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第二十一話 「時には離れる事で深まることもあるでしょう」

「待ってくれ、アリス」


 森から近づいてくる王子様に従い、彼女は刃を引きました。魔女アリスも聖女様もお互い悔しそうです。


「僕のために争わないでくれないか。これ以上たくさんの人が傷つくことを、許すことはできないんだ。……王になる者として」

「王子様……」


 今まで王子様は自分のことばかりを考えていました。隠れていた間も魔女アリスの身を案じていたのではなく、自分の得た新しい日々が失われることが気がかりだったのです。ですが、あの終末思想を具現化した目の前の光景が、そして二人の少女が当たり前のように殺し合おうとしている現実が王子様の心を変えました。


 アリスの目からはラヴビームが出ていました。「ラブ」ではなくて思わず下唇を噛んで「ラヴ」と言ってしまうほどです。「う」にてんてんをつけ「ヴ」です。


「白い悪…… 聖女様も、お願いです。これ以上彼女達を傷付け合わせないで下さい」


 初めに付けられた部分を聞き逃しませんでしたが、素敵なおじさまたちを手に入れるためには王子様を生還させないといけません。と言う事で聞かなかったふりをしました。王子様は続けます。


「どうすればこの争いを治められるか、ずっと考えていたんだ。これしか…… ないと思う」


 全員が注目します。バックのBGMは相変わらず地獄の呻きです。大分音量が下がりましたが。もはや壊滅状態の聖女様の軍隊の生き残り(?)も居住まいを正しています。

 周りを見渡した王子様が口を開きました。


「……城に戻るよ。それが一番いい」


……はい?


 断腸の思いを顔に浮かべる王子様の言葉に、魔女アリスは固まってしまいました。

 自分が勝手に出てきたわけではありません。魔女に誘拐されたのです。悪いのは魔女アリスです。帰ることがどれだけ穿った見方をしても正しいスジです。帰る事で争いが治まるとか、そう言うことじゃありません。むしろまた、魔女アリスが何かをやらかすことになるはずです。なんかズレてます。


「聖女様、僕を連れて戻ってください。そしてどうか、僕のために亡くなった方々を貴女の聖なる御力で元の姿に戻してさしあげてもらえないでしょうか?」

「え、いやその…… 別にこのままにするつもりじゃ……」


 聖女様も微妙にやりづらそうにしています。魔女アリスは固まったままです。


 聖女様は気付きました。やめろと言った王子様にすんなり従い、王子様の申し出に茫然自失としているので確定です。

 王子様誘拐事件の犯人という口実をつけて、こんな状態の彼女をここで殺るのは簡単でしたが、王子様も魔女をあしからず思っていそうな空気を読んで手を出すのは止めました。

 聖女様は王子様に興味もありません。こんな若造願い下げです。だから王子様に嫌われようとも何てことありませんでしたが、報酬が減ってしまうかもしれません。


「……運が良かったわね」


 純白の法衣に集めていた聖なる御力を自慢の軍団に分け与えました。たちどころに動く屍達の肌には生気が戻り、虚ろな瞳も色を取り戻しました。


「あれ…… 私どうして?」

「あ…… 傷がないわ!」


 周囲は正気に戻った女達の混乱に満ちました。

 一人が王子様の存在に気付くとやいのやいのとさらに騒がしくなりました。また醜い争いが勃発しそうです。そんな女達を王子様が制します。


「みんな、僕の身を案じてくれて本当にありがとう。だけど心配しないで下さい。ちゃんと城に戻りますから。もう争わないでください」


 王子様の頼みとあらば、と皆従いました。その光景は王そのものでしたが、ここに至る経緯いきさつを知ると首をひねるばかりです。



「お、王子…… 様……」



 やっとこさ魔女アリスが動きました。


「い、行かな」

「アリス…… 君とは違った形で会っていたかったよ…… ごめん。ピエトロによろしく」


 魔女アリスの言葉を遮り、申し訳なさそうな笑顔を浮かべた王子様はたくさんの女達を引き連れ、聖女様とともに森に入っていき、お城へと戻っていってしまいました。魔女アリスはまた呆然としてしまいました。


 森の中の開けた空間に、一陣の風が吹き抜けます。

 残ったのは半壊したお家だけでした。



「ちぇ 出そびれちまったじゃないか」


 森の奥から一人の美人さんが様子を覗っていました。何かあった時のために、と聖女様がゾンビではなく確実な戦力として完全復活させておいたお城の女性騎士アルファーネでした。結局今回も良いところなしです。


「ま、王子が戻ってきたわけだし、良いっちゃ良いけどね!」


 明るくさわやかな空気を残して彼女もお城へと帰っていきました。






……



 肩に白いハトを乗せ、魔女アリスはとぼとぼと森の野道を歩いていました。どれだけ歩いていたのでしょう。日も暮れそうな黄昏時でした。


 何かに気付いた白い鳩が、自分の翼の風切り羽で前を指します。耳元でポロッポー、と鳴く声に、自分の足元しか見ていなかった魔女が顔を上げました。まるで、アリス様、見てください。あそこに何かいますよ、とでも言いたげです。


 新しい使い魔が指す方をじーっと見つめていると、何かが動いたような気がします。夕暮れで、森の中は大分暗くなってきているので、本当に注意して見ないと分かりませんでしたが、間違いなく何かがあります。黒い小さな物がぴょんぴょんとすこし跳ねるように動いたかと思うとぴたっと止まり、またぴょんぴょん、と動き出します。




 それが何なのか、魔女アリスは瞬時に悟りました。




































 その晩、ピエトロはものすごく叱られました。







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