表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

キラという女


宇宙空間を漂っていた。


漂っている、というのはこちらの話ではなく——向こうの話だ。


「あれは」とルミが言った。


「船だな」と銀河丸が言った。


「壊れてる」


半分がひしゃげていた。推進部が剥き出しになって、煙——煙というか粒子か——が漏れている。それでも完全に止まっているわけではなく、ゆっくりゆっくり、意思のない方向へ流されている。


「中に誰かいるか?」


ルミが計器を確認する。「……生命反応が一つ」


「一つだけ?」


「一つだけ」


銀河丸は立った。「乗り込む」


「危険ですよ。あの状態の船に」


「でも人がいる」


「でも、でも——」


「ルミ」


「……分かりました。でも気をつけて」


---


向こうの船に取り付いた。ハッチを叩く。反応がない。メットの力を借りて、少し強引に開けた。


中に入った。


狭い。荷物が散乱している。古いジャケット。工具。カップのようなもの。それから——壁に手錠のような跡がある。元は海賊の船か。


奥に人がいた。


座っていた。壁に寄りかかって、腕を組んで、目を閉じている。息はある。


女だった。


短髪。日焼けのような色の肌。耳が——犬の耳に似ている。赤い体毛が生えた、上に向いた耳。古いジャケットを着ている。傷が多い。顔にも腕にも。


「おい」と銀河丸は言った。


目が開いた。鋭い目だった。一瞬で銀河丸を見た。


「何だ」


「助けに来た」


「助けは要らない」


即答だった。


「船が半壊してるのに?」


「自分で直せる」


「この状態で?」


「……うるさい」


女は腕を組んだまま、目を細めた。敵意ではないが、歓迎でもない。ただの拒絶。


「名前は」


「教える理由があるか」


「俺が聞きたいから」


また黙る。しばらくして——「キラだ」


「銀河丸だ」


「……変な名前」


「お前も変な名前だ」


初めてキラが目を細めた。笑ったわけではないが——少し和らいだ。


---


結局、乗せることになった。


キラの船はこのまま置いておくしかない。直せる設備がない。直す材料もない。ここに一人置いていくわけにもいかない。


銀河丸の宇宙船に移ったキラは、最初から落ち着かない様子だった。


ルミを一瞥した。ルミが一瞥した。互いに無言だった。


「操縦桿、まだガタついてるんですよ」とルミが言う。キラに言っているのではなく独り言のように。


「見せろ」


いきなりキラが言った。


「は?」


「操縦桿を見せろと言った」


ルミが戸惑う隙に、キラが操縦席の前に来て連結部を触った。確認する。数秒で終わった。


「ここと、ここ。緩んでる。工具があれば三分で直る」


「工具は——」


「持ってきた」と言って、キラが自分の荷物から工具を出した。着手した。三分で終わった。


ルミが恐る恐る操縦桿を動かす。ガタつかない。スムーズだ。


「……」


ルミが口を開きかけた。


「礼はいい」とキラが先に言った。「乗せてもらってる分だ」


操縦席の横に立って、画面を見る。ルミの飛行ルートを見ている。しばらくして——


「非効率だ」


「え?」


「このルートは遠回りしてる。ここを抜けた方が早い。エネルギーも節約できる」


ルミの顔が変わった。「……そのルートは不安定な宙域で」


「計算した上で言ってる。貸せ」


「貸せって——操縦は私が——」


「貸せ」


ルミとキラが見つめ合った。五秒くらい。ルミが席を立った。「一度だけですよ」


キラが座った。操縦する。手の動きが違う。迷いがない。体が船と一体化しているような動き方だ。


数値が変わった。到着予測時刻が早まった。


「……確かに速い」とルミが渋々言った。


キラは何も言わなかった。


---


銀河丸は荷物置き場の壁に背中をつけて座っていた。


飯の時間にした。アラシ星でもらった豆の丸いやつを取り出して食べていると——


「……何だそれ」


キラが来た。覗いている。


「アラシ星の食べ物だ」


「食ってるのか」


「腹が減ったから」


キラが近くに座った。横に。距離を置いて。


「宇宙侍とやらは、なんで旅してる」と聞いた。


「人のためになるから」


「それだけか?」


「あとは——」


銀河丸はしばらく考えた。


「おにぎりに一番近いものを探してるかもしれない」


キラの顔が少し動いた。「……おにぎり?」


「知らないか」


「知らない」


「俺の故郷の食べ物だ。米を握って——」


「それが旅の目的か?」


「違う。でも大事なことではある」


「……理解できない」


「おにぎりを食べたことがない奴には難しいかもしれない」


キラがじっと豆の丸いやつを見た。


「それ、近いのか?」


「形だけ」


「……あの。それ一つもらえるか。腹が減った」


銀河丸は差し出した。キラがかじった。


一瞬、微妙な顔をした。すぐに戻した。


「豆だな」


「そうだ」


「……まずくはない」


「そうだ」


二人で食った。ルミが操縦席から不思議そうにこちらを見ていた。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説と連動した無料ブラウザゲームも公開しています。 https://uchuzamurai.com/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ