表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

宇宙を知れ


ルミの舟は小さかった。


極端に小さかった。


長さは銀河丸が横になったより少し大きい程度で、幅は二人が並ぶと肩が触れる。それで宇宙を飛ぶ、とルミは当たり前の顔で言った。


「待て」と銀河丸は言った。


「何」


「これで宇宙を飛ぶのか」


「そうですよ」


「……この大きさで」


「文句があれば降りろ」


降りなかった。


ホシノ星を出発してから、ルミはずっと何かを読んでいた。コンパス型の端末を開いて、目だけを動かす。銀河丸がそれを横から覗くと、細かな文字がびっしり並んでいた。


「なんだそれは」


「宇宙律の条文集。あなたに必要な知識を整理してるんです」


「……何から説明するんだ」


ルミはコンパスを閉じて、銀河丸を見た。


「基礎から。この銀河の構造について。まず、銀河には内側と外側があります。内銀河には文明が発達した星が集まっていて、ヤミ軍の本拠地もそこにある。私たちがいる辺境は外銀河と呼ばれていて——」


「待て」


「何」


「それは星が集まってる場所がいくつかある、ということか」


「……まあ、そういうことです」


「分かった。次は」


「ヤミ軍は現在、銀河系の四十三の星を支配下に置いています。あなたが救えるのは、今のところ砂粒ほどの差にもならない」


銀河丸はそれを聞いて、少し間を置いた。


「でも」と言った。「目の前の人が助かるなら、それでいい」


ルミが何かを言いかけて、止まった。


それから端末を開いて、また文字を読み始めた。


---


ミズホ星が見えてきた時、銀河丸は窓の外を見ていた。


近づくにつれて、星全体が青く光って見えた。江戸の川の色に似ているが、もっと深い。ほとんど水でできているような星だと、ルミが言った。


「建物は水中と水上の両方にある。住民はえら呼吸と肺呼吸ができる」


「えらとはなんだ」


「魚みたいなものです」


「……魚」


「魚を知ってるなら話が早い」


着陸すると、子供たちが走り寄ってきた。


半透明の肌を持つ、小さな体の子供たちだった。口々に何かを叫んでいる。銀河丸がメットをかぶっているので、断片的に分かる。


「宇宙侍だ! ホシノ星を救った!」


銀河丸は思わず立ち止まった。


「……噂になってるか」


「宇宙律でのゲーム結果は自動で記録されます。あなたの名前はもう広まってますよ」


「それは……」


「問題もある。ヤミ軍にも名前が知られてるということです」


ルミが静かに、しかしはっきりと言った。銀河丸はそれを聞いて、一度だけ頷いた。


---


長老に会ったのは、水上に建てられた大きな建物の中だった。


床が水面のすぐ上にあって、足元から水の音がする。半透明な肌の老人が、待っていたように銀河丸の前に座った。


事情は複雑だった。


ミズホ星には二つの村がある。どちらもヤミ軍のゲームに備えていた。しかし——誰が代表者を出すかで、もめていた。


「村Aと村Bは、昔から水流の制御をめぐって対立している。今もどちらが代表を出すかで決まらない」


長老の声は静かだが、困り果てた様子だった。


「ゲームが始まる前に、あなたに間に入ってほしい」


ルミが小声で言った。「これはゲームの前の問題ですね。人間関係の調整。そういうのはあなたの管轄じゃないですか?」


「俺が仲裁するのか」


「あなたが仲裁する必要はない。どちらかの代表が出てゲームに勝てばいい。それだけです」


「でも、勝った後も彼らは同じ星に住み続ける」


ルミが口を閉じた。


銀河丸は長老に向かって言った。「詳しく聞かせてください」


---


食事が運ばれてきた。


水の中から引き上げてきたばかりらしく、まだ濡れている何かだった。皿の上に盛られていて、見た目は白に近い。


形が丸い。


丸くて、白い。


銀河丸は少し前のめりになった。


「……これは」


「ミズホ星の郷土料理です。水中で育つ食材を塩漬けにして——」


かじった。


ぷるぷるしていた。食感は弾力があって、中から塩辛い汁が出てきた。悪くはない。悪くはないが、おにぎりではない。見た目があれほど似ているのに、どうしてこうも違うのかと思った。


ルミが横で見ていた。


「おにぎりではないですよ」


「分かってる」


「顔に出てます」


「……悪くはない」


「そういうことにしておきます」


長老が再び口を開いた。


「二つの村の話を、もう少し詳しく——昔から続く争いには、深い根がある。まず水流の制御権の話から始めなければならない。それには百年前の取り決めにまで遡る必要があって……」


話が長くなりそうだった。


銀河丸は白いぷるぷるをもう一口食べながら、耳を傾けた。


長老の語りは丁寧で、しかし終わりが見えなかった。


夜が更けても、まだ続いていた。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説と連動した無料ブラウザゲームも公開しています。 https://uchuzamurai.com/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ