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秘密の多い女・4

「この『高南君逸話集』と言う書物は、怪しからぬ中身の割りに、上質の紙に出来の良い版木で印刷されています。王室の秘事も窺い知る事のできる立場の何者かが、自分に不都合な人間を宮中から追放するために仕組んだ罠で御座いましょう」

「いかがわしい本のくせに、その内容が真実であると言わんばかりのけしからん物です。市中に流布するこのような悪書は没収、すぐに焼却するべきです」


 王の前で座り込んだ高官達は、口々にそのような事を大声で訴えたらしい。 

 それに対して王は、王子の死のいきさつが奇妙だと常々思ってきたが、この本の通りなら辻褄が合うと感じた。自分も一冊持っているが、焼却すると言うなら差し出す。作者はともかく、読んだ者まで罰してはならない。作者が誰か丸でわからないのだから、まずお前たちが自分で探せ。後の処分はそれからだ……と答えたらしい。


「この作者の話は面白い。悪書だとそちたちは言うが、宮中の女官もそちたちの夫人や娘・息子達も、恐らく読んでおるぞ。まあ、良く確かめてみよ」

 恐らくそれが事実だけに皆、震え上がったとか。そして 最後にこんな捨て台詞めいた言葉を残したらしい。

「そちたちが潔白なら、王子の死の真相を皆の納得いくように明らかにして見せよ。さもなくば、余も多くの読者同様、その『高南君』の言葉が真実に迫っているのだとつい、思ってしまう。もう読んだ故、余の分はそちたちに渡そう」


 この件に関してウチの店の常連の妓生達から聞いた話は、興味深かった。一流どころの妓生は、非常に情報が早い。ひいき筋のおかげで宮中の様子もその日のうちに、知る事ができるのだ。


「王様は『無名子』を密かに応援していらっしゃるのよ。だから『辻褄が合う』とか『面白い』とか仰るのね。本もお持ちだったようだし」

「座り込みなさった高官の方たちの御家族にも、熱心な読者は多いわ。ウチにおいでになる若様方は、殆ど『無名子』作品を楽しんでいらっしゃるはずよ」

「本の紙がとても上質よね。それに版木も出来が良いわ。『無名子』って人の正体が実は豊かで力がある証拠かしら? それとも偉い方が気合を入れて応援なさってるとか」

「どっちにしたって、面白いわよね。でも、取調べが有ったら、本を取り上げられちゃうのかもねえ」

「いやだなあ。私の愛読書なのに」

「ねえ、ねえ、王子様の御生母だった王様の御即位前の御正妃様も、毒で亡くなられたのかしらね」

「そうなんじゃないかと思うけれど、そんな怖い話、ここ以外でしちゃ駄目よ」

「密告されたら、良くて鞭打ち、下手すると縛り首よ」

「私たちは密告なんてしないけどさ、妓楼は色々な関係の密偵なんかが沢山出入りしてるのよ。用心なさいね」

「ふえええ、そうなの?」

「そうよ、上手に物陰に隠れて、内緒話を盗み聞きするんだから」

「本気で秘密を守る気なら、大事な話を妓楼でしたら駄目よねえ」

「それでも男って、良いカッコしたり、重要人物ぶってみせたり、寝物語でつい、とか、間抜けよね」

「学問があっても、身分があっても、みんな助平だし、一度でも閨を一緒にするとしつこいし」

「そりゃあ『君子、色を好む』だもん」

「あれ? 『英雄、色を好む』じゃない? 」

「あ、そうか。どっちにしたって男はスケベって事よ」

「アハハハ、それは間違いないわ」


 その会話を聞きながら、梅里様はどうなのか、非常に気になっていた。

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