キラという女
宇宙空間を漂っていた。
漂っている、というのはこちらの話ではなく——向こうの話だ。
「あれは」とルミが言った。
「船だな」と銀河丸が言った。
「壊れてる」
半分がひしゃげていた。推進部が剥き出しになって、煙——煙というか粒子か——が漏れている。それでも完全に止まっているわけではなく、ゆっくりゆっくり、意思のない方向へ流されている。
「中に誰かいるか?」
ルミが計器を確認する。「……生命反応が一つ」
「一つだけ?」
「一つだけ」
銀河丸は立った。「乗り込む」
「危険ですよ。あの状態の船に」
「でも人がいる」
「でも、でも——」
「ルミ」
「……分かりました。でも気をつけて」
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向こうの船に取り付いた。ハッチを叩く。反応がない。メットの力を借りて、少し強引に開けた。
中に入った。
狭い。荷物が散乱している。古いジャケット。工具。カップのようなもの。それから——壁に手錠のような跡がある。元は海賊の船か。
奥に人がいた。
座っていた。壁に寄りかかって、腕を組んで、目を閉じている。息はある。
女だった。
短髪。日焼けのような色の肌。耳が——犬の耳に似ている。赤い体毛が生えた、上に向いた耳。古いジャケットを着ている。傷が多い。顔にも腕にも。
「おい」と銀河丸は言った。
目が開いた。鋭い目だった。一瞬で銀河丸を見た。
「何だ」
「助けに来た」
「助けは要らない」
即答だった。
「船が半壊してるのに?」
「自分で直せる」
「この状態で?」
「……うるさい」
女は腕を組んだまま、目を細めた。敵意ではないが、歓迎でもない。ただの拒絶。
「名前は」
「教える理由があるか」
「俺が聞きたいから」
また黙る。しばらくして——「キラだ」
「銀河丸だ」
「……変な名前」
「お前も変な名前だ」
初めてキラが目を細めた。笑ったわけではないが——少し和らいだ。
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結局、乗せることになった。
キラの船はこのまま置いておくしかない。直せる設備がない。直す材料もない。ここに一人置いていくわけにもいかない。
銀河丸の宇宙船に移ったキラは、最初から落ち着かない様子だった。
ルミを一瞥した。ルミが一瞥した。互いに無言だった。
「操縦桿、まだガタついてるんですよ」とルミが言う。キラに言っているのではなく独り言のように。
「見せろ」
いきなりキラが言った。
「は?」
「操縦桿を見せろと言った」
ルミが戸惑う隙に、キラが操縦席の前に来て連結部を触った。確認する。数秒で終わった。
「ここと、ここ。緩んでる。工具があれば三分で直る」
「工具は——」
「持ってきた」と言って、キラが自分の荷物から工具を出した。着手した。三分で終わった。
ルミが恐る恐る操縦桿を動かす。ガタつかない。スムーズだ。
「……」
ルミが口を開きかけた。
「礼はいい」とキラが先に言った。「乗せてもらってる分だ」
操縦席の横に立って、画面を見る。ルミの飛行ルートを見ている。しばらくして——
「非効率だ」
「え?」
「このルートは遠回りしてる。ここを抜けた方が早い。エネルギーも節約できる」
ルミの顔が変わった。「……そのルートは不安定な宙域で」
「計算した上で言ってる。貸せ」
「貸せって——操縦は私が——」
「貸せ」
ルミとキラが見つめ合った。五秒くらい。ルミが席を立った。「一度だけですよ」
キラが座った。操縦する。手の動きが違う。迷いがない。体が船と一体化しているような動き方だ。
数値が変わった。到着予測時刻が早まった。
「……確かに速い」とルミが渋々言った。
キラは何も言わなかった。
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銀河丸は荷物置き場の壁に背中をつけて座っていた。
飯の時間にした。アラシ星でもらった豆の丸いやつを取り出して食べていると——
「……何だそれ」
キラが来た。覗いている。
「アラシ星の食べ物だ」
「食ってるのか」
「腹が減ったから」
キラが近くに座った。横に。距離を置いて。
「宇宙侍とやらは、なんで旅してる」と聞いた。
「人のためになるから」
「それだけか?」
「あとは——」
銀河丸はしばらく考えた。
「おにぎりに一番近いものを探してるかもしれない」
キラの顔が少し動いた。「……おにぎり?」
「知らないか」
「知らない」
「俺の故郷の食べ物だ。米を握って——」
「それが旅の目的か?」
「違う。でも大事なことではある」
「……理解できない」
「おにぎりを食べたことがない奴には難しいかもしれない」
キラがじっと豆の丸いやつを見た。
「それ、近いのか?」
「形だけ」
「……あの。それ一つもらえるか。腹が減った」
銀河丸は差し出した。キラがかじった。
一瞬、微妙な顔をした。すぐに戻した。
「豆だな」
「そうだ」
「……まずくはない」
「そうだ」
二人で食った。ルミが操縦席から不思議そうにこちらを見ていた。
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