第一話 「思いはちゃんと伝えましょう」
他サイト様にて、三年ほど前に参加しましたリレー小説(未完のまま放置されています)を大きく加筆修正してお届けいたします。
第一話 原案:アグァ・イスラ(水島 牡丹)様。
ある所に、魔法使いの女の子がいました。
その女の子には名前はありません。
ずっと魔法の森の奥に住んでおり、人とはあまり会いません。
魔女の家には一匹の黒猫の使い魔、ピエトロがいるだけです。彼女の話し相手はこの黒猫一匹だけ。だけど寂しいなんて思うことなく暮らしていました。
そんな彼女が住む森の奥に、ある日一人の青年が迷いこんできました。
森の奥に人が入ってくる時は決まって面倒事が起きることを何度も経験してきた彼女は、青年がさらに森の奥深く、自分と使い魔のお家のある所にまで入ってこないよう、森から上手に出られるようにそっと魔法で手助けをしてあげました。魔法のホウキに乗って空から目印を落とし、木々の並びを変えます。青年が彼女の存在に気付いたりしないように注意して、自分で道を見つけていると思い込むように、知らず知らずのうちに森の外へと導きます。
「それにしても、どうしてこんな森の奥にまでやってきたのかしら。狩人や木こりだったらこの奥に入ってはいけないってことくらい知ってるはずなのに」
それならこの青年は狩人や木こりではないはずです。狩人や木こりでないのなら、一体彼は何者なのでしょう? 彼女の心にこの青年への興味がわきました。青年はきれいな顔立ちで、身に着けた衣服もとても上等な物に見えました。赤錆色の短めの髪も艶があって手入れされているようで、野暮ったさはありません。自然と匂い立つ優雅な雰囲気とそのミステリアスな彼の素性に、女の子の心は短い間に知らず知らずのうちにどんどん惹かれていきました。
日が暮れるよりも前に青年は森から出ることができました。森から出るやいなやきれいな顔立ちの青年は何人もの人々に取り囲まれ、ひかれてきた白馬に乗って帰っていきます。どうやら只者ではないようです。不思議に思った彼女は、その青年の後をそのまま魔法のホウキで追いかけました。追いかけていった彼女は青年が入っていった建物を見て正直驚きました。なんとそこはお城だったのです。
見目麗しい青年。
上等なお召し物。
取り巻きの人々。
毛並みの整った白馬。
入っていったのはお城。
これらのことから導き出される答えはひとつ。
この青年は、この国の王子様。
そして彼女は、一つのことに気が付きました。青年に恋をしているのだ、と。
魔女である自分と、次期国王であろう青年。
何とも不釣り合いです。普通に考えれば諦めざるをえない身分の差。身分の差どころか、魔女は恐れの対象で、むしろ存在を疎まれるくらいのものです。普通なら叶わぬ恋と諦めるところです。
ですが彼女はれっきとした魔女。普通じゃありません。彼女は青年を自分のものにしたくなりました。なんとしても。彼女にとって空気はあくまで吸って吐くもので、読むものではありませんでした。
不可能だ、と言われたらむしろチャレンジしたくなる。そんな厄介な反骨精神を宿した女の子が一生懸命考えます。
「どうしたら良いんだろう?」
いっぱい考えて、彼女は一つの答えにたどり着きました。
******
数日後、魔女はその青年のところへ行くことにしました。魔法のホウキに跨ってお城に向かいます。高い壁なんて空からの攻撃に何の役にも立ちません。まんまと城内に侵入した女の子は、さらにお城の中でも警備の甘いところを見つけて忍び込みます。すごい手際です。そしてどこでこんなスキルを身に着けたのかと誰もが疑問に思うほど、とても素人とは思えない身のこなしでした。
そのまま誰かに見つかる事無く王子様のところに向いました。どこの部屋に王子様がいるのかなんて知りません。ですが恋の嗅覚に頼って一直線に向います。お付きの黒猫ピエトロは、いつお城の人に見つかって叱られたりしないかと気が気でなかったのですが、ラッキーなことに誰にも遭う事無く一つのお部屋にたどり着きました。扉を押しあけると、その先に広がる大きな部屋には大きな窓辺から外を見ている青年が一人いました。
整った顔立ち、上等な召し物。そして短めながら艶のある赤錆色をした髪。
恋は本当に魔法です。ここは王子様のお部屋でした。
一発で目的地を嗅ぎ当てた不法侵入の女の子に対しても、王子様は丁寧に声をかけました。
「君は誰だい?」
彼女は思いついた、とてもいい考えを披露します。
懐に手を差し入れると何かを取り出し、にっこりと微笑み、恋する乙女の眼差しを王子様に向けて、胸の高まりを一生懸命に抑えながらゆっくりと、一言一言聞き取りやすいよう口にします。
「王子様、私の家に来て下さい」
彼女は何の捻りもなくそう言いました。色んな小細工などしない。この想い、ストレートに包み隠さず伝えるべし。いつだって乱戦を制するのは戦力を集中した部隊による強行突破。
しかし、どう見てもこの場合大敗することが目に見えています。普通に戦死です。草葉の陰から後に続くものを見守ることになるのがオチです。
ところが王子様は喜んで直ぐに従いました。ミラクルが起きたように思えますがそうではありません。こうなるのが当然でした。
なぜなら、魔女の手には鋭い、凶悪そうな刃物が握られていたのだから。
使い魔である黒猫が言いました。
「ご主人、魔女なんだから魔法を使おうよ。媚薬を作る時間なら十分にあったじゃない」
「あら、ピエトロ。魔法を使うだなんてそれはフェアじゃないわ。魔法で従わせるなんて恋ではないもの」
「……ご主人、これも恋じゃないよ。分かってる?」
王子様は、魔女の女の子を前に、両手を挙げて震えています。
どう見ても彼女の行き着いた考えはただの脅迫。如何なる時代でもアウトな物。それを採用することは人間としてどうかと思われても仕方がありません。でもそれもすべてたったの一言で片づけられてします。
魔女だから。
彼女は、魔女なので殺人も人攫いも、特に気にしません。
下手の考え休むに似たり。結局何も考えていないに等しい彼女の行動を咎めることは誰にもできません。
なぜなら彼女は魔女だから。
さぁ、彼女の想いはちゃんと王子様に伝わるのでしょうか?
原案:アグァ・イスラ(水島 牡丹)様。
すべてはここから始まりました。何故か創作意欲がガンガン湧いたあの頃……
参加された皆様と音信不通になってしばらく経ちます。皆様今どこに行かれたのでしょう。もしご覧になっていらっしゃったら、連絡お願いします。




