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第三話 「人と見比べてはいけません」

「下がれ、下郎が」


 人の言葉を発したそれの眼光は鋭く、衛兵は全員ちびりそうになりました。

 それもそのはず、彼らは衛兵で日々訓練をしてはいますが、戦争や騒乱を経験したことはありませんし、お城は威厳漂う姿ですからテロを起こそうなんて大それたことを考えるようなやからが現れることも一切無かったのです。こんなモンスターがいきなり本陣に現れるだなんて、想像すらしたことがありませんでした。

 モンスターの出現は想定の範囲外だったのは仕方ないとしても、危機意識が十分でなかったことは反省すべき点でしょう。


 そして災厄はいつも突然に襲いかかります。


 緩んだ危機意識をすり抜けて突如現れた国を揺るがしかねない災厄(現在にやけ面の女の子)が歩き出しました。まだ周囲の状況に気付いていません。王子様の背中を出刃包丁で突っつきながら歩いていきます。彼女を守るために黒い巨獣がそばに控えて周囲に睨みを利かせ、足音静かに進みます。


「……ご主人、いい加減にこっちの世界に戻ってきてくださいにゃ」


 この場に居たのはお城の関係者を除けば、魔法使いの女の子と黒猫一匹だけのはずでした。今は女の子一人と黒豹が一頭。黒い小さな猫はどこにもいません。恐ろしい魔獣の姿をしているのに語尾がかわいいそれは、尻尾で魔女の頭をなでなでしました。それにも全然気付きません。


「ああ、どうしてボクはこんなダメダメ魔女の使い魔になってしまったのかにゃ」


 どうやらこの黒豹がピエトロのようです。本当の力を発揮する時にはこのような魔獣に変化へんげするのでしょう。とても偉大でしなやか、その姿に畏敬を覚えます。がしかし、さっきの台詞は決して口にしません。あくまで心の叫びです。したらネコ鍋にされてしまうからです。


 ピエトロが恐れるネコ鍋。それはネコたちが鍋をベッド代わりにして、丸まって眠っているような可愛い姿を指し示した比喩法ではなく、ちゃんとした鍋料理。作られる調理場を表現できません。その画は全面モザイクで自己規制をさせていただきたいと思います。ネコたん、ネコたん。ニャーニャー、おいでおいで。ぺろぺろしてくれるの~。癒される~。そんなかわいいおネコ様に何て事を! そこに直れ、粛清してくれる! おっと。



 へらへらしたまま魔女は青い顔をした王子様を連れて部屋から出て行きました。兵隊達への警戒は変身したピエトロが怠りません。誰も近づけませんでした。



 魔女の野望へ一歩ずつ前進中です。



 その一歩は人間にとって小さな一歩でした。

 しかし彼女にとって人生を左右する、大きな一歩でもありました。




「はは、アンタかい? うちの王子をさらって行くなんてバカやらかしてんのは」


 誰もが近づかない、いえ近づけない王子と魔女と魔物のパーティの前に立ちはだかる勇者が颯爽と現れました。


「あ、アルファーネ!!」


 王子様の声を聞いて、魔女はようやくコッチの世界に戻ってきました。

 そして俄かに不機嫌に眉を顰めました。


 アルファーネと呼ばれた人物を見たからです。


 その人物は長いストレートヘヤーをして、小顔で鼻筋がすっと通り、眉は細く整えられ、少し切れ長の二重の目が見る人の心を奪う、万人の目を惹くようなすらっとした美人。

 それもないすばでぃーでした。


 一方の魔女の女の子は短めのくせっ毛で童顔、その両目は大きく愛らしく、黙ってさえいればかわいらしいのですが、今は性根を映したかのようにたいそう歪んでいます。そしてローブの下に隠していますが、お顔の見た目通りに体型もまだまだ幼いままでつるぺたな感じでした。大丈夫、諦めないで! まだ余地はあるよ!


 自分にはないその特徴を一瞬で見抜いた彼女は、改めて王子様を見ます。


 王子様のこれほどにない開放感と期待に満ちた顔を見て、王子様の笑顔を受ける女の人に向けて顔を怒りにまかせてさらに歪めます。



 とてもとても怖くて、それを見たピエトロは巨大な豹からかわいい子猫に戻ってしまいました。





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