秘密がいっぱい・2
「沈徳宣めは、スルギの同情を買おうとしているのかも知れんな」
「そうでしょうか?」
「身内の恥も、己の過去もあれこれ告白して、気を引こうとしているかもしれん。だとしたら、やはり用心せねばならんな。スルギが『可愛そう』と思うのは要注意なのだ。私自身がそうやってお前の気を引いたのだから、間違い無い」
そうであったろうか?
別に可愛そうと思ったわけでは無いような。ああ、でも「お幸せでは無さそう」「お辛そう」とは思ったかなあ……案外、そうした事は自覚できない物なのかも知れない。
それにしても色々な廷臣が沈徳宣に正室なり側室なりを寝取られているわけで、はっきりしている隠し子は三人。それらしき子供はまだ他にいるようだ。
「良い加減にせぬと、あやつ、寝取られた亭主どもに嵌められて、死ぬ羽目になるな。それを悟って、救いの手を求めているとも考えられなくも無い」
「はああ、だから生まれ変わりました発言ですかね?」
「良く腹の読めん奴だが、スルギの魅力に参っているのは確かなようだ。だが、くれぐれも油断するでないぞ。どんな女も閨に誘い込んで見せると豪語していたような奴ゆえ」
「今日はひたすら親切に、騎撃毬の教師と介添え役に徹してましたけれど」
「お前には浅はかな策略は通じぬから、真心を見せようと言った所だろうよ。教師としては、どうだった?」
「教え方が上手いと思います。私と馬の癖を良く見て、それに対する対策を考えてますし。韓都事も上手いですが、ああ、あの人今、検詳でしたね。御役目も有りますから。無役の徳宣ほど、ゆっくり教えられないです」
検詳って、本当に忙しい役目みたいだ。うううーん、そうするとどうしても先生役は徳宣がやる事になっちゃうのか? 徳宣に張り付かれると、他の人との交流時間が減るわけだが……あんまり好ましくないな。
「見目良く、細やかに気がつき、食うに困らず、暇があり、閨ごとに長けている。そういう奴だからな。もう、奴の話ばかりするのはやめよう。何やら腹が立ってきた」
「御不快ならやめましょう。せっかくの二人きりの時間ですもの」
「私は小心者だからな。それに焼餅焼きなのだ。知っているだろう?」
「そうなのですか?」
「今凄く、焼餅を焼いている」
「まあ、私の気持ちは正邦様一筋です。あのような男とは比べ物になりませんのに」
「それを聞いて、非常に嬉しい」
「そうですか?」
「そうだ。自分に自信も無いから」
人を見る眼は十分お有りだし、細かい気配りも出来る方だ。御本人曰く「国王より、補佐役向き」だそうだが、色々悪条件の揃う中で、国の舵取り役を立派に果たして居られる。派閥抗争ばかりやりたがる困った連中を、ともかくも使いこなして、行政機関を機能させているのだ。破綻した財政も、立て直せる方向性が見えてきた。
「悪い条件ばかり揃う中で、立派に国を導いておられます。私も、自分なりに出来る事で精一杯、お手伝いさせてくださいませ」
「歴代の国王より恵まれていると思う事は……スルギを得た事だな。表で様々に腕を振るってくれるだけでも有り難いのに、こうして共に夜を過ごしてくれて、王子も産んでくれた。誠にありがたい」
「私も、御一緒に有りたいのです。もう一人で眠るのは耐えられません」
「嬉しい事を言ってくれる……本当はな……」
「何でございます?」
「手に手を取ってお前と共に、成明をつれて、何処か他所の国にでも逃げ出したい。だが……やはり出来んな……私は小心者ゆえ」
「それは……小心だからでは無く、責任感が強くていらっしゃるからです。私はそう思っております」
「スルギ……」
優しい口付けが降って来る。どこまでも私を気遣うような優しい口付けが……。
「お慕いしております。心から」
「お前を……お前だけを愛している」
それから、互いの口付けは熱を帯びた。外の厳しい冷え込みとは無縁の、熱い時間はこれから始まる。