再戦、宇宙侍の矜持
夜明けの光が岩山を染める前に、銀河丸は立っていた。
再戦の申し込みを、宇宙律の規定通りにルミが行った。ゴーアは少し間を置いて言った。「面白い。来い、宇宙侍」
競技が始まった。
ゴーアが重力操作を発動した。
空間が歪む感覚があった。床が変わる。体が引かれる。銀河丸は——何も言わなかった。
眉一つ動かさなかった。
ゴーアがわずかに眉間の皺を深めた。
変化する重力の中、銀河丸は体で状況を読んだ。引かれる方向を感じ取る。流れを読む。感情ではなく、体の感覚だけで動く。それは江戸の道場で嫌というほど叩き込まれた「間を読む」感覚と同じだった。
ゴーアが重力の向きを変えた。左から右へ。
銀河丸は右に体を傾けた。無表情のまま。
ゴーアがまた変えた。
銀河丸が対応した。
「……なぜ動じない」
ゴーアが言った。
「別に」
無表情のまま答えた。内側ではかなり必死だったが、顔には出さなかった。
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中盤で、ゴーアが本気を出した。
重力の変化が速くなった。複数方向から同時に来た。四本腕を全部使い、空間そのものを握り絞るような力が来た。
銀河丸の体が限界に近づいていた。
呼吸が乱れそうになった。それでも顔だけは動かさなかった。
「お前は」とゴーアが言った。「なぜそこまでして戦う。この星はお前には関係ない星だろう」
銀河丸はゴーアを見た。
「関係あるかどうかは俺が決める」
「……何?」
「困ってる人が目の前にいたら、行くだけです。誰に言われなくても」
ゴーアが無言になった。
眉間の皺が、それまでと違う形に変わった。
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均衡が続いた。
どちらも崩れない。ゴーアの力は圧倒的だったが、感情を動かせなければその力が増幅しない。銀河丸は辛うじてポーカーフェイスを保ち続けていた。
そのままでは決着がつかないと思った時、ルミが動いた。
端末を銀河丸に向けた。音が流れ始めた。
声だった。
複数の、声。
「がんばれ」
ホシノ星の村長の声だった。
「あなたが来てくれたから今がある」
ミズホ星の長老だった。
「宇宙侍、お前ならやれる」
ガンドの声だった。
そしてミズホ星の子供たちの声。ホシノ星の住人たちの声。みんなが、銀河丸の名前を呼んでいた。
ポーカーフェイスが崩れた。
銀河丸の目が熱くなった。ゆがんだ。顔が——笑っていた。泣きながら笑っていた。
「……すまん」
声が漏れた。
「やっぱり俺、感情隠せないわ」
腹の底から何かが来た。
積み上げてきた全部が、一気にほどけるように——体が動いた。
その一手は、分析できない動きだった。
ゴーアが対応しようとした。重力を操作した。でも遅かった。銀河丸の体が重力の隙間に入っていた。ゴーアの四本腕が届かない位置に、もういた。
競技が決まった。
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静寂。
ゴーアが地面に膝をついた。
長い間があった。
「……強さとは」と、ゴーアが言った。声が静かだった。「こういうことか」
立ち上がらなかった。ただ下を向いていた。
銀河丸は何も言わなかった。
ゴーアが顔を上げた。その目の奥に——何か新しいものが生まれていた。怒りでも悔しさでもない、何か。
「俺は……なぜ戦っているのか」
その言葉は銀河丸に向けたものではなかった。自分自身に言っているようだった。
ゴーアが立ち上がり、背を向けた。
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ルミが来た。
「勝ったよ」
「ああ」
「ポーカーフェイスは全然できてなかったけど」
「分かってる」
「でも——よかったです」
その声は、珍しく柔らかかった。
遠ざかるゴーアの背中を見ながら、銀河丸はメットを手で触った。その瞬間、メットが微かに光った気がした。
ルミが端末に目を落とした。顔から表情が消えた。
「銀河丸」
「なんだ」
「ジゴクが——動くかもしれない」
空の向こうに、何もなかった。
でも、何もない場所に、何かがいる気配がした。
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