アウトオブあーかい部! 〜部室棟 乙女の干物 集まりて 怠惰を極め 綴るは実績 電子の海へ あゝあーかい部〜 87話 黒くて、硬くて、苦いやつ
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなくあさぎのお隣さん、モーラの部屋。
「あ〜、腹減ったお昼お昼……。」
一般的な家庭用と呼ぶにはあまりにも大きい冷蔵庫を勢いよく開け放つ。
「お砂糖、スパイス……。」
何でお腹を満たそうかと冷蔵庫の中を見渡すと、隙間という隙間ににカップケーキがねじ込まれていた。
「…………素敵なものがい〜っぱい。」
これには思わず苦笑い。
「はいはい、現実逃避しないで食べますよ〜っと。」
モーラはここにいない誰かに言い訳するようにブツクサ言うと、乱暴にカップケーキをいくつか掴み取り、オーブンへ放り込んで温め直した。
「しっかし再現なんてできんのかねえ……母さんの味なんて。」
安い業務用食品を爆買いしてはあさぎに処理を手伝わせているモーラだが、今オーブンの中で甘ったるい香りを漂わせているカップケーキは市販のものではない。
「普通に娘からの手作りケーキってことにしとけば誕プレには充分過ぎるってのに……。」
焼き直されているカップケーキ達は、あさぎの母、瑠璃の誕生日祝いに出す予定の失敗作である。
これはあさぎから聞いた話だが、瑠璃の思い出の味は他でもない私、モーラ・コロル改め白久琥珀の実の母、白久雪のものだとか。
「いくらなんでも相手が悪いよな〜。」
自慢とか贔屓とか抜きにして、事実母さんの料理は都会の一等地の店と比べてもまったく遜色ない……むしろそれ以上ってレベルだ。
「……ん、こんなもんかな。」
オーブンの残り時間を待たずに目測で仕上がりと判断すると、オーブンの電源を落としてカップケーキ達を皿に持ってテーブルへ。
……と思ったところに、軽快なインターホンの音がしたのでキッチンに一旦皿を置いて玄関へ。
「誰だろ?……なんて、こんな時間に来るのは、」
ドアの覗き穴から来客を確認すると、あさぎとおんなじエメラルドグリーンの瞳と目があった。
『モーラちゃんいる?』
「やっぱ瑠璃さんか。」
来客があさぎの母、瑠璃であることがわかり鍵を開けようと手を伸ばしたところで、カップケーキ達の存在を思い出した。
「……いるけどちょっと待って!」
誕生日祝いの試作品が本人に知られるのは不味いので、慌ててキッチンに戻り皿ごとカップケーキ達をオーブンに捩じ込んでオーブンにはエプロンを被せ、隠蔽する。
「……ふう、これで良しと。」
玄関に戻ってドアを開けると、あさぎを10年程老けさせたような、凛とした女性が前に立っていた。
「もーいーかいっ♪」
「はいはい、もーいーよ。」
目の前の女性、瑠璃が顎を触り眉間に皺を寄せる。
「ノリが悪い……。モーラちゃん何か隠し事してる?」
「し……てないっ!してないっ!」
「そう?やあねえ、感が鈍っちゃったのかしら……?」
「ほら、用があるんでしょ?さっさと入っちゃって、ほら。」
大当たりだよこんちくしょうめ……!
と心の中で吐き捨て、瑠璃を招き入れる。
「お邪魔しま〜す♪」
「いちいち言わなくても良いのに。」
「モーラちゃんだってうち来るとき言ってるでしょ?」
「ま、そうだね。」
モーラは瑠璃をリビング通すと、1人キッチンに立った。
「で?瑠璃さん今日は何の気分?」
「やだ、急に来ちゃったのにリクエストなんてして良いの?」
「……そのつもりで来たくせに。」
「悪いね♪じゃあ粉物でもお願い。」
「ほーい。」
モーラがフライパンでお好み焼きを焼いていると、後ろからひょっこりと瑠璃が顔を覗かせた。
「どわあっ!?な、なに……!?」
「い〜や?甘〜い香りがするな〜って思って♪」
「甘い……?」
お好み焼きを焼いている側で出る筈のない感想にハッとする。
カップケーキか……ッ!?
「それで、フライパンでなんかやってるな〜って、ホットケーキの口で覗いてみたらお好み焼き焼いてるんだもん。」
モーラの肩を瑠璃の指の腹が這った。
「びっくりしちゃった……♪」
モーラは思わず生唾を飲んだ。
「デザートに焼こっか……?」
「え?良いの!?……なんだか催促しちゃったみたいで悪いね♪」
瑠璃がリビングに戻って一息つくと、やがてモーラが大きめのお好み焼きを完成させ2人で食卓を囲んだ。
「デザートは後で良いよね?……食べながら焼いちゃうから。」
「さっすがモーラちゃん!気がきくう♪」
「……瑠璃さん、そろそろ手料理とか作んないの?」
「う〜ん……あの子が喜んでくれるようにって思うと、どうしても出来合いのご飯になっちゃうし……。」
瑠璃は身の毛もよだつ料理音痴のため、あさぎを含め他人に振る舞う料理は出来合いのご飯を使うことにしている。
「そりゃそっか。」
「あの子は気を遣って美味しいって言ってくれてるけど、死ぬまでには美味しい手料理の一つでも振る舞ってあげたいなあ……。」
「振る舞えば良いじゃん。」
「でも、私の手料理ってなると、あさぎに世界に一つだけのおふくろの味を提供することになっちゃうから。」
「まるでおふくろの味が沢山あるかのような言い方するね。」
「モーラちゃんだって、少なくとも2つはあるんじゃない?」
「え"……。」
「やだなあ、とぼけちゃって。」
「あ、いや
「じゃあ今度モーラちゃんにお好み焼き作ってあげよっか?……黒くて、硬くて、苦いやつ♪」
「お、おふくろの味は間に合ってますんで……。」
「へぇ〜?」
瑠璃の口角が微かに上がった。
「妬けちゃうな〜?……そういえばモーラちゃんのおふくろの味って、どんなの?」
「……ッ!!?」
思わず咳き込んだ。
瑠璃さんは私が白久雪の実の娘であることを知らない。……モーラ・コロルで通ってるし。
あさぎの誕生日祝いを成功させるためにも、ケーキや母さんのことは死んでも隠し通さないとだな……。
「えっと……、美味しいやつ、だよ。」
「それは当たり前じゃない?私じゃないんだから。」
「自分で言ってて悲しくならないの……?」
「……泣いていい?」
「めんどくさいからやだ。」
「ツクツクホォォオ↑シ?」
「英会話風に鳴くのもダメ。」
「ツクシイィィィ…↓」
「ツクツクホーシでゴネないでよ……。っていうかさっきからなんで妙に解像度高いのさ……。」
「フフン♪子どもの頃練習したからね……!」
「誇ることじゃないしあさぎにそれ言わないでね?」
「あさぎにツクツクホーシを教えたのは私なんだけど。」
「今、初めてあさぎに同情したわ……。」
「羨ましいならモーラちゃんにも教えてあげよっか♪」
「全身全霊でごめん被る。」
「え〜……じゃあ代わりにモーラちゃんのおふくろの味、どんなか教えて♪」
「チッ。忘れてなかったか……。」
「ほらほら♪」
「え〜……。」
「あら、ゴネて私が引き下がるとお思いで?」
「はいはい、和食ですよ和食……。」
「なるほど?じゃあ今度はモーラちゃんのおふくろの味でよろしく♪」
「無理無理無理無理。」
「もしかしてモーラちゃん家の味って、一子相伝の苛烈な継承争いがあったり……。」
「したくてもできないの……!」
「モーラちゃんお料理上手なのに?」
「こんなの上手に入んないって。どこの国の飯もだいたい細かくして混ぜて焼けば形になるってだけだよ。」
「じゃあ上手なお料理って?」
「そりゃ、ミリグラム単位で配合にこだわったり、ダマがないようにきめ細かく混ぜたり、食感にメリハリをつけるためにナッツやクルミを入れてみたり、繊細な飾り付けで見た目にも拘ってみたり
「奇遇だね、私もちょうどお菓子のこと考えてた……♪」
「……ッ!!?」
しまった!?さっき何となしに話したヤツ、全部母さんの作るお菓子の……!?
い……いや、黒糖のことは言ってないし首の皮一枚
「やっぱり難しい料理っていったらお菓子だよね♪」
ダメだ、全部気づかれてそうな気がするぅ……ッ!?
「どうしたの?なんだか顔色が浮かないけど。」
「ああ、気のせい気のせい……。」
「そう?それにしても、モーラちゃん用意がいいよね♪」
「そう?」
「だって、急に粉物沢山頼んでも2人分作れるだけの在庫があるんでしょ?」
「た、たまたまだって
「そう?普通はこんなに抱え込まないけど……。お菓子作りの練習でもしてなければ、ね♪」
「……ッ!?」
あ、これ全部気づかれてるヤツだ……。
「……はあ。」
もう隠しきれないなと観念してガックリと肩を落とし、ため息を一つ。
バレてしまったが、あさぎのサプライズを失敗させないためにも、まだできることがあるとすれば……。
「瑠璃さん……、このことは」
瑠璃さんの目をまっすぐ見つめると、唇に指をそっと押し当て口を塞がれた。
「うん、もちろん秘密。……今度、あさぎちゃんにとびっきりのパンケーキ作ってあげるんだもんね♪」
勘違いしてる……?
いや、それとも全部気づいていて、この人は……。
「……、」
言葉の意図がわからず目を丸くしていると、瑠璃さんはそっと唇から指を離した。
「……口止め料、ご馳走様でした♪」
あ、やっぱ気づいてた……。
「……ははっ。とんだおふくろ様ですこと。」
「なあに?やっぱり間に合ってなかったの、おふくろの味。」
「い〜や、絶賛胃もたれ中。」
「そう?……私もお腹いっぱいになったしお部屋でごろ寝しよ〜っと。」
瑠璃は自分のお腹をさすったかと思うと伸びをしてそそくさと立ち上がり、モーラに見送られて玄関を出た。
「……ふう。」
閉めたドアにもたれかかると、またため息が出た。
「この分じゃあ、あたしが母さんの娘ってことも……。」
何気なしに口を出た『娘』という言葉で、瑠璃さんの娘が作った失敗作達の存在を思い出し、オーブンから回収する。
「……ほんとに自首すっかなあ。」
瑠璃さんの娘の味は、オーブンの中で黒くて、硬くて、ちょっぴり苦くなっていた。




