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ドクガという幹部


「返せと言われても」と銀河丸は言った。「もらったものは返さない」


「そうですか」


ドクガは残念そうに首を傾けた。本当に残念そうに見えた。演技かもしれない。演技でないかもしれない。


「では——一つ、ゲームをお願いできますか」


「宇宙律で?」


「もちろん。私はルールを大切にする者です」


ルミが素早く銀河丸の袖を引いた。小声で言う。「断れない。宇宙律の申し込みを正式に断ると、申し込まれた側の負けになる」


「……そうか」


「受けるしかない」


銀河丸はドクガを見た。細い体。長い指。目が涼しい。力押しで来る気配がない。力で勝つタイプではない——最初からそう思っていた。


「ゲームの内容は?」


「知恵比べです」と、ドクガが答えた。「この星の神殿に複雑な立体パズルがあります。それを早く解いた方が勝ち。いかがでしょう」


知恵比べ。


銀河丸は内心でうなだれた。


---


神殿の奥の部屋。


石でできたパズルが机の上にあった。大きい。箱型で、表面に溝と突起が複雑に絡み合っている。どこをどう動かせば解けるのか——見ただけでは分からない。


「始め」と審判のアラシ星人が言った。


ドクガが動いた。早い。迷いがない。どこを触るか最初から決まっているように次々と部品を動かしていく。


銀河丸は止まった。


どこを触ればいい? 分からない。読み書きも知恵も——こういうものは苦手だ。道場では体を動かした。考えるより動いた。


ルミが横から分析を始めた。「左上の突起を——いや、待って。右から解くのが基本的な構造で——」


「ルミ」


「何ですか、今分析中——」


「どっちを先に解くと早い?」


「……右から。でもドクガが右を取ったら——」


視線を上げると、ドクガが右側を触っていた。


そして——ドクガが手を止めた。ルミを見た。


「左からですよ」と、ドクガが穏やかに言った。


「え?」


「左から解く方が効率的です。私はこのパズルを事前に研究しましたので」


ルミが左を見た。確かに左から始まる構造に見える。左を触り始めた。


銀河丸はドクガを見ていた。ドクガはまた右を触っている。


「……ルミ、止まれ」


「え? でも——」


「ドクガが嘘をついた」


ルミがドクガを見た。ドクガは微笑んでいる。


「なるほど。気づきましたか」


気づいた——というよりも、感じた。ドクガが情報を流した瞬間の、わずかな間。勝ちを確信した人間の、ほんの少しの緩み。


「情報で動かす人なんだな」と銀河丸は言った。「俺には通じない。俺は情報で動かないから」


「では何で動くんですか?」


「手の感覚で」


銀河丸はパズルを見た。


考えない。考えるのではなく——感じる。


木の組み方を体が覚えている。江戸で大工仕事を手伝ったことがあった。大工の親方は言った。「木は理屈で組むんじゃない。木の声を聞いて組む」。その時は意味が分からなかった。でも体は覚えた。


石でできたパズルでも——同じだ。


組み合わさりたい場所がある。動きたい方向がある。手で触ると分かる。


動かす。動かす。動かす。


止まる時間が来る。どこで止まるか——感じる。


「……」


銀河丸の手が止まった。


カチン、と音がした。


パズルが開いた。


ドクガの手も止まった。


沈黙。


一手の差だった。


---


ドクガは負けを認めた。頭を下げた。深く、きちんと。


「……なるほど」


口元にまた笑みが浮かんだ。今度は本物に見えた。


「面白い」


「負けて面白いとは言えない俺には理解できないが」と銀河丸。


「勝負に負けることと、面白いことは別です。あなたは——理論で動かない。情報で動かない。では何で動くのか。体で動く、と言っていた。それは予測できない」


「褒めてるのか?」


「分析しています。ジゴク様への報告に必要ですから」


ドクガは踵を返した。コートが風に揺れる。神殿の入り口に向かう。


「また参ります」


それだけ言って、歩いていく。


銀河丸は背中を見ていた。


礼儀正しい。落ち着いている。怒っていない。悔しがっていない。ただ——記録している。次に何をするかを考えている。


「……怖い奴だな」


ルミが頷いた。珍しく声を出さずに、ただ頷いた。


ドクガの背中が嵐の向こうに消えた。


銀河丸は手の中の石を確かめた。


まだある。温かい。


次の星へ。急がないと。


あの背中が——次はどこで現れるか分からない。


---


神殿の外に出ると、アラシ星の住人たちが待っていた。


「勝ったか」


「勝った」


どっと声が上がった。岩のような体が喜ぶ様子は、山が揺れるようだった。


長老が近づいてきて、銀河丸の肩を叩いた。思い切り叩いた。銀河丸が少しよろめいた。


「よくやった。先にやることがあったら持っていけ」


差し出されたのは、あの豆を丸く潰した食べ物だった。二つ。旅の分として包んである。


「ありがとうございます」


「おにぎり、とかいうやつに近いか?」


「形だけですが」


「そうか。いつかそのおにぎりとやらを食わせてくれ。宇宙侍が帰ってくる口実になる」


銀河丸は笑った。


「必ず」


風が唸る。嵐は続く。


でも少し軽くなって、宇宙船に戻った。


---


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