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秘密の多い女・7

 昼間の内に割り当てられた部屋は独立した建物で、簡素ではあるが、置かれた調度品はどれも立派な物だった。あえて女の部屋と言うより、男の部屋に見えるようにした節が見受けられた。その証拠に座布団やクッションの類も上質だが、男の部屋用なのだ。もらった衣類も護衛の内侍、つまり宦官が着るような服ばかりだし……書籍類がどっさり有るのは、嬉しかったが……


「ここは男の部屋、と言うことで当分は通すのですか?」


 判内侍府事が様子を見に来たときに質問した。


「内侍府の役職者が休憩するための場所、と言う事にしてます。持ち物検査やその他厄介事が起りましたら、私の名前をすぐ出して下さい。どの派閥も大いに手加減してくれるはずです」

「とりあえず私を保護してくださる理由は何ですか? 」

「王のお気持ちがあなたの上にあるからです」

「それだけですか?」

「それだけです……と言っても、あなたは信じないでしょうな。あのような小説も書かれるのですから。さよう。あなたが我々から見て、王室にとって好ましくない存在にならない限りは、と申し上げましょうか。あなたにお子が出来るかどうかで、また色々条件は変わってきますからな……」


 どうやら現在、毒殺やら呪詛やら女官同士で色々有るらしい。つい先日も、女官が毒殺されたらしい。今ここで、私が新しい「王の女」と認識されると、確実に危険なのだろう。だから、この部屋を内侍の部屋に偽装するのだ。そりゃあ……気が休まらないはずだ。可愛そうな正邦様……


「今夜も承恩を賜る予定ですので、そのおつもりで」


 立派な寝具はそのためだと、納得した。お渡りは深夜になる予定らしい。


 一人で夕食を終えて、本を読んでいると女官長が一人でこっそりやってきた。


「お化粧その他は、いかがしましょう?」

 この部屋に化粧道具は無かった。

「また情勢が落ち着きましたらに致しましょう。なに、素顔でも十分すぎるほどお綺麗ですよ」


 その女官長の言葉を額面通りには受け取れない。だが、突発的に各派の権力者の命令で行われる「持ち物検査」に引っかからないようにして欲しいと言うのは、本当なのだろう。一番多いのは中宮様の命令だと言う。あとは前王様の中宮であった大妃様、大王大妃様、一番勢力の強い側室、一番古顔の側室、とまあ、色々らしい。それらの人々が自分より身分が低いと認定している人間の部屋を、調べるらしい。男の部屋だと言ってある部屋から、化粧道具が出てきたらまずい、そう言う事だろうか?


「お待ちする時の作法は、どのようにするべきですか? 」

「布団の中でお待ちになれば宜しいです。お子が出来ているかもしれませんし」


 うわあ。それはそうなのだ。布団に入って待っていてよいというのは、「お子」のための特別な条件みたいだ。今現在の王様の子供だが、中宮様には満一歳の姫君、四人の側室には二人づつの姫君が、それぞれ居るらしい。側室達は廷臣の派閥から、それぞれ後押しを受けている。中宮様は王族で、王様の又従兄弟かなんかだったはずだ。一応派閥的には大妃様と同じと見なされている。


 前王の中宮、つまり今の大妃様は王族、それも宮廷内のクーデターで廃位に追い込まれた先々代の王様の姫君だ。血筋としては先々代様のほうが本家で、今の王様の父君の前王様は分家筋だ。公式な記録では先々代は暴君扱いだが、いまだに学者や知識人を中心に「悪賢い奸臣に嵌められた薄幸の王」と言う見方は強い。ただ、幸か不幸か先々代様の御血筋は姫君しかおいでにならなかった。そう言う事だ。


 前王様は最初の中宮様との間に、正邦様を儲けられた。正邦様の御生母は産後の肥立ちが悪く、その年の内に亡くなられたので、次に先々代様の姫君を中宮とされた。この方が今の大妃様だ。前王は本家の娘を迎えて王家をまとめ、権威を上げようと考えたらしい。正邦様からすると、継母にあたられる。大妃様は王子をお一人、姫君をお二人お生みになったが、全員幼い内に亡くなられた。これは変といえば変に思われる話で……


「先々代様の御血筋を絶やそうという、廷臣どものはかりごとが有った」


 そんな噂が今も時折囁かれる。正邦様と大妃様は血のつながりは無いものの、関係は良いとされている。だが……本当の所は当事者以外判らない。


 本当に大変な所に、私は来てしまった。



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