

 旧人が仲間を思いやるような者たちだったと研究されているように、波動を扱ってソレをしていたというのが事実だと言う。

 その波動能力を継承できる新人は『世界』に数多く存在しているが、逆に言えば継承していない新人もいる。当然、誰でも扱えるという訳ではなく、その才能を開花させた人間だけがその能力に触れることが許される。クエス・ラヴァーは継承できる側の人間で、更に才能を持っているために波動を自在に扱える、ということらしい。

 そして、世界で波動能力を継承していない新人に、俺たちが当てはまるらしい。

 でもここで、一つの疑問は浮かび上がる。何であの眼鏡女が波動能力を持つのかと。

 ……ここまで話して、日番谷は一息をついた。瞼を一度閉じて一瞬だけ間を空けると、すぐに口を開いた。

「そして黒垣君、その疑問が僕らの現状につながるんだ」

 日番谷のその説明に、俺はよく分かっていない。なんで俺たちの現状を知るのに、眼鏡女が出てくるのか。

 それともアイツの陰謀か何かで、俺たちは今ここにいるんだろうか。だとしたらクエス・ラヴァーが一体どこの何者で、何のためにいるのか更に疑問が深まる。

 日番谷の言葉に悩まされ、俺の疑問が頭の中を埋めていく。

 なぁ、日番谷ちょっと待ってくれよ。

 そう言おうとした所で、後ろからの声はが俺の声を遮った。そう、クエス・ラヴァーだ。

「日番谷、ここからは私が話すから座っていろ。黒垣正紀、教えてやろう全てを。お前は知りたいのだろう?」

 ゆっくり歩いて俺の前に立ち、暑くなったのかコートのファスナーを下ろす。中の黒いシャツとスーツが、コートと同化して見えた。

「全ては私から始まったことだ。それも、遡れば長い話になる。」

 そして笑う。今までとは違って形だけの笑いではない、心から感情えお見せている笑い。

 何を考えているのか、クククとベタな悪役が言うかのような声を漏らし、烏のように全身黒色の服を着た男は、言葉をつないだ。


「その前に改めて自己紹介だ。私は『願いを叶える探求者』、クエス・ラヴァーだ」

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