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気ぜわしい毎日・1

 ヤンホ兄さんと共同で交易船を仕立てたいと言ったら、正邦様がお手元金を下さった。


 交易ルートはこうだ。まず、わが国の特産品で評価の高い人参を直接倭国に持ち込んで売る。代金は金で受け取り、琉球を経て今度は清に向かう。清にはヨーロッパ経由で大量の新大陸の銀が流入していた。この国や倭国の金銀比価はせいぜい金1に対し銀は7から8程度なのに対して、清の西洋の船が入る貿易港の周辺では金1に対して銀はなんと15になっているらしい。

 わが国では銀はもっとも決済で重宝される。これを利用しない手は無い。


「ええ?そんなに金と銀の比率が違うのか」

 ヤンホ兄さんは驚いていた。

「清の使節にくっついてきた連中と、幾人かの清の商人に確かめたから、間違いないわよ。倭金は上質だから、西洋じゃ評価が高いみたいだしね」

 倭国で得た金を大量の洋銀に交換すると同時に、抜かりなくこの国で非常に喜ばれる清国の縫い針と生糸も仕入れて、戻る。更に洋式の樽を仕入れてもらった。国内では樽を作る技術が途絶えていたからだ。幾つかの実験に使えそうな機器や、蒸留装置のアランビックとか蘭引と呼ばれる物を購入してもらう。


 一月もすると無事に船が戻った。良い通訳、良い水夫をスカウトしたのが成功の鍵だろうか。いや、それともあの天使のおかげでラッキーだったのだろうか?


「なんと言うか、純粋な利益がもとでの五倍だな。清国の針の売れ行きも凄いから、もう少し上積み出来そうだ」

「じゃあ、お手元金分に二割上乗せした分だけ、私に返してくれれば良いわよ。その代わり、人参の仕入れはきっちりと固めておかないと駄目よ。余りケチらない事。目利きの出切る人材を使いこなす事ね」


 明経科に籍を置き、天気の研究に熱心な人と、西洋の学問に強い興味を持つ幾人かの学者を、ヤンホ兄さんと引き合わせた。まあ、何と言うかブレインと言うわけだ。


「珍しい本を仕入れてくれると嬉しいなあ」とねだっておいたので、西洋の医学書が幾つか手に入った。


「これ、本当に食えるのか?」

 途中立ち寄った琉球と清で、タイプの違う甘藷、つまりサツマイモを仕入れてもらったのだ。

「まずいお粥より絶対おいしいわよ」

 

 五、六個をヤンホ兄さんの店で蒸して、店の者達に食べてもらった。


「栗のような味で、なかなか美味いです」

「甘くておいしい~」

「飢饉の時もこれが食べられるなら、心強いですね」


 このところ街にでる時は判内侍府事の腹心で、一番の使い手のムセンさんについてもらっている。そのムセンさんも、無言だがおいしそうに食べてくれた。この分なら救荒作物としても、広めやすいかもしれない。


「この甘藷の俵、全部貰っていくわ」

「上手く苗が出来たら、また、教えてくれな」

「任せておいて~」


 ヤンホ兄さんの所の人足を借りて、王宮まで運んでもらう。兄さんは、無事に御用商人の仲間入りをした。主に宮中へ薬草類と酒を納めている。


「兄さんもすっかり御用商人だね」

「金状元様は、しばらくおやすみですか?」

 少しでも人目がありそうなときは、兄さんも心配して、こんな呼び方をする。

「うん。諸々が無事に済んだら、また来るわ」


 諸々の筆頭は出産である。それまでは、のんびり宮中で芋でも研究する事にする。幸いダブダブした衣装のお陰で、目立ってきたお腹もさほど目立たないようだ。


 今現在は内侍府に籍を置き、位だけは正二品とやけに高いが、官職は無い。「大状元」と言う一代限りの称号を貰い、位に応じた年俸を保障されただけだ。


 百官が居並ぶ中で「三つの特権を認めるが何がよいか」と尋ねられたが、まあ、これは事前に調節済みなので茶番なのだ。でもパフォーマンスは必要だ。少なくとも頭の固い爺様連中に、飲み込んでもらっておかないと。


 二つは、私が希望したものだ。一つはこれまで国王も不介入で読まなかった編纂中の芸文館の歴史書や、国子監の特別な秘蔵書も含め「国内全ての書物・公文書の閲覧許可」で、もう一つは相手が国王以外ならいかなる高位高官であっても「土下座無用・処罰不能」の特権だ。


「残るもう一つは、思いつきません」

「ならば、いかなる場所であっても、そちが必要と感じれば周りの人間全てに、余の代理として命じる特権を与える。特に人命に関わる場合は、いかなる人物も金大状元の指揮・命令に速やかに従うように」

 

 それに対して百官は大いに騒ぎ立てたが、王はこう言って振り切った。

「これの命令が人倫にもとる破廉恥なものであるとか、私利私欲を満たすためとか言うものならばともかく、そのような事は言うはずが無い。万が一そのような不届きな事があれば、余に直訴せよ。余がこれに適切なる罰を与える事を約束する」

 それで一応、皆は不承不承引っ込んだ。


「まあ、思い切り位の高い暗行御史のような者と、さよう心得ろ」と小さめの声で王が付け足すと、幾人かの高官が顔を顰めた。暗行御史と言えば国王直属の特権を持った監察官だ。

 変装して内偵の後、正体を現し、官吏の不正や冤罪をただすので、後ろ暗い人間は怖がっている。

 ひかえー、ひかえー、とやれる訳だが、まあ、当分はそんな派手な事はしない予定だ。


 まずは、お産だ。だがしかし大丈夫だろうか?

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