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街中で

 龍頭会主催の酒宴も、相当に席が乱れてきて、酒に弱いものは寝込んでいるし、妓生にしつこく絡んでいるのもいる。そんな中、女将がそっと寄って来て、奥で話そうと耳打ちした。


「おおおっ! 金状元、美人女将と割りない仲でいらっしゃるのか? これは隅に置けんなあ」


 ベロベロに一見見せているが、さほど酔っていないこの男は、今回の殿試ではナンバースリーの「探花」だ。


「韓探花、酔ってらっしゃらないのに酔ったふりとは、お人が悪い」

「状元の君に『韓探花』なんて言われてしまうと、めげるなあ。酔ったふりとは言いがかりじゃあるまいか?」

「医者ですからね。目の動きと呼吸でそう判断するのでして」

「あーあ、状元殿は医者でもあられるのだな」

「ええ。しかも内侍ですし。だから女将の健康相談なんかも受けてるのですよ。素人の男の方はあちらへどうぞ」

「ちっ。そんな具合じゃ出世しないぜ」

「別に王命で、受験しただけですよ。さあ、あちらへ」


 とりあえず追い払ったが、気になる男だ。

 女将は本当に酷い腰痛持ちではある。腰から足先にかけてしびれや痛みも有ったりするので、ヘルニアなのかもしれない。針を打ってお灸をする事ぐらいしかできないが。


「骨の中の大切な部分が飛び出してしまったのだと思うけれど、この国では体を切り開いて飛び出した部分を直すなんて無理だからねえ」

「ええ? 獣か魚みたいに人の体に刃物入れて切るの?」

「そう。そのためには痛みを感じさせない特別な薬や、物凄く切れ味の良い小さな刃物、傷口を縫う特別な糸、なんかが必要なんだけど何にも無いから、無理だけどさ」

「腰は痛いけれど、そんな、刃物で体を切るのはいや。でもまあ。スルギちゃんがそれしか方法がないって言うなら、治療が出来るようになったら頼むかも。だって毎日辛いもの」


 背中と腰にお灸をすえ、湿布を張りながら、話をする。


「ねえ、スルギちゃん、ほんとのホントに科挙を受けちゃったのよね」

「ほんとのホントよ」

「王様が御命令なさったの?」

「そうなの。今は私が女だって言うのは厳重に秘密にされているの」

「うちの子たちは、みんなあんたに恩義を感じてるし、口も堅いけれど、こう言う事はどこから漏れるかわかりゃしないわ。十分気を付けてね」

 

 お灸が終わって一緒に茶を飲んでいると、ヤンホ兄さんが来た。すると女将は気を利かせたように席を外した。


「なあ、金状元なんて呼ばれるようになっちまって、危なくないか?」

「でも、身元を疑われる事は減るかもね」

「だが、男の目を甘く見ちゃいけないぜ。どういう成りをしようが、お前は綺麗だからさ、どうしたって目立つ」

「ならいっその事、めちゃくちゃ目立つ方が安全だって、考えも有るよ。それに状元になったのに官職には着かないで医者をやるって言うと、士大夫の御歴々はほっとしたみたい」

「お前になら、立派なお役目も勤まりそうだが……」

「この国の政治は裏金で動いてるんだよ。だから資産も無い私じゃあ色々無理がある」

「何だよ、お前の口から、そんな俗な答えが帰って来るとは思わなかった」


 兄さんは儲けのためなら汚い事も耐えるが、本当は嫌なのだ。


「この国の政治なんて俗だよ。そんな中で自分だけ清らかにしていても、はじき出されてしまう。下手すると反対派に始末されちゃう。清や南方との貿易で、儲けたりしたら、裏金のやり取りも困らないんだろうけどなあ」

「じゃあ、お前にちょっとばかり資金を提供しようか?」

「ええ? それ本気なの兄さん」

「ああ。お前大妃様の御身内なんだろ? 俺が宮中の御用商人になるのに、悪くない繋がりだと思わねえ?」

「うん。だけど、当分は私は身を内侍府にひそめてるよ」

「だが、そのうち女官に上がる。なあ、王の御手付きになったら教えろ。俺も、その、この前の話で覚悟は決めたんだがな」

「……それがねえ」

「なに? もう、御手が?」

「あの梅里様が王様なのは、わかっていたでしょう?」

「ちっ、やっぱりそうなのか。あれか、御手がついたから宮中に行ったのか」

「うん。お腹に子供もいる」

「えええ!」


 どうやらひどく驚かせたみたいだ。


「兄さん、声が大きい」

「わりぃ」

「でも、王様の子供って、危険が一杯なんだよ。前の王子様の殺害犯は後宮に根を張っている勢力なのは間違いないんでね」

「ふうむ。お前『高南君』を地で行く気か。と言うか、そうさせようって王様が考えられたのか」

「たぶんね。状元の特権で、大半の役所の中に入り込めるようになったの。それに内侍なのに状元だと、どこで王と話していても、言い訳が立つ。便利ね」

「ふううん。まあ、お前が状元になれる奴だから、出来る事なわけだが」


 兄さんは私にこれから資金を提供してくれるらしい。代わりに私は情報とアイデアを提供するわけだ。


「お前が中宮様に納まっちまうかもな。あああ、俺、土下座しないといけないんだなあ」

「科挙なしで手に入る官職ぐらい、そのうち、見つくろうよ。中宮は空きがないけれど、子供が生まれたらどうしたって、側室にはなっちゃうんだから、そのぐらいは出来る」

「でも、表でいただく官位と、後宮での官位、どうなるんだ?」

「そんなの王様が適当になさるでしょう。ああ、でも、官位だけ高めにしてもらって、役職なしが良いかな」

「うん、その方が楽だし、ぼろが出ないぞきっと」


 部屋の外に女将の足音がした。


「ねえ、金状元様、皆さまそろそろお開きのようですよ」


 また、何食わぬ顔をして、お坊ちゃまたちの所に戻る事にした。

韓クンの設定、少し変えたので矛盾するところを削除しました。

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