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第二十二話 「眠れない夜にしてあげます」

「……」

「……」


 半壊したお家の、無事だったお部屋の中に重い重い沈黙が流れます。

 魔女アリスの肩には白い鳩が止まっていました。時々キョロキョロっとその小さいですがくりくりとつぶらな瞳が動いて両者を見遣ります。


「……」

「……」


 ピエトロは床に正座しています。お膝の上にちょこんと小さな手を乗せて、おひげも下に垂れ下がって、しっぽは揺れる事も無く、すっかり委縮しきっていました。

 すっと魔女アリスの手が伸びました。びくっ!!!! とピエトロが身をすくめます。しかしピエトロには一切触れることなく、彼が傍らに置いていた小さなねこ用のバックを手に取りました。


 ランプに照らし出された薄暗い部屋の中で、魔女アリスがバックの中をごそごそと漁ります。

 こと、こと、と一つずつ取り出し、床に並べました。きれいな小石、蝶の抜け殻、立派な風切り羽、紅い花びらがきれいな花。たくさんの戦利品が出てきました。


「……」

「……」


 最後に、ぱさっと異臭を放ちそうな封筒が床に放られました。


「……これはどういう事?」

「……」


 ばん! と床を平手で叩きます。ピエトロが小さく飛び上がったようにも見えました。


「私は『お城に返事を届けてこい』と言ったはずよね?」

「……はい」

「じゃあ何でまだコレが入ってるのかしら? ピエトロなら半日かからずお城に行ってこれるはずよね? ……ああ、そう。お手紙だけじゃあ不躾と思われてはいけない、と思って手土産を用意しながら向かってくれていたのね。それなら時間なんていくらあっても足りないわよね。何て主人思いな使い魔なのかしら! 見習わなくちゃいけないわよ!」


 全力で棒読みです。これでもか! という程に感情がこもっていません。視線で殺せるくらいの殺気を放ったまま、魔女アリスがピエトロに近付いていきます。もうダメです。


「……ごめんなさい」

「は?」

「ごめんなさい」

「え? なに?」

「ごめんなさい!」

「えー、なにー? 聞こえなーい!」

「寄り道してお手紙を届けられなくてすみませんでした! ご主人、許してください!」

「きーこーえーまーせーんー!」


 首根っこを引っ掴まれて、ぶんぶんと振り回されます。めっちゃくちゃに揺さぶられて、ぽーいとクッションにめがけて放り投げられました。ぼすん! と結構いい勢いでクッションに命中したピエトロが姿勢を整えるよりも早く間合いを詰めた魔女アリスが、ピエトロの両手をがしっと掴んで持ち上げました。痛かったので思わず主人の手に噛みついてしまいそうになりましたが、ぐっと堪えてペロッと小さな舌で舐めるに留めました。ですが、可愛いから許す! とはなってくれません。


「アンタねぇ! この家の様子を見て、なんか言うことは無いの? 手紙なんてもはやどうだって良いのよ! それにね、アンタ私を見て逃げたでしょ! なんて使い魔なの?! それでも使い魔なの?!」


 逃げるな、と言う方が無理です。もう暗くなってきて眠りにつき始めた森の鳥達が一斉に飛び立つほどの殺気を振りまき、眼光鋭く、怒髪天を突いた状態の何かが全速力で走ってきたら、どんな生き物だって一目散に逃げ出します。まさか自分の主人だなんて、思うわけがありません。ピエトロは悪くありません。……いえ、原因は彼にあるんですけど。


「何があったの?」

「しりません」

「……王子は?」

「しらないわよ」

「ご主人の肩に乗ってるの、あの伝書鳩だよね?」

「そうなの? 気付かなかったわ」


 問答になりません。


「ご主人…… 王子殺しちゃったの?」

「んなわけないでしょ」


 ありそうですが、幸い違います。ピエトロも胸をなでおろします。もしも王子殺害なんて事になろうものなら、指名手配とかそんなレベルではなくなってしまいます。この森に住んでいられなくなります。多分命も無いでしょう。それじゃあお部屋がこんな有様になって、王子様が居なくなっているとしたらピエトロが思いつく理由は一つです。


「……仕方ないよ、ご主人。住む世界が違い過ぎたんだよ。少しの間だけでも一緒に暮らせただけ良いじゃない」

「いきなり何を言い出すのかしら、このバカねこは」

「王子を取り返しに来る相手にまた爆弾を使ったんでしょ? 普通の男だったらドン引きさ。謎の鍋だったり、散らかり放題の部屋だったり、埋葬されてないお師匠だったりを見られてすぐに逃げなかっただけも王子は頑張ってくれてたと思うよ? よかったじゃない、まだ盛り上がりきる前で。気を落としちゃダメだよ」

「何が言いたいのよ」


 ピエトロ、ダメです! その先に行ってはダメ!


「王子にふられたからって、次があ」



 ピエトロォオオおおおお!!! ダメだって言ったのに! 言ったのに!!!



 捕まれていた両腕を離され自然落下を始めたピエトロは、魔女アリスの見事な裏拳を食らって、窓ガラスをぱりーんと砕き散らしながら外に飛んでいってしまいました。肩に乗ったままの白い鳩は、特に動ずる事も無く魔女アリスの肩の上に在り続けました。





 その日の夜は、ピエトロにとってまさに地獄。長い長い夜になりました。



 

 みなさま「ふりむいて、王子様!」、ご読了ありがとうございます。

 もともとリレー小説として書かれていた本作。放置されてしばらく経ってしまっています。

 主催された水島 牡丹さまから許可をいただき、れいちぇるの成せる限りに当時以上のはちゃめちゃっぷりに仕立ててお届けさせていただきました。


 原型を留めていない事は無いのですが、かなりの魔改造になってるところが多くて、設定を膨らませすぎてどうすんのこれ? となりかけていますが、何とか第一部を終わらせることができました。

 とても中途半端な終わり方をしていますが、これはあくまで第一部。ちょっと他用で執筆に制限がかかってきますゆえ、誠に勝手ながら、まずはここで幕を引かせていただきたいと思います。


 第二部はもうちょっとラブコメしてくるといいなぁ、と思ってます。



 それにしても、三人寄れば文殊の知恵、ではないですが、れいちぇる一人ではこんなハチャメチャ展開にすることなんて出来ませんでした。何人もがアイデアを出し合うことで、こんなに面白可笑しな世界を作ることができるなんてとてもいい経験です。機会があればまた参加したいなあ。



 魔女アリスの、王子様を射止めるための物語は一応まだ続きます。

 第二部をお届けできるのがいつになるのかは分かりませんが、必ずお披露目したいと思いますのでその時はまたよろしくお願いいたしますね。


 最後に、この物語を一緒に紡いでくださった


 水島 牡丹 様

 しぃ 様

 八束 様

 クロクロシロ 様


 に感謝いたしまして、「ふりむいて、王子様!」第一部を完結させていただきたく思います。


 本当にありがとうございました!


 それではここまでお読みくださったみなさま。

 みなさまのもとに、これからも素晴らしい物語の世界が広がりますように……


 れいちぇるでしたっ



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