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第四話 「危ない物はしまいなさい」

第四話:原案 アグァ・イスラ(水島 牡丹)様


 突如現れた美女に、魔法使いの女の子の怒りは頂点に達したようです。

 王子様の視線を受け止める女は私一人でいいわ、と魔女は思いました。ずっと一緒にいるピエトロには魔女がそう考えていると直ぐに分かりました。


 うわ。ご主人の目、殺意満点だよ!


 そう気付いてピエトロが美女に対して注意を促そうとしたまさにその時、


「王子は、この私が守――」


 素手のままの美女が台詞を言い終え構えを取る前に魔女が飛び出しました。

 順手に持っていた出刃包丁はいつの間にか逆手に持ち変えられていて、右フックを打ち出すように美女の喉元に襲いかかります。

 美女は紙一重でその刃を躱したのですが、さらに踏み込んできた魔女は逆手に持ったまま出刃包丁で突きを繰り出します。

 美女はとっさに右手で出刃包丁を払って右足で蹴りこみましたが、小柄な魔女はそのまま美女の脇をすり抜けるようにして避けました。背後に回り込んで美女の背中、肺の辺りに向けて再び出刃包丁を突き刺しました。しかしその刃は空を切り、次の瞬間には魔女はバランスを崩してしりもちをついていました。包丁が刺さる前に美女が素早くしゃがみこんで後ろに向かって下段回し蹴りを放っていたのです。


 右手をついて体を起こそうとしていた魔女に向けて、立ち上がった美女が渾身の力を込めた正拳を振り下ろします。


 長くしなやかな肢体で行われた一連の舞うような動きに周囲の衛兵達の目は釘づけでした。勝利を確信した下段突き。ですが、その直後歓声は呑みこまれ、静寂が広がりました。


 美女のお腹からぼたぼたと、フレッシュな血が地面へと流れます。


「ちくしょう…… いつの間に持ち替えたの……よ……」


 魔女の左手に順手で持たれた出刃包丁が美女の細くくびれたウェストに飲み込まれています。赤く染まった刀身が引き抜かれると、美女の膝が崩れ落ち、刺されたところを押さえたまま床に倒れ伏しました。だんだんと赤い池が広がっていきます。


 その光景を見て魔女は言います。

「これぞ、恋というものなのね。恋敵と戦うのも青春だわッ!」

「……ご主人、この場合『戦う』の定義が全く違うよ。分かってる?」

「あら、ピエトロ。戦いというのは、何時だって血生臭いものなのよ」

 実際に『戦闘』しなくていい、と声を大にして言いたい。恋を勝ち取ると言うのはそう言うことではない、お前は何と戦っているんだ、と。

 自分の過ちに気付かないどころか、その結果に対して満足気なご主人に、使い魔のピエトロが青ざめます。

 王子様も真っ青になって、がたがたと震えながら呟きました。

「あ、アルファーネ……」

 絶望の呟きです。

 魔女は、先程の王子様のアルファーネへの期待混じりの響きとは、全く違ったこの響きに満足しました。


 これで王子様に頼られる存在は、自分以外無くなった。


 歪んだ達成感に満たされた魔女は、つい今先ほど何が起きたのか全く知らない人が見たら、釣られて笑顔になってしまうほど、とても明るくかわいらしい笑顔を浮かべていました。


 魔女と王子様と黒猫が行進を始めました。もう王子と魔女と使い魔のパーティを止めるものはおりません。

 魔女のスケジュールとしては、あとは帰宅して愛を語り合い、そしてラブラブでうへへな生活が待つだけです。しかし世の人はこれを誘拐と呼びます。犯罪です。とても認められるような事ではありません。


 それに王子様には、魔女を受け入れるスペースはありません。もう全面的に拒否の構えです。何故自分に刃物を向けているかも分かりません。

 他国の暗殺者だったら、こんなに回りくどいことをせずにもうすでに命を奪っているに違いない。ならばこの女の子は新手のテロリストなのかもしれない、なんて王子様は考えています。恐怖で人心を支配しようとするテロリズムに対して屈してしまうことに忸怩じくじたる思いすら抱いているかもしれません。

 この凶刃の前に倒れた、自分を守るために戦った存在のためにも、この犯人を何とか捕まえなくては、と王子様は心に誓いました。




 こんな状況で魔女の思惑通りに進むのでしょうか。




原案:アグァ・イスラ(水島 牡丹)様

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