ミズホ星の争い
夜明けの水面が光っていた。
銀河丸は水上の通路を歩きながら、二つの村の方向を交互に見た。村Aは北側の水路に沿って建物が並んでいる。村Bは南側、やや深い場所に水中の建物を持っている。昨夜の長老の話を整理するだけで、夜が明けた。
二つの村の代表が広場で顔を合わせた。
村A代表は肩幅の広い男だった。村B代表は細身の女で、目が鋭い。二人はお互いを見ようとしなかった。
「代表はどちらから出すべきか」という話は、また始まった。
「我々が水流を管理してきた歴史がある」と村A代表が言う。
「ゲームの種目は水中競技だ。泳ぎに長けた我々の方が適している」と村B代表が言う。
両方正しかった。銀河丸にはどちらかを選ぶ理由が見つからなかった。
ルミが銀河丸の横に来て、低い声で言った。「あなたが仲裁する必要はない。ゲームで勝てばいいだけ。代表を一人決めて、その人をサポートする。それで済む話です」
「でも勝った後も、彼らは同じ星に住み続ける」
「それはこの星の問題です」
「目の前で困ってる人が、仲間割れしたままじゃ困る」
ルミは何か言いたそうな顔をしたが、黙った。
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銀河丸は二人の代表の前に立った。
「俺が出ます。二人とも、俺をサポートしてください」
沈黙が落ちた。
「……自分でやるということか」と村A代表が言った。
「俺は泳ぎは人並みですが、早い動きには自信がある。二人の知識を全部教えてもらえれば、たぶん使えます」
村B代表が口を開いた。「水中の動き方を知らない者が代表になるというのか」
「知らないから教えてもらいます」
「水流の感覚は、この星で生まれた者でなければ身につかない」
「それも教えてもらいます。使えるかどうかは俺が判断します」
長い間があった。
二人が視線を合わせた。初めて、お互いの顔をまともに見た瞬間だった。
それから村A代表が、ゆっくりと頷いた。「……試す価値はあるかもしれない」
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競技の説明を受けた。
ミズホ星の資源である淡水晶——水中に育つ結晶の塊だ——が、水路の底に格子状に並んでいる。双方が「水晶弾」と呼ばれる球を投げ込み、より多くの結晶を砕いた方が勝ち。水中では球の軌道が曲がる。水流が球を流す。計算だけでは当たらない。
「この水流は——」と村Aの代表が教えた。「三つの潮目が交差している。南からと東から、深い場所からの湧き流れ。それを読んで投げる角度を変えれば、球が結晶まで届く」
「当て方に工夫がある」と村Bの代表が教えた。「結晶には弱い面がある。角度を変えて当てれば、一つの球が二つ三つと連鎖して砕ける。数より連鎖を狙え」
銀河丸は何度も確認しながら聞いた。
江戸の道場での稽古を思い出した。力で当てに行くな。角度を見ろ。相手の動きの先を読め。最小の動きで最大の効果を出せ。師範の言葉は嫌いだったが、それだけは体に入っていた。
結晶も同じだ、と思った。
どこに当てれば、どこが連鎖して崩れるか。
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競技が始まった。
ヤミ兵が先に投げた。精確だった。水流データを処理して最適な角度を計算し、一つ一つを確実に砕いていく。連鎖はない。でも外さない。着実に数を積み上げていく。
銀河丸が投げた。
最初の一投は外れた。
水の抵抗が思ったよりも強い。球が思った方向に飛ばない。
「水流が今は東向きに強い!」と村Aが叫んだ。「少し左から投げろ!」
「もっと角度を立てろ!」と村Bが言った。「水面すれすれじゃなく、上から落とすように!」
二つの情報が同時に来た。方向が微妙に食い違う。
どちらも正しい部分がある。銀河丸は二つを組み合わせた。少し左から、斜め上方向に。
投げた。
球が曲がった。狙い通りではない。でも結晶の端に当たった。
結晶が揺れた。隣の結晶に触れた。
連鎖した。
三つが崩れた。
村Bが声を上げた。
読んでいた。一投目を外した時から、次の球の軌道を考えていた。水流の向き。壁になる結晶の位置。一球で何個を巻き込めるか。
岸からの声が重なった。「そこだ!」「角度!」「続けろ!」
二つの村が同じ方向に向かって叫んでいた。
最後の球が飛んだ。
水中に白い光が広がった。連鎖が止まらなかった。
結晶が、音もなく、次々と砕けていった。
水面が静まった時、岸に上がった銀河丸に両側から声が降ってきた。
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記録が示された。
銀河丸の方が速かった。
村人が、両側から、一斉に声を上げた。
村Aと村Bが、同じ方向に向かって叫んでいた。
村A代表が村B代表の肩を叩いた。村B代表が、最初は驚いたような顔をして——それからぎこちなく笑った。
「あいつのせいで負けたと思ってたが」と村A代表が言った。「勝利を一緒に喜べるとは思わなかった」
銀河丸はその輪の外で、水を拭きながら立っていた。
ルミがいつの間にか隣にいた。
「よかったですね」とルミが言った。いつもより声が少し低かった。
「俺は江戸で、誰と喜びを分かちあったことがなかった。これよりずっとマシです」
そう言った時、ルミが目を逸らした。
袖で顔の横を拭う仕草をした。
風で目にゴミが入ったのかもしれない、と銀河丸は思った。
水の上を渡ってくる風は湿っていて、何かの臭いがした。
遠くから、ルミの持つ端末が短く鳴った。
ルミが画面を確認した。その顔から、笑いの気配が消えた。
「……銀河丸」
呼ぶ声が硬かった。
「次の星で、良くない情報が入ってきた」
風が強くなった。
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