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第五話 「話は最後まで聞くべきです」

第五話 原案:しぃ様

「ね、ねぇ、君はどうして…… ぼ、僕を連れ去ろうとしてるんだい?」


 目の前に倒れて虫の息のアルファーネを見下ろして恐ろしい笑いを浮かべている女の子に、王子は勇気を振り絞って、今まで一番気になっていたことを尋ねました。何かこの女の子の正体につながるヒントを得られるかもしれません。ですが冷静に考えれば何か明確な信念、意図を持ったプロのテロリストであれば、こんなところでそんな情報を漏えいすることなんてないと分かります。その目的を知る時、それは王子様の命が奪われた時にほかなりません。


「あら、そうでしたわね。私ったら、まだ何もあなたに教えてませんでしたわね!」


 王子に話しかけられた魔女は、倒れているアルファーネに向けていた表情を0コンマ1秒程で変え、瞬時にバラ色に染まった顔を王子に向けました。


「この変貌、いつもよりよっぽど魔法」

「何か言ったかしらピエトロ」

「……いえ何も」


 くるくると変わる彼女の表情を見た王子様は、彼女に言われる前に、ハッと気付きました。


 急に、こんなに真っ赤になって…… 何なんだ……?

 ま、まさかこの子…… もしかして…… 自分に……


 途端に、青ざめていた顔が真っ白に変わりました。この上ない恐怖をまた感じたのです。


 僕に何か恨みを持っているのかもしれない!



……かわいそうに、普段全く不自由のない生活をしていた王子様は、緊急事態に勘が働きませんでした。彼は彼女の赤面を自分に対する激しい怒りだと判断してしまったのです。表情を読む能力に欠けていました。


 しかし魔女は、そんな王子様の考えを知る由も無く。ピエトロに睨みをきかした後、再び王子様にバラ色の顔を向けます。


「私はあなたを一目見た時からとってもとっても」

「ま、待ってくれ! なんだか良く分からないが、本当に悪かった!」


 王子様は、突然頭を下げました。謝ればなんとかなると思ったのです。そんな王子様の行動が意味するところが魔女には全く分かりません。


 私は王子様に恋してしまったから、王子様を私のものにしたいだけなんだけどなぁ……。


 面と向かって伝えようとしたのに腰を折られてしまった彼女はいささか不満気味でした。でもそんなことは些細な事。まずは王子様をゲットです。ゲットして邪魔が入らないところで改めて伝えましょう。ふぅ、と小さくため息をついて心を落ち着けたところで小猫モードのピエトロが足元に寄って来て、ご主人のふくらはぎのあたりに小さな前足の柔らかい肉球でぽん、とタッチしました。


「ほらね、ご主人様。やっぱりこんなやり方、よくなかったんだよ。今は従わせるだけだからどうにかなるだろうけど、いざ自分のものにしたとしても心が着いてきてくれなかったら厄介なことになりそうだよ」

「あら、ピエトロ。言ったでしょ。恋は恋。私のものになれば、もう私たちはHappy Endよ」

「王子は違う意味でEndになりそうなんだけど……」

「何よそれ。まずは邪魔が入らないよう私の家に連れて行けばオッケーなのよ! 一緒にいることから始まる愛をゆっくり育てたらいいじゃない」


 魔女はピエトロの言っていることを全く分かっていないようです。ストックホルム症候群という言葉を調べた方が良いのではないのでしょうか。この場合愛が育ったように錯覚しても、いずれ王子様が正気に戻ってしまった時、それまでの好意が一気に憎悪となって反転します。長期的予後で考えると不良です。


「さぁ王子様、早く私の家に向かいましょう」

「そ、そんなっ! ぼ、僕が何をしたって……」


 王子様は謝っても全く効き目の無かったことにショックを受けました。そりゃそうです。大切な言葉を遮っただけじゃなく、さらりと出てきた超重要キーワードを右から左に受け流してしまうような思考形態では生き残れません。自分は魔女の家でいったいどんな復讐を受けるのだろうと、間違った被害者妄想にただただおびえていました。


「何をしているの、ピエトロ。あなたもさっさと歩くのよ」

「……ご主人、ちゃんとやり直そうよ。その方が」

「アルファーネ、とってもかわいそうね(棒読み)」

「行きます。すぐに行きます」


 城内一の腕利きの戦士が倒されたことで士気を完全に折られた衛兵さん達の中に、この暴挙を止めに一歩踏み出すことができる人はいませんでした。見目麗しい青年と若干幼く見える女の子と喋る黒猫の奇妙な一行は、とうとうお城の門をくぐって出ていってしまいました。




……ピッ。


「あ、あの雌豚…… 王子は…… 私の……!」


 だんだんうつろになってゆく意識の中、遠くなって行く女の子の後ろ姿をしっかり目に焼き付け、王室に繋がる無線を右手に、倒れ伏した美女は最後の力を振り絞ります。


「こ…… こちらアルファーネ……。何者かが、王子を拉致し…… 城下へ連れ去って……」





……最後まで言い切ることはできませんでした。



第五話 原案:しぃ様


 これがラブコメ…… だと……? なんだか甘々でもなくじれじれでもなく、ただ暴挙に出ているだけの気がするのは自分だけではないな……

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