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再び老いた宦官の呟き・2

 それにしても、賢い、いや恐ろしい方だ。私の昔しでかした悪事をどこまでご存知なのだろう? 薄々御存知の大妃様は、今でも私にはめったに口を利いては下さらない。それが普通なのだと思う。


「まあ、色々な考え方が有るでしょうよ。それでも私は人殺しは許せないよ」

 お笑いになった後で、生真面目におっしゃったその言葉が、あの方の信念なのだ。


「余が衆道に走っていると半ば信じている者は、多いのかな?」


 韓都事の一件以来、王様はその噂を気になさりながらも、面白がっておられる。だが、それも度を過ぎると宮中の廷臣どもに悪用されかねない。とりあえず、韓都事は上官の沈知宣に「王様は衆道には走っていない」と報告したそうな。そして、褒めるとも無く遠まわしに大状元を褒める作戦に出たようだ。


 王様は将来的に韓都事を、東宮様付きの廷臣として取り立てるおつもりらしい。


「いきなりと言うよりもじわじわと、かの方と王子様のことを皆に知らしめる方が宜しいのでは?」

 そう申し上げると、王様は遠い目をなさって、こう仰せになった。

「王子はともかく、中宮の位は塞がって居るではないか。ああ、だがな、それで良いとあれは言うのだ。表で出来る限りの事はするつもりだからな。余は、あれが思いのままに表で腕を振るう様を見てみたい。くれぐれも勝手な事はするなよ」


 王様のお気持ちは今の中宮様には、殆ど無いと私は見ているが、「勝手な事」をして、あの方を中宮に据えるのは宜しくないとお考えなのだろう。つまりは、王様も私の昔の悪事について承知しておられるのだ。


「沈の次男だがな、叩けば色々出て来そうだ。三男の方も何か有るかな? あれの親父がうるさい事を言って来たら黙らせる材料ぐらいにはなりそうな気がする。本腰を入れて調べておけ。後は、昌嬪と淑儀の実家もよく調べておいて欲しい」


 金昌嬪様と朴淑儀様の実家もそれぞれ有力な廷臣で、王子様の存在を明らかにした時ごねると困るのだ。


 特に金昌嬪様はかの方ほどではないにしても、まだ十分お若く、お祖父さまが領議政様であるため、世継ぎをお生みになりたいお気持ちが強烈だ。王様の夜のお渡りが途絶えているわけを、一番知りたがっておられるようだ。

 金家の場合は状元及第されて、若い頃から出世街道まっしぐらで官位官職を上り詰められたお祖父様に引き換え、父上や叔父上方の経歴や官位が冴えないのが悩みの種だろう。

「領議政の息子達は、凡百のつまらん連中ばかり」と言う巷の噂は、実に鋭い。それだけに昌嬪様は、お祖父様が御健在の内に事を決しておきたいとお考えなのに違いない。つまりは、今昌嬪様は相当焦っておられるのだ。


 逆に朴淑儀の御兄弟は粒ぞろいだ。お若いのに全員が実力で、議政府・六曹・漢城府といったあたりの重要な役職についておられる。

 父上である朴時烈パク・シヨル様は学者としては高名な方だが、貪官汚吏たんかんおりを憎まれる余り、さほど出世はなさらなかった。それでも、今度王様が御計画になっている 校書館の設立責任者のお一人になられた。「あの方」とは、非常に話が合うと愉快そうに御自身がおっしゃっていたので、将来的に朴一門は王子様のお力になれるかもしれない。


 校書館には歴代の国王のお書きになった文書や、重要な宮中の記録類、歴史的な記録、外交文書、そして実学関係の書籍を中心に集められる予定だ。


「あれは初代の提調とする」と仰せなので、いずれはそのように成るのだろう。提調すなわち長官の下に、多くの実学を志す人材を集め、この国を豊かに強くする知恵を結集させようと言うお考えだ。


 王様は張昭容様の御実家については、何もおっしゃらなかったが、果たしてそれで良いのだろうか? 翁主様が天真爛漫に「あの方」の「お友達」を自認しておられても、張昭容様の兄上・張季良殿は学者であるはずなのに高利貸で資産を膨らませたと言う方で、油断ならない。


 さてさて、どこから手をつけたものか……

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