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第十二話 「見た目に騙されるとはこの事です」

 第十二話 ~原案~ 八束様

 アリス達が人骨について一方的に盛り上がっているころ、お城では騒動が起きていました。ある御方が帰ってきたからです。王子様の誘拐の件はとりあえず解決に向けて進行中なので、もうすっかり盛り上がりを失っていました。第二案としての軍隊の出動も検討され、部隊の編成も計画が進んでいます。


「王子が誘拐されたというのは、真の話でしょうか」


 その御方は非常に小柄で、後ろに仕えている騎士の胸の高さほどもありません。それでも玉座の間を守る近衛兵はとても緊張した面持ちで答えました。


「真であります、聖女様」


 そうこの御方こそ、この国の象徴でもある聖女様なのです。


 聖女様のその見た目は非常に美しく、見るもの誰もが見惚れる存在でもあります。まだあどけない少女らしさを残した顔つき、頭脳も明晰で法術に長けた、ある意味魔女とは対極的に崇められる存在としてはぴったりな容姿と素質なのです。白い服は天使を想像させます。

 彼女の法術、法力は群を抜き、そして彼女の継承した奥義は門外不出。王子様もかつて一度この方にご指導を願ったのですが、一蹴されたそうです。


「誘拐したと思われるのは森の魔女とその使い魔だと思われます。現在、魔女の討伐と奪回のための隊を編成中ですが、なにぶん魔法には不慣れなものが多く……」

「そのため報奨金を出してまで外部の手練れに依頼、ですか……。女性については王子との結婚、つまりは地位の約束ですね。いけませんね、欲に惑わされた人々はよく道を踏み誤るものです」


 おっしゃる通りなのですが、とりあえずあの時点でお城の中に魔女に対抗できる人材はいなかったため、素早い行動のためには致し方なかったのも事実。そんな感じで近衛兵は答えました。愛らしい口元から一つ小さくため息を吐いた聖女様は一つの事に気が付きました。


「ちょっと待って。魔女? あの森に住むのは『男』の魔法使いではなかったのですか? この数年彼のことを聞くことはありませんでしたが」

「そ、それが」


 近衛兵はあの時の光景を伝えました。彼自身はこの玉座の間を守っていたため直接見たわけではなく又聞きです。まだ十代半ばとしか思えない背の低い少女が突然城内に現れ、連れていた黒猫が人語を話し、黒豹に変化し、そしてこのお城最強の女傑を倒したこと。異常な事態であったことは完全に国外にいた聖女様にも伝わりました。


「なるほど、ちょっと私はこれから王に掛け合ってきますね。お通しいただけますか?」

「え、ええ勿論。聖女様でしたら何の問題もありません。王と掛け合う、ですか……?」

「はい。あの森に住む者が関わっていると言うのでしたら、魔法に通じた者が必要でしょう? 王子奪還に私も協力させていただきます。ただ、報酬に関して申しておきたいことが」


 近衛兵は、さすがは聖女様だ、と思いました。聖女様がもし王子様を奪還したのであれば、彼女も女性ですから報奨金と、それと王子様との結婚が約束されます。ですがそのような世俗にまみれた報酬を受け取ってしまっては信仰と国威に関わるかもしれません。きっと断るのだ。何とも思慮深く、人々の規範である存在であることか、と敬意を払います。ところが。



「報奨金、結婚の代わりに、私好みのおじさまを3ダースほどで王子を奪回すると」


……


……え?


 その神々しいお姿を一目みたい、とやってくる信仰心あふれる人々がたくさんいる存在の口から出るとはとても思えない一言。

 この御方は王子様が法術を習いたいと申し出た時に一蹴したのは、内々に秘めた野心を見抜いた、と言うことではなく単純に王子様のような若造には興味がなかった、ただそれだけ。今回も各国巡礼という表向きの目的をさておいて、各国の聖女様好みのおじさま探しをしていたくらい、意外なことに彼女は中年の渋いおっさんが好みです。純潔とかそういうのは関係ありません。ちなみにこの国の王様は既に陥落済です。


 あんまりにも美しく爽やかな笑顔で答えた聖女様は扉を押し開けました。きらきらと金糸の髪が光に照らされて、その透けるような淡青色の瞳は希望で満ちてます。近衛兵はその顔に見惚れて、その言葉を理解するまでは随分と時間を有しました。

 そして言っていることがおかしい事に気付いたころには既に聖女様は御付の騎士も無しに玉座へと乗り込んでいました。


「せ、聖女様……?」


 扉の前に立つ近衛兵の言葉が空しく響きました。



 第十二話 ~原案~ 八束様

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