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第十九話 「気になることは何でしょう」



 魔女は迫り来るソルジャー達に対して手持ちの爆弾とマシンガンで果敢に応戦していました。王子様は森の奥で巻き添えを食わないように遠くで一人と一群の戦いを見守っていました。


 もともとさらわれ(?)て来たのですからこれを機会に逃げ出せばよさそうなものでしたが、どうにもその場を去ることが出来ません。何故なのでしょう。


 日々することはと言えば、王様とともに他国からの大使との謁見や、王子としての素養を高めるための教育、そして度々開かれるパーティーへの出席。

 謁見の時は見目も麗しい王子様はお飾りのようなもので、何かするわけでもなくそこに居るだけでした。もちろんそこに居るだけではつまらないので、大臣や王様のやり取りの仕方を見て覚えていきました。でも聡明な王子様はそのやり取りもすでに記憶してしまい、今では本当にお飾りとしての役割をしているだけでした。

 教育の時間も最早学ぶことは乏しく、新たに学ぶことなんて週一くらいで上がってくる国内外の情勢の報告を目にする事くらい。

 パーティーの時は、とても可愛らしいのですが下心丸見えの富裕層のお嬢様たちからたくさん言い寄られてうんざりでしたし、何よりもドレスアップしているので護衛役だと分かりにくくなっている許嫁のアルファーネ(故人)の視線がマジメに怖いくらい。特に楽しくもなく退屈な日々。……もちろんある意味パーティーの時は身の危険を感じ刺激は多少ありましたが、そんな刺激はNo Thank youでした。


 刺激が欲しかった。権力を握れば自分が思った通りの国を作ることができ、皆に気付かれないように刺激の種を蒔くこともできる。魔法なんてうってつけのおもちゃになるに違いない。

 目の前で繰り広げられている聖なる御力(?)と魔女(注:戦争限定)のぶつかり合いは、王子様が求めていた刺激その物でした。ですが、本当にこれが欲しかったのでしょうか。


 生命すら蹂躙する強大なる力と、それを打ち砕こうとする暴力。圧倒的なカタルシスを目の前に王子様は大きな疑問を持ち始めました。


 拉致されるなんて言う、まさかまさかの予想の遥か斜め上を行く、お断り感がマキシマムな状況から始まった、魔女アリスと過ごした数日間はそんな退屈とは無縁で、王子様の人生に素晴らしいスパイスを与えてくれました。



 例え魔法を使わなくても、激しくドンパチが繰り広げられなくても。

 ちょこっと彼女が居るだけで、退屈が色鮮やかになる。

 本当に魔法な日々。


 そんな日々の存亡が今まさに決まらんとしています。



 大分数を減らしましたが、まだまだたくさんいる聖女様の傀儡を前に、さすがに息を切らしてきた魔女アリスが怒鳴ります。


「アンタ! そもそもどこでこんなにたくさんの死体を作ってきたのよ!」

「あら、人聞きが悪い。元はといえば貴女が引換券を連れて行ったからよ。さらわれた一国の王子様との結婚目的の女達の死体なんて、この森を探せばごまんとあるわ。ライバル減らしの目的で殺し合ってたみたいですから」


……それを聞いた王子様は固まりました。


 もともと人より優れているだけでなく、何の不自由もなく暮らしてきました。

 近くにはちょっと暴力的でしたがかなりの美人さんがいましたし、正直勝ち組でした。自共に認めていました。ペッ


 そんな自分を何としてもGetしたい。

 そのためにならどんな手段を使っても、それこそ人死にが出ようとかまわないと多くの人(異性)が考えている。

 今目の前で聖女様の力に支配されるおびただしい群れはざっと見ても100人はくだりません。しかも森の中にはさらにたくさんいると言います。王子様は思います。



 ああ、僕は何て星の下に生まれたんだ。

 なんて罪深いんだ。

 僕のために人がこんなに無駄に死んでいっただなんて。

 死してなお操り人形として戦わされているだなんて。


 崇められたい、誰よりも偉大になりたい。

 そう思っていたけれど、こんな風になる事を望んでいたのだろうか……



……悲劇のヒーローぶっています。


 王子様がちょっとナルシストっぷりを発揮している間にも不死兵はばったばったと魔女の手にかかって倒されていきました。相変わらず魔法よりも兵器に頼った戦いです。


 しかし優劣の差は歴然でした。圧倒的な物量の前にはいかに魔女アリスが歴戦の勇者だとしても追い詰められるのは自明の理。


 かきん


 マシンガンの弾倉が尽きた音です。

 手持ちの手榴弾ももうありません。


 聖女様に支配された魂の抜け殻はまだ腐るほどいます。文字通り腐るほどいます。放っておけばマジで腐ります。それくらい腐るほどいます。聖女様の性根も腐っています。そんな光景を前に魔女アリスの心も腐っていきます。もうどうにでもなれ~。


 と、言うわけでもなく。


「ピエトロ! ピエトロ! ああ、もう何をしてるの!」


 トラップのせいで半壊した家の中にある武器を新しく手元に呼び出しましたが、いずれまた弾切れになってしまうでしょう。埒の開かない展開に不貞腐ふてくされる事無く、魔女アリスは徹底抗戦の姿勢を貫いていましたが、これはもう大ピンチです。援軍があれば早くに打開できそうなのですが、肝心なところで小猫さんは不在です。


 ピエトロは丁度その頃カニを探して川原の石っころをたくさんひっくり返していました。

……果たし状の返事の手紙もカバンに入ったままです。最短ルートで行けば川は近くに流れていないはずです。慣れている森の中ですっかり道に迷っているのですが、夢中になったねこさんはそんな事に気付きません。



「あはははははは! わかったかしら! 貴女は所詮私の聖なる御力の前にひれ伏すしかないのよ! あんな偶然、二度と起こるものですか!!」



 聖女様は勝ち誇ったかのように口に手を当てて高笑いをしています。悪女丸出しです。自重してください。危機に瀕した魔女は次の魔法を使いました。





 それは彼女のお師匠の、最期の日に使った魔法と同じものでした。





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