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第十六話 「チャンスは逃さず見つけましょう」


 ピエトロが子猫らしくかーわいーいおつかいを遂行しているのをヨソに、魔女の邸宅(見た目ほったて小屋)の周りの雲行きがとても怪しくなっていました。

 聖霊院の最高権力、聖女様は偉そうに木の枝の上から悪の居城(見た目ほったて小屋)に向かって指差しました。すると森の奥の方からたくさんの人影が現れ、聖女様が指差した建物目指して行軍していきます。


 ですが、どことなく変でした。


 いずれの兵士達も目は虚ろで顔つきに生気が無く、どことなくだらんとしていて、動きがややゆっくりと緩慢でした。


 そして、全員女のようです。それにみんな大人で顔立ちの整ったかなりの粒ぞろいでした。でも死んだ魚のような眼をしているうえに動きがアレなので、煌びやかな感じは全く無くて相当に不気味でした。衣服が赤茶色に汚れている者もいます。血……でしょうか?


 王子様と魔女アリスは森の奥からぞろぞろと聖女様が率いる軍勢が現れたのを見て、不意な狙撃を警戒してしゃがみこんで隠れました。どこから出したのか、アリスは鏡のついた棒を覗かせて外の様子を観察します。森から現れた軍勢は両腕を前に力なく伸ばし、ゆっくりとですが確実に迫ってきています。薬草用の畑のある所にまで近づいてきたところで魔女は鳥かごのかかっている窓からちらっと黒い鉄の塊をのぞかせ、しばらくマズルフラッシュをまたたかせました。畑が愛用のマシンガンの射程距離の目印なのです。びっくりした鳩がかごの中でバタバタと羽ばたいたので、白い羽毛が少しだけ部屋の中に散りました。

 一通り撃ち尽くし、マガジンを交換して鏡で外を見ます。何人かの女兵士達が倒れています。ところがムクリと起き上がりました。


「ちっ どこであれだけの死体を」

「し、死体?!」


 もはやこの戦場において王子様は蚊帳の外です。と言うか、避難させないとマジ危険です。



「あははははは! どう?! 私の不死の軍団は! 聖なる御力で生き返らせるのは簡単ですが、それだとまた死んでしまいますものね!!」


 なにを言っているのでしょう。ものすごいことを口走っているように聞こえます。


「さぁ! 銃なんか捨ててかかってきなさい! 自慢の魔法を見せてご覧なさいな! 悪の魔法は私の法術の前では無力である事を命と引き換えに教えて差し上げます!」

「ったく、アンタの性根を生き返らせる聖なる力を教えてもらいたいものね」


 魔女がまともなことを言いました。王子様は壁際で小さくなっています。外では銃殺されたはずの女達が再び立ち上がり、歩き出しています。あー、とか、おー、とか声とはおよそ言えないような音が喉の奥から響いていて、終末っぽい光景が広がっています。郊外の森の中に傘のような名前の製薬会社の地下施設をカモフラージュするための洋館が建っていた、後にそれが原因で壊滅することになるタヌキみたいな名前の街が思い起こされます。


 こんな魔と暴力に挟まれ、しかもそれをコントロールすることがこの国では必要なのか。王になったら僕はこんな化け物達と生涯戦わないといけないのか。


 王子様は自分の生まれを初めて呪いました。


 今までずっと権力の座に執着していた王子様も、今まで知ることの無かった王と言う最高権力が払わなくてはいけない代価を目の当たりにして完全に萎縮してしまっています。まあ普通に考えて現在繰り広げられているような事態が日常茶飯事に起きてるようなカオスな国は滅ぶべきなのですが、そう言う一般常識的な事は王子様の脳内メモリーには無く、また在ったとしてもこのような終末的な光景を目にしてしまえば一気に吹っ飛んでしまっているでしょうから仕方がないことかもしれません。


「さあ行きなさい、引換券だけは無事に確保するのよ! 食べてはダメよ!」

「たたたたたたた、食べ?!」


 無敵の軍隊を従えたアンデッドマスターを前に、王子様はもはや腰砕けです。その姿を見た魔女は一瞬にたりと口元を歪めました。しかしそれをすぐに消し、そしてものすごく穏やかでやさしい、見るものすべてを安心させるような笑顔を携えて王子様の肩に手を遣りました。


「大丈夫です、王子様。わたしが、そんなことさせません。貴方にいただいたこの『アリス』の名に誓って」


 王子様はわずかな時間、息をすることを忘れました。その微笑をたたえた姿に、聖母の姿を垣間見たのです。



 ちょっと短め、2000字弱です。

 テンポよくさくさくと読める感じでこれからもしばらく続きます。

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