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二つの顔・5

「余り不躾に見るではないぞ」

 正邦様は種明かしをしてしまったのだろうか?

「ははッ……」と韓クンは言ったきり、身じろぎもしない。

「どこまでお話なさったのです?」

「大状元は誠は女だと、教えた。無論一切他言無用だがな」

「韓都事が口を滑らせたら、王子も私も身の破滅ですね」

 私が冗談めかして言うと、韓クンは物凄く緊張した面持ちになって、ガバッと平伏した。

「私は絶対に、絶対に秘密を守ります。守れそうに無ければ、命を絶ちます」


 今、朝廷も後宮も緊張しつつも、微妙な各派の均衡状態のおかげで、一応は平和だ。相変わらず廷臣どもはやりたい放題賄賂取り放題で、この国の事なんて、本当はこれっぽちも考えてないような連中ばっかりだが。それでも、廷臣同士でいがみ合って流血の事態が続くよりずっとましなのは確かだ。


「私の存在が知られると、後宮が荒れるでしょうね」

「朝廷も大変でしょうなあ……」

「だから、秘密を守れと言っている」

「ですが恐れながら王様、ただお一人の王子様ですから……その、御側室腹でも世子様となられるべき方では御座いませんか?」

「これは側室などに出来ん。高貴の血筋故、後宮での位は特に授けない」


 つまりこの言葉は私が王族で、中宮・大妃様・大王大妃様に準じる扱いをするべき存在だと言っているのだ。しっかりネタバレしちゃうんだなあ。


「ですが中宮様がおいでになります」

「これの方が中宮よりずっと格上の王族なのだ」


 それは初耳だ。生母が大妃様の妹みたいだけど、父親は誰なのかわかんないからだ。


「ええ? そうなんですか?」

「スルギは大妃様のお話を軽く流して居ったな、さては」


 つわりで頭ががんがんする時に、何かお話が有ったけれど、あんまりちゃんと聞いていなかったかな……いや、大妃様の説明不足も有ると思うけど。


「これは考和大君様の唯一の嫡流の姫だ」

「えええっ! 孝和大君様のですか?」


 韓クンのたまげ方が、私にはぴんと来なかった。


 正邦様のおっしゃるには、私の実父も王族で明に使節として滞在した事がきっかけになって、有名な西洋かぶれになっちゃって、本当は跡取りだったのに親と大喧嘩して国を飛び出しちゃった人らしい。飛び出す時に幼馴染であった大妃様の妹を連れて行っちゃったようなのだ。前代未聞のスキャンダルだけど、飛び出した私の父は死んだ人間扱いになり、母は廃位された王の姫君と言うことで、こっちも公式の記録上は死人扱いなのだ。


「スルギの母上のお血筋だけでも今の朝廷では扱いがたいのだが……父上のお血筋がな」


 実の父親が孝和大君って言う人の直系のしかも代々嫡流の子孫だって言うのが大問題らしい。その孝和大君って人は過去の王族の中では最高ランクの位置づけで王室の御霊を祭る「祀堂」に今も祀られている。


 何でも、今から随分前の王様、二代目の方らしいが、その方の東宮だった方が考和大君で、すぐ下の次男に東宮の位をお譲りになったそうな。なんでも父上の本当の御希望をかなえるために、お気持ちを察知した孝和大君が自発的になさった事らしい。愉快な方であったようで、巷に色々と面白い逸話を残しておいでだが、一生三代目国王となられた弟君の廷臣たちから「潜在的脅威」として監視され続けた。だけれど、三代目様御自身は非常に義理を感じていたみたいで、兄を暗殺する事も兄の息子を殺す事も廷臣たちに堅く堅く禁じ、兄が七十過ぎて亡くなった後は「もうすぐ自分もあの世に行くのだし、あの世ではもっと仲良くしたいからキチンとお祀りしろ」と命じて、国王以外の王族では最高ランクの格付けでお祀りする事にしたんですと。


 でも、私の父の家出以降、結局、家は絶えてしまったそうだ。


「と、言う事は、こちら様の父君様は、二代目様の御嫡子の御嫡流。つまり……」

「本家の嫡出の姫と言う事だ」


 二代目様は神格化された名君であらせられる。普通の王様より偉いのだ。


「と言うことは、あの、王様の秘密の文箱の中身だと噂される内容は……」

「三代目様の御遺言か。実はなこうした内容なのだ」

「わ、私などが承って良い事でしょうか?」

 韓クンはあたふたしている。

「お前には将来、成明の傍で頑張ってもらおうと考えて居るので、良いのだ。ああ、無論これも他言無用だぞ」

  

 五代目以降になって自分の子孫が愚かで不出来な王なら、孝和大君の血筋に王位を返せ。娘しか居なければ、中宮とし、その子に王位を継がせよ。それが適わない事情が有る場合は然るべき者を夫に迎えさせ、家を継がせ、子孫を王族の筆頭とせよ。


 ざっとそんな内容らしい。中宮に公主しか生まれなかった時は、どうする気だったのかね? それに、今みたいに中宮が既に居る場合はどうするつもりだったのかな? 三代目様の死の間際の直筆の遺言らしくて、アバウトな事しか書いてないみたい。

 

 韓クンが引き取ってから聞いた話では、以前宮中に来たばかりの頃、御風呂に入る許可がすんなり下りたのは、判内侍府事には私が孝和大君様の直系らしいと見当がついたからなんですと。あの御風呂は元々祀堂の沐浴のための設備なんですって。私みたいに毎日御風呂に入りたいって感覚じゃないんだな。この国の大半の人は。


「判内侍府事は私より先にスルギの素性に気がついていたのだな」


 その話を聞いてやっぱり判内侍府事は怖い人だと改めて思った。


 

譲寧大君て言う方のことが元ネタです。

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