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出来る事から始めよう・3

「ええ? 騎撃毬の練習ですか?」

「うむ。今から頑張った方が良い」


 チームを作って下さるかと思えば、自分でチームにスカウトされるように頑張れだって?


「なぜまた騎撃毬の練習ですか?」

「スルギは、他の種目は大丈夫だからさ。練習している組が幾つか有るが、別に私が命じて編成したものではない。気の合った者同士でやっているのだ。なるべくなら、そうした仲間に早めに入れてもらえると一番良いのだがな」


 騎撃毬なんて、どっちかと言えば食うに困らない人の趣味か、武官志願の士大夫階級の若者がはげむものだ。


「武科殿試、受けなくちゃいけませんか?」

「うん。その方が女だとばれにくい」

「そうでしょうか? 練習しているうちにバレちゃったりしても、知りませんよ」

「バレたら、お前は後宮に入れる。中宮と同格の建物を作り、東宮の生母として皆に披露する」

「絶対バレますって……っていうかバレて欲しいのですか?」

「いや、そうではない。表で頑張るスルギを見るのは、好きだ。時々後宮に閉じ込めたくなるがな。まあ、私も気持ちは揺れるのだ。だが、表の方でお前の手腕が欲しいのも事実だ」


 何だか、正邦様はご機嫌がよろしい。私が困っているのに。


「あの沈徳宣に以前言われてしまいましたよ。『女の匂いがする』って。騎撃毬の場合、結構体が近づいちゃったりするじゃないですか。皆、変に思いませんかね」

「極端な話、誰もお前が女だと公言しなければ良いのだ。勘が鋭いものは気が付くだろうが、王である私の扱いを見ていたら、うかつな事は言うまいよ。騎撃毬を宮中で練習する連中は、誰もが私への忠誠心は強い筈だから」


 正邦様がおっしゃるには、武官たちには私の能力の高さを証明できるし、後宮のお妃たちは、武科殿試に受かるような者は女だと思わない筈だ……って事なんだけど。


「良いではないか。隋のころの木蘭のようで、素晴らしいと思うぞ」


 木蘭って言うのは、病のお父さんに代わって従軍した隋の時代の孝行娘だよねえ。別に、そんな差し迫った動機でもない筈なんだけどな。


「私が、お前の勇ましい艶姿が見たいのだ。お願いだ、見せてくれないか?」


 もう、変な所が、我が侭だ。

 最初が性別不明の状態で私と出会ったから、そういうイメージが強いのかな? 

 命令されると歯向かっちゃったかもしれないが「ぜひ見たいなあ」って、お願いモードの視線で凝視されちゃうと弱い。やっぱり、この方は私をよく御覧になっている。


「たった一つ心配なのは……お前に惚れてしまう武官が続出するだろうと言う事だけだ」


 買いかぶりすぎだと思うけどなあ。いやあ、ヨイショなのか?


 文科殿試の探花のくせに、忍びの名人で騎撃毬が得意と言う韓クンに言わせると「王様はさすがでいらっしゃる」と言うのだが、何がさすがなのか、訳が分からない。

 彼の説明によると、将来東宮位を占める王子の母親が、武官達と親しく、気持ちを掴んでおけば、不埒者の起こす反乱騒ぎやら宮廷クーデターやらに対しての備えが、ばっちり出来るって言うんだけどね。


「でも、それって、武官のみんなに好かれないといけないって事じゃない?」

「大状元は自然体でいらっしゃれば宜しんですよ。それで十分ですから」

「まあ、まじめに練習はするよ」

「まずは騎射を皆に見せる事と、見学と……ああ、そうだ。酒が良いです。あの、甘藷で作られた酒、非常に喜ばれると思いますよ」

 練習後に、皆にちょっと味見をさせろというのだ。

「酒の宣伝にはなりますし、酒好きが揃ってますから、口もほぐれるでしょう。後はあなたの魅力で、大丈夫」

 韓クンの言葉が非常にいい加減な安請け合いだと感じるんだけど、本当に大丈夫か?

「魅力って、何よ? え?」

「多彩な魅力がお有りじゃないですか。だから王様がぞっこんでいらっしゃるわけで。ああ、それはそうと、あのあなたが足蹴になさった沈徳宣が、武科殿試を受けるらしいですよ」


 何でも、泥だらけのよれよれで邸に戻ったところを、父上の右議政に見とがめられて、「武芸の鍛錬もしておけ」って御叱りを受けちゃったそうだ。文科殿試に合格しても今までずっとフラフラしていたが、今度は心を入れ替えて武科殿試を受けるらしい。もうすでに、殿試を受ける資格試験である覆試には合格してしまったそうだ。


「ヘナヘナして見えましたが、本気出すと、案外強いかもしれませんね、あの男」


 韓クンの見立ては、正しいのかもしれない。でも私には、心を入れ替えた沈徳宣って、ちょっと思い浮かべられなかった

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