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第十話 「認める事も大切です」

第十話 原案:クロクロシロ様

 恥ずかしながら天才の僕が、魔法使いに接触できるせっかくのチャンスを生かせなかった。もうそれだけでも忸怩たるものなのに、その日は間違いなく人生の中で最悪。王宮お抱えの占い師に見てもらったらきっと今は僕の天中殺や大殺界なんじゃないだろうか。


 それはいいんだけど、次の作戦を考えていた時、その子が現れた。

「その子」というのが相応しい。女性っていうには幼すぎる印象だった。


 おいおい衛兵さん。無能だ無能だとは前から思っていたけど、こんな小猫連れの子供の侵入者まで許しちゃうわけ? まあいいや。ここは爽やかで人望も厚いすてきな王子様のまま、優雅にお相手いたしましょう。


……それがすべての過ちの始まりだなんて、その時は思いもしませんでした。


 護身具の一切を持たず相手に歩み寄るなんて、これから先は絶対しない。僕も平和ボケしていたんだって思い知らされてしまった。だってまさか、初対面の女の子が出刃包丁片手に僕の前に現れるなんて、考えていた最悪のさらに斜め上。そして第一声が

「……王子様、私の家に来てください」

何の冗談だと。僕の目の前で繰り広げられるイリュージョン。さすがに天才の僕でもこの超展開にはついていけそうにない。戸惑っているとさらに一歩女の子が歩み寄ってきた。


 痛っ


 ニコニコ笑ってるけど包丁の切っ先、ちょっと刺さってない? ねぇ、どう見ても先っちょが僕の服に飲み込まれてるんだけど!

 これはもうお願い、依頼じゃない! 明らかに脅迫だ。一国の王子としてそんな要求、自分の命がかかっていたって従うもんかっ。そして次が僕の返答。


「よろこんで」


(あっさり従いやがった!)

(動揺しすぎて意に反したことを口走るなんて意外と凡夫なのね)

(まあまあ、それが人ってもんですよ。結局自己の保身を成立させなくてはこの先の夢の実現すらままならないのが現実ですから。“所詮”王子と言っても人の子ですよ)


 ふっ 周りの愚図が何て言おうとかまいやしない。僕はこんな危険な状況にあっても決してチャンスを見落としたりしない。ここが僕が非凡たるゆえんなんだよ、まあ言ってもわかるわけないか。

 

 従うしかないじゃないか! だってあろうことか、猫が喋ったんだよ?

 マジカルだよ! 些細なことかもしれないけど、魔法を感じずにはいられないっ

 しかもその猫、その女の子に『魔女なんだから魔法を使おうよ』って言ったじゃない?


 もう確定だ。確実にこの子こそ僕が会おうと思っていた魔法使い! 確実だ! 凡人が魔法使いを探しに森に行っても、住まいも分からない、ルートもわからないでは遭難するのは確実。そう、シャンパンを一気飲みしたら曖気おくび(注:げっぷ)が出るくらいに確実!


 まさか向こうから来てくれるなんて! こりゃ、ついていくしかないねって思った訳。


 え?


 猫が喋りだす前にもう魔女の要求に従ってないか、って?

 気のせいじゃない?

 だって僕は完璧だぜ? そんな情けないことするわけがないっ


 とにかくその子、出刃包丁突きつけて、恍惚としていた。僕の顔見てどう? みたいな表情してるし。意味わかんないって。

 それともあれか、魔法使うための何かの儀式?

 あ、なるほど、そういう事かっ トランス状態ってこの事か。いつの間にか黒豹が居るし! 魔法だ! とうとう直に魔法を見ることが出来ました!

 つーか、衛兵達の情けないこと情けないこと。たかが黒豹一匹にびびって僕を助け出せないなんて……

 い、いや違うよ?

 助けられちゃ僕の目的が達せられないから困る! だからこれで良いんだけど!

 部下の錬度の低さは上司として気になるじゃないか。

 べべべべべ、べつに助けて欲しかった訳じゃないよ?


 とまあ、こんな具合で拉致さ…… 同行することになりました。念のため言っておくけど任意でだから! でもトランス状態の魔女の持つ出刃包丁、ちょっとずつ刺さり方がえげつなくなってきてます。このままだとぶっすりと来る! さすがにこれはまずい! 誰か魔女を正気に戻して!

 そんな風にさりげなく困っていたところに途中で知り合いが駆けつけてくれたんだ。


 それがアルファーネ。僕を取り巻く愚図どもの中でも、少しだけマシな奴。

 それにこれだよ、これ! 女性っていうの! 比較にあげられないけどやっぱりこの魔女はまだまだお子様だね! だけど僕は正直コイツ苦手だ。たとえどんなに器量良くスタイル抜群で、何をさせても絵になる存在だとしても、No thank youだ。

 僕の許嫁という立場になってるんだけど、はっきり言ってウザイ。べったりくっ付きたがるし。

 何よりも許せないのがさ、ぼくより強いんだ。

 師範より強くなった僕が勝てない姫様? 立つ瀬がないなんてもんじゃない。ここはどこの女帝国家ですか? いや、それも剣持った僕を一度の手合わせで百回くらい殺せるんじゃないかってくらいの豪傑。それも、素手でっ!


 何その人類規格外。

 外見美人の中身ゴリラ女!


 とまぁ、真に残念ながら(?)この雌ゴリラ、もといアルファーネ相手じゃあ黒豹君も敵じゃない。

 熊とかドラゴンとか平気で殴り殺すしね。殴り殺していいドラゴンなんて居れば、の話だけれど。今じゃ数もとても少なくなって、ドラゴン自体が人間に歩み寄って共存の道を模索している最中。とても友好的なんだ。手を無闇に上げようものなら人からもドラゴンからも非難にあって社会的に殺されてしまう、危険な情勢にあるんだ。いや、この際どうでもいい。

 魔法を学びたかったけれど、このままではDeath or Dieだ。出刃包丁からは何も学べないってことで、諦めますよ。


 そう、今だからこそ、言えるよ!

 君は素敵だ、僕は君となら結婚してもいいっ!

 だーかーらー、助けてアルファーネ!


 そう、彼女にケンカで勝てる相手なんて無い。


……そんな風に思っていた時期が僕にもありました。



 だけど、僕の後ろで包丁を持っていたのは、魔法使いだったんです。





第十話 原案:クロクロシロ様


 王子に一言。美人さんを無下にしてるんじゃねえよ、若造がっ!

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