キラの傷
次の星に向かう途中だった。
ルミが地図を広げていた。次の鍵がある可能性がある星を調べている。キラは操縦席の隣に座って、外を見ている。表情がない。いや、あるのかもしれないが、読めない。
銀河丸はキラの後ろ姿を見ていた。
ジャケットの背中に、かつてのマークが残っている。×を二重に重ねたような模様。
「それは」と銀河丸は言った。「海賊のマークか」
キラは振り返らなかった。「元だ」
「今は?」
「フリーだ。何でもない」
「何でもない人間が宇宙を一人で漂ってるのか」
「うるさい」
しばらく沈黙。ルミが地図を静かにめくる音だけがした。
「——故郷はどこだ」
銀河丸が聞いた。
キラの耳が、ぴくりと動いた。大きな犬耳。
「……ない。もう」
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キラが話したのは、それからしばらくしてからだった。
誰かが促したわけではなかった。ルミが地図を置いて別のことをしていた。銀河丸がぼんやり外を眺めていた。キラが突然、話し始めた。
「ヤミ軍に奪われた」
声が平坦だった。
「俺の故郷の星を。資源が豊富な星だったから。ゲームで負けて——正確には、負けさせられた。ゲームが公平でなかった。でも宇宙律は結果しか見ない。負けは負けだ」
「……」
「俺は海賊をやってた。仲間がいた。故郷が奪われた時、仲間を連れて取り返しに行った」
間がある。
「間に合わなかった。星は既にヤミ軍のものになっていた。住民は散らばっていた。仲間が——戦った。俺は連れ帰ろうとした。でも——」
キラが口をつぐんだ。
銀河丸は何も言わなかった。
「一人だけ帰ってきた。俺だけ」
また沈黙。
「だから辞めた。仲間を作ると——また失う。また連れ帰れなくなる」
「……」
「そういうことだ」
キラが外を向いた。話は終わった、という様子。
銀河丸は少しの間、考えた。うまい言葉なんて持っていない。道場で師範に教わったのは体の動かし方であって、心の話し方ではなかった。
「それは俺も怖い」
キラが振り返らなかった。
「仲間を失うのは怖い。俺にもルミがいる。ルミが傷ついたら——考えたくない。考えたくないが、考えてしまう」
「なら分かるだろ。一人でいる方が——」
「でも」
銀河丸が続けた。
「一人の方が怖い。俺はそう思う」
「……」
「一人でいると、怖さを知らないままになる。ルミがいるから、怖さを知った。失いたくないと思ったから、守ろうとした。それがなかったら、俺はもっと弱かったと思う」
キラは答えなかった。
ルミがこっそり銀河丸を見た。銀河丸は気づいていない。
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次の星の手前で、ヤミ兵の船が現れた。
三機。囲むように展開している。宇宙律の申し込みではなく——純粋な妨害。ドクガの手先か。
ルミが操縦席を握った。でも三機同時はきつい。
キラが立った。
「代われ」
「でも——」
「代われと言った」
ルミが退く。キラが座る。
手が動いた。
別の生き物みたいだった。ルミが操縦する時とは違う——もっと即興的で、もっと体感的な動き。計算しているのかしていないのか、外からは分からない。
船が傾く。急旋回する。ヤミ兵の攻撃が空を切る。
一機目を潜り抜けた。
二機目の前に出て——急ブレーキ。後ろから来た二機目が空を切る。三機目に向かって一直線。
「銀河丸、右の窓から腕を出して旗でも振れ」
「え?」
「注意を引け。旗がなければ手でいい」
銀河丸が窓を開けて手を出した。三機目がそちらに反応する。キラが逆方向から回り込む。
三機全部をすり抜けた。
速い。星の入り口まで来た。ヤミ兵が追ってくる前に大気圏に入った。
着地する。
しばらく、誰も何も言わなかった。
「……なんで助けた」と銀河丸が言った。
「助けてない。俺が操縦したかっただけだ」
「そうか」
「うるさい。たまたまだ」
ルミが小さな声で「ありがとうございます」と言った。
キラは答えなかった。でも耳がわずかに動いた。
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その星の食べ物は、赤い実を煮て固めたものだった。
丸くはない。四角い。色が鮮やか過ぎる。
銀河丸は一口食べた。甘い。甘すぎる。おにぎりとは似ても似つかない。
「どうです?」とルミが聞いた。
「遠い」
「どれくらい?」
「地球から宇宙くらい遠い」
「……今まで一番近かったのは?」
「アラシ星の豆だ。形だけ似てた」
キラが無言でそれを聞いていた。視線をわずかに銀河丸に向けて、また外に戻した。
何か考えているのか、何も考えていないのか——まだ読めない。
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