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ここは宇宙だ


地面が赤かった。


目を開けるたびに確認した。いつ見ても赤い。夢ではない。


銀河丸は荒野の真ん中に立っていた。周囲は見渡す限り赤茶色の平原で、地平線の向こうまで同じ色が続いている。紫色の草が風に揺れている。江戸の外れで見た枯れ草に似ているが、色がまるで違う。


一歩、踏み出した。


軽い。体が軽い。もう一歩。やはり軽い。思い切って跳んでみた。


「……っ」


体が浮いた。想像の三倍は高く。着地した時に膝を抜いておかなければ、尻餅をついていた。


試しにもう一度跳んでみると、やはり高い。


銀河丸はしばらく、ひとり荒野でぴょんぴょんしていた。


奇妙な場所だった。それでも腹は鳴る。腹が鳴っている間は、死んでいない。


遠くから声が聞こえた。昨夜聞いた、あの助けを呼ぶ声とは別だ。何かが迫ってくる気配がある。


振り向いた。


来た。


三人。いや、四人。大きな耳を持ち、肌が薄い青をしている。瞳が星のようにきらきらと光る。手に農具のようなものを持って、銀河丸に向かって走ってきた。


何かを叫んでいる。


言葉は分からない。でも表情は読める。怒っているわけではない。怖がっている。そして、何かを訴えている。


「待て。俺は敵じゃない」


そう言ったが、通じない。当然だ。向こうも同じことを思っているはずだった。言葉が通じない相手が突然目の前に現れたら、怖い。


一人が銀河丸の前に立ちはだかり、農具を構えた。


銀河丸はひと呼吸おいた。


武器を取るな。手を開いたまま見せろ。


そう判断した。武骨な江戸言葉で「俺は戦わない」と繰り返しながら、ゆっくり両手を広げた。それから——ふと思い出したように、腰に下げていたメットを手に取った。


なぜかぶろうと思ったのか、自分でも分からない。でも手が動いた。


かぶった瞬間、頭の中で何かが動いた感覚があった。


すると、声が少しだけ分かりはじめた。


「——に来た。お前——何者だ」


全部ではない。単語が、ときどき意味を結ぶ程度だ。それでも全く分からないよりはましだった。銀河丸は自分の胸を指さした。


「銀河丸。江戸の、武士」


相手が「え」という顔をした。


それから奇妙な沈黙があり、四人のうちの一人——一番年かさに見える老人——が何かを言った。メット越しにぎりぎり意味が取れた。


「ついてこい」


---


村は小さかった。


丸い石を積んで作った家が十数軒。広場の中央に焚き火の跡がある。住人は全員、大きな耳と青い肌を持っていた。銀河丸が歩いていくと、子供たちが建物の陰から顔を出した。大人たちが子供を引っ込め、銀河丸を遠巻きに囲む。


村長に連れて行かれた。老いた男で、背中が丸く、しかし目だけが若かった。


「座れ」という意味のことを言われた。


座った。


老人がゆっくりと話し始めた。メットがその言葉を拾い、ところどころ意味として銀河丸の頭に届く。全部は分からない。でも筋は取れた。


ヤミ軍——強大な組織が、この星に来る。明日、来る。


この銀河では、星をめぐる争いは「ゲーム」という競技で決まる。力ずくではいけない決まりになっている。だから正面から戦うことはできない。


これまで村はずっと挑んできた。負け続けた。


「明日もゲームに負けたら、この村は終わりだ。子供たちも、連れて行かれる」


老人の声には諦めがにじんでいた。


「ゲームというのは——」と銀河丸は聞いた。


「体を使う勝負だ。今回は——跳躍競技。どれだけ高く跳べるかを競う」


銀河丸はひと呼吸おいた。


跳躍。さっき試した、あの軽さ。


「俺がやります」


老人が目を見開いた。「お前は何者だ」


「……江戸の、武士です」


「江戸? ……宇宙人では、ないのか」


言葉の大半は拾えたが、最後の一語だけが意味を結ばなかった。「宇宙人」——聞いたことのない言葉だった。


「違います。俺は……江戸の人間です」


老人はしばらく銀河丸を見つめた。それから何かを言ったが、メットが上手く拾えなかった。「分からない」か「信じられない」か、そのどちらかだったと思う。


でも断りの言葉ではなかった。


---


夜、食事が出た。


丸い形をした何かだった。色は白に近い。握ってある。銀河丸はそれを見た瞬間、胸の中で何かが動いた。


——おにぎりか?


かじった。


違った。


食感は全く違う。中から甘い液体が出てきた。味が濃すぎる。おにぎりとは似ても似つかない。


複雑な顔をしていたのだろう。向かいに座った村の子供が「おいしくないか」という表情をした。


「おいしいです」と銀河丸は言った。


嘘ではない。おいしい。でもおにぎりではない。似ているようで全然違う。それが少しだけ、寂しかった。


夜が更けた。


銀河丸は村の端に座って、星空を見上げた。月が三つある。三つとも大きさが違う。


江戸の夜空も星があった。でもこんなに多くはなかった。そして月は一つだった。


「……ここは、いったいどこだ」


誰かに言ったわけではなかった。


答える者はいない。あの老人が言った、聞き慣れない言葉が頭の隅に残っていた。「宇宙人」。それが何を意味するのか、まだ分からなかった。


夜が白み始めた頃、村の入口で音がした。


ずしん、ずしん。重い足音だった。


銀河丸が立ち上がって振り向くと——黒い甲冑に包まれた巨大な体が、何体も何体も並んでいた。ヘルメットに赤い一つ目が光っている。


赤い光が、銀河丸を捉えた。


銀河丸はゆっくりとメットをかぶり直した。


腹の底が、静かに定まった。


---


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