宇宙を知れ
ルミの舟は小さかった。
極端に小さかった。
長さは銀河丸が横になったより少し大きい程度で、幅は二人が並ぶと肩が触れる。それで宇宙を飛ぶ、とルミは当たり前の顔で言った。
「待て」と銀河丸は言った。
「何」
「これで宇宙を飛ぶのか」
「そうですよ」
「……この大きさで」
「文句があれば降りろ」
降りなかった。
ホシノ星を出発してから、ルミはずっと何かを読んでいた。コンパス型の端末を開いて、目だけを動かす。銀河丸がそれを横から覗くと、細かな文字がびっしり並んでいた。
「なんだそれは」
「宇宙律の条文集。あなたに必要な知識を整理してるんです」
「……何から説明するんだ」
ルミはコンパスを閉じて、銀河丸を見た。
「基礎から。この銀河の構造について。まず、銀河には内側と外側があります。内銀河には文明が発達した星が集まっていて、ヤミ軍の本拠地もそこにある。私たちがいる辺境は外銀河と呼ばれていて——」
「待て」
「何」
「それは星が集まってる場所がいくつかある、ということか」
「……まあ、そういうことです」
「分かった。次は」
「ヤミ軍は現在、銀河系の四十三の星を支配下に置いています。あなたが救えるのは、今のところ砂粒ほどの差にもならない」
銀河丸はそれを聞いて、少し間を置いた。
「でも」と言った。「目の前の人が助かるなら、それでいい」
ルミが何かを言いかけて、止まった。
それから端末を開いて、また文字を読み始めた。
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ミズホ星が見えてきた時、銀河丸は窓の外を見ていた。
近づくにつれて、星全体が青く光って見えた。江戸の川の色に似ているが、もっと深い。ほとんど水でできているような星だと、ルミが言った。
「建物は水中と水上の両方にある。住民はえら呼吸と肺呼吸ができる」
「えらとはなんだ」
「魚みたいなものです」
「……魚」
「魚を知ってるなら話が早い」
着陸すると、子供たちが走り寄ってきた。
半透明の肌を持つ、小さな体の子供たちだった。口々に何かを叫んでいる。銀河丸がメットをかぶっているので、断片的に分かる。
「宇宙侍だ! ホシノ星を救った!」
銀河丸は思わず立ち止まった。
「……噂になってるか」
「宇宙律でのゲーム結果は自動で記録されます。あなたの名前はもう広まってますよ」
「それは……」
「問題もある。ヤミ軍にも名前が知られてるということです」
ルミが静かに、しかしはっきりと言った。銀河丸はそれを聞いて、一度だけ頷いた。
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長老に会ったのは、水上に建てられた大きな建物の中だった。
床が水面のすぐ上にあって、足元から水の音がする。半透明な肌の老人が、待っていたように銀河丸の前に座った。
事情は複雑だった。
ミズホ星には二つの村がある。どちらもヤミ軍のゲームに備えていた。しかし——誰が代表者を出すかで、もめていた。
「村Aと村Bは、昔から水流の制御をめぐって対立している。今もどちらが代表を出すかで決まらない」
長老の声は静かだが、困り果てた様子だった。
「ゲームが始まる前に、あなたに間に入ってほしい」
ルミが小声で言った。「これはゲームの前の問題ですね。人間関係の調整。そういうのはあなたの管轄じゃないですか?」
「俺が仲裁するのか」
「あなたが仲裁する必要はない。どちらかの代表が出てゲームに勝てばいい。それだけです」
「でも、勝った後も彼らは同じ星に住み続ける」
ルミが口を閉じた。
銀河丸は長老に向かって言った。「詳しく聞かせてください」
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食事が運ばれてきた。
水の中から引き上げてきたばかりらしく、まだ濡れている何かだった。皿の上に盛られていて、見た目は白に近い。
形が丸い。
丸くて、白い。
銀河丸は少し前のめりになった。
「……これは」
「ミズホ星の郷土料理です。水中で育つ食材を塩漬けにして——」
かじった。
ぷるぷるしていた。食感は弾力があって、中から塩辛い汁が出てきた。悪くはない。悪くはないが、おにぎりではない。見た目があれほど似ているのに、どうしてこうも違うのかと思った。
ルミが横で見ていた。
「おにぎりではないですよ」
「分かってる」
「顔に出てます」
「……悪くはない」
「そういうことにしておきます」
長老が再び口を開いた。
「二つの村の話を、もう少し詳しく——昔から続く争いには、深い根がある。まず水流の制御権の話から始めなければならない。それには百年前の取り決めにまで遡る必要があって……」
話が長くなりそうだった。
銀河丸は白いぷるぷるをもう一口食べながら、耳を傾けた。
長老の語りは丁寧で、しかし終わりが見えなかった。
夜が更けても、まだ続いていた。
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