仲間の声
朝から端末が鳴り続けた。
ルミが受け取りながら読んでいく。画面から顔を上げた時、その目が少し丸かった。
「情報が来ています。ゴーアの競技の話です」
銀河丸が起き上がって隣に来た。
ルミが読み上げる。ホシノ星の村長からだった。
「重力操作競技は、精神的な動揺に対して特殊な反応をします。対戦相手が動揺すると、術者の力が増幅する構造になっています」
「動揺すると強くなるのか」
「ゴーア本人が動揺している場合も同様です。相手の感情の乱れを力に変える。そういう種目設計です。だから——」
次の連絡が来た。ミズホ星からだった。
「昨日の映像を分析しました。ゴーアは序盤、銀河丸が当惑する様子を見て力を増していました。逆に言えば——相手が動揺しなければ、その力は通常程度に下がります」
「落ち着いて戦えばいい、ということか」
「ポーカーフェイスです。感情を一切表に出さない」
ガンドが建物の外から入ってきた。「俺が分析した映像がある。見るか」
ルミが頷いた。
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分析は丁寧だった。
ゴーアは相手の表情を読みながら重力の変化を操っていた。銀河丸が驚いた瞬間に引き、戸惑った瞬間に押した。銀河丸の顔から感情を読んで、それを力に変えていた。
「なるほど」と銀河丸は言った。「だったら——俺が全然動じなければいい」
「そのつもりです。江戸の剣士は感情を表に出さない訓練をするんじゃないですか」
「する」
「じゃあ問題ないですね」
「……それが、俺が最も苦手なことだ」
ルミが固まった。
「苦手って——今まで訓練してきたんじゃないんですか」
「してきた。でも俺は元々、顔に出る方だ。師範に何度も指摘された」
ルミが天を仰いだ。
「それを今言いますか」
「だから練習が必要だ」
「……この一週間で身につきますか」
「やるだけだ」
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練習が始まった。
ガンドが相手をした。様々な言葉を言って、銀河丸の表情を動かそうとする。「お前は弱い」「ゴーアには絶対に勝てない」「ここで諦めても誰も責めない」
銀河丸の眉が上がった。
「今、眉が動きました」とルミが言った。
「分かってる」
「全然分かってないですよ。顔に出てます」
「今度こそ」
ガンドが言った。「銀河丸の顔は、江戸の川底みたいに透き通っている。そして深さがない」
銀河丸の口の端が引きつった。
「今度は口角が動いた」とルミが言った。
「それは怒ったわけじゃなくて——」
「表情に出てるということは同じです」
一日が終わった。
二日目も同じだった。
ガンドが「お前のおにぎりは世界で一番不格好だ」と言った瞬間に、銀河丸がムッとした。
「おにぎりを使うのはずるい」
「感情が動くポイントは徹底的に攻める」とルミが言った。「競技中にゴーアが同じことをしてくる可能性があります」
「おにぎりについて何も言わないようにしてくれ」
「それは甘えです」
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夜、銀河丸がひとりでいる時、ルミが来た。
静かに横に座った。
しばらく何も言わなかった。
「ルミ」と銀河丸は言った。「ジゴクへの復讐って、何があったんだ」
ルミが固まった。
長い間があった。風が鳴っていた。
「……言いたくない」
「そうか」
また間があった。
「でも」とルミが言った。
声が変わっていた。
「ヤミ軍が来た日——私の両親は、村を守ろうとゲームに挑んで……負けた。村ごと、連れて行かれた。私だけが逃げた」
最後の言葉は、ほとんど息だけで言った。
「逃げた」とルミが繰り返した。「私だけが」
銀河丸は何も言わなかった。
「俺に勝てると思ってついてきたのか」とだけ聞いた。
「最初は——利用しようと思ってた。あなたなら復讐の道具になれると思って。でも今は」
ルミが銀河丸を見た。
「あなたを信じてる」
「そうか」
銀河丸はそれだけ言った。長い言葉は必要なかった。
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四日目の朝、ガンドが来て言った。「少しだけ、顔が固くなってきた」
「そうか」
「でも目が笑ってる」
「それは俺の目元が——」
「笑ってる」
ルミが横から言った。「前進はしています。ただ目元の制御が一番難しい」
「目は動かせない」
「動かさないでいいです。真っ直ぐ見るだけでいい」
三人で、また練習を続けた。
夕方、ガンドが銀河丸の顔をじっと見て言った。「……まあ、使える程度にはなってきた」
ルミが端末を確認した。
「再戦の申し込み期日は——明日の夜明けです」
銀河丸は頷いた。
空が夕焼けに染まっていた。カザ星の夕焼けは橙色で、江戸の空に少し似ていた。
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