表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

宇宙侍、爆誕


走れ、という声が上がった。


広場の端から端まで、石が並んでいた。不規則な高さで、不均等な間隔で置かれた石が十数個、一直線のコースを形作っている。スタートからゴールまで走り抜け、石をひとつも踏まず越えた者が勝ち——村人がそう伝えた。


メットが言葉の断片を拾う。「走り始めたら——止まれない」


ヤミ兵の一体が前に出た。走り始めた。


速度が一定だった。最初の石。データを処理するように跳ぶ。二つ目。三つ目。間隔が広くなる場所、狭くなる場所、それぞれで跳躍のタイミングを精確に変えた。一度も石に触れない。一度もリズムが乱れない。


機械的な完璧さだった。


村人たちがため息をついた。


ヤミ兵が戻ってくる。赤い一つ目が銀河丸を見た。「貴様が挑戦者か」という意味のことを言った気がした。


嘲笑のような声が他のヤミ兵から漏れた。


銀河丸は何も言わなかった。


スタートラインに立ち、コースを見た。


石の間隔がまちまちだ。近い石、遠い石、高い石、低い石。走り始めたら止まれない。ならば、走る前に読む。どこで跳ぶか。どのタイミングで踏み切るか。


江戸の道場で、師範がひとつだけ認めてくれたことがあった。「銀河丸、貴様には間を読む目がある」。それだけだった。それだけで十分だった。


息を吸う。


走った。


最初の石が迫る。早い。でも見えていた。踏み切りの地点が、走る前から分かっていた。


跳んだ。


この星は軽い。体が浮く。飛びすぎないよう重心を絞って降りる。次の石、間隔が広い——飛距離ではなくタイミングで合わせる。手前で跳んで、ゆっくり降りる。


石が来る。来る。来る。


跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。


気がつけば最後の一つだった。ぐ、と地面が受け止めた。砂が跳ねた。


静寂。


それから、村人が叫んだ。


---


「異議あり」


機械的な声が響いた。


ヤミ兵の指揮官が前に出た。「この者の跳躍は規定に反する。宇宙律第三十一条——競技者は事前に登録された——」


「待ってください」


声が割り込んだ。


銀河丸は振り向いた。


そこに、小さな子供が立っていた——いや、子供のように見えるが、様子が違う。淡い青色の肌。星形に光る瞳。額に小さな角が二本。白い短髪。手に銀色のコンパスのような道具を持ち、それを開きながら歩いてくる。


銀河丸と同じくらい落ち着いた顔をしていた。


「宇宙律第三十一条は、宇宙律認定の公式競技に適用されます。今回のゲームは挑戦側の指定ではなく、ホシノ村側が場所と種目を指定したケースです。宇宙律第十八条三項により、場所指定権が挑戦される側にある場合——事前登録の要件は免除されます」


ヤミ兵の指揮官が沈黙した。


「異議があれば、ガーディアン機構に申し立てをどうぞ。あいにく最寄りの機構まで、この辺境からは三十光年ほどありますが」


ヤミ兵が短く何かを言った。


「では、今回のゲームの結果を認めます——競技者・銀河丸の勝利。ホシノ村の資源収奪要求は却下されます」


村人から大きな歓声が上がった。


ヤミ兵が一言だけ残して、整列したまま後退し始めた。赤い一つ目が消えるまで、銀河丸はそれを見届けた。


「ヤミ兵C-109、記録を更新します。想定外の競技者が出現した場合のデータが不足しています。次回戦に向け訓練データを再構築します」


その声が遠ざかっていった。


---


「あなた、何者?」


例の子供が銀河丸の前に立っていた。


「銀河丸。江戸の……武士だ」


「江戸って何? 地球の出身? ここが宇宙だって知ってる?」


「……宇宙?」


銀河丸は少し間を置いた。


「ここは宇宙なのか」


「当たり前じゃないですか。あなた、今まで何だと思ってたんですか」


「……異国かと思ってた」


「だいぶ遠い異国ですね」


村長が近づいてきた。銀河丸の両手を取って、何度も頭を下げた。言葉は分からないが、感謝の意味だということは分かった。


「あなたのような宇宙の侍なら、他の星も救えるはずだ」と村長は言った。


隣に立っていたその子が、銀河丸を見上げた。


「私もついていく。利用させてもらう」


「利用?」


「私にはジゴクへの用事がある。あなたはそのための道具になってもらう。ついでに各星の村を救えるなら、悪い取引じゃない」


打算まる出しの顔だった。


でも、その目の奥に何か別のものがある気がした。銀河丸は読もうとしたが、その子はすぐに視線を外した。


「ルミ。名前はルミ。よろしく、宇宙を何も知らないお侍さん」


「……銀河丸だ」


「知ってる」


---


残った一体のヤミ兵が離脱しようとした瞬間、銀河丸の前に立ち止まった。


「貴様、何者だ」


機械的な声だった。


銀河丸は村人たちの歓声の中、そのヤミ兵を見た。


少し間があった。


「宇宙侍……銀河丸だ」


「ダサいネーミングセンスですね」とルミが言った。


「うるさい」


「ダサいと言っただけで怒るとは思わなかった」


「うるさいと言った」


ヤミ兵は何かを処理するような間を置いてから「了解しました。報告事項として記録します」と言い、静かに去っていった。


---


日が傾いた頃、村人たちが銀河丸を囲んだ。


誰かが銀河丸の手を取った。次々と手が重なった。大人も子供も。みんなが何かを言っている。メットが全部は訳してくれないが、嬉しいとか、ありがとうとか、そういう言葉だと分かった。


銀河丸は何も言わなかった。


ただ、夜空を見上げた。


星が多い。どれが何という名前なのか、全く知らない。でも星があるという事実は江戸と同じだった。


ひとりになった頃、銀河丸は低く声にした。


「江戸では、誰かに頼られたことなんてなかったな」


小さく笑った。


その笑い方は、道場で一人帰る時の顔とは違った。


ルミが少し離れたところから見ていたが、銀河丸はそれには気づかなかった。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説と連動した無料ブラウザゲームも公開しています。 https://uchuzamurai.com/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ