宇宙侍の名声
通信機が鳴り続けていた。
「また来た」
ルミが画面を見ながら言う。顔が疲れている。
「十七番目」
銀河丸は操縦席の隣に座って、窓の外を眺めていた。星の海。果てしない。どこまで行っても続く。
「十七?」
「十七の星から、同時に助けを求められてる」
銀河丸は少しの間、黙っていた。
「全部行けないのか」
「行けるわけないでしょ。星と星の距離を知ってる?」
「知らない」
ルミが通信画面を銀河丸の前に広げた。光る点が十七。それぞれに小さな文字。助けてくれ。宇宙侍が来てくれると聞いた。頼む。
「噂が広まったんですよ」ルミが言う。「ホシノ星で勝ったことが。ゴーアを退けたことが。あちこちに流れた」
「俺が勝ったってことが?」
「あなたの名前が先に走ってる、ってこと」
銀河丸はしばらく十七の光点を見つめた。それから言った。
「順番に行く」
「え?」
「全部行けないのは分かった。でも順番に行けば、いつかは全部行ける。みんな待たせるが、必ず行く」
ルミが口を開けたまま固まった。
「……それだけですか? 計画は? 優先順位は?」
「近い順でいい。どこが一番近い?」
「……アラシ星」
「そこから行く」
ルミはため息をついた。深い。宇宙より深そうな息だった。
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宇宙船が少し揺れた。
操縦桿がガタついている。ルミが顔色を変えて確認する。
「……操縦桿の連結部が」
「壊れそうか」
「壊れかけてる。ホシノ星を出てから一度も整備してないから」
「整備は——」
「できない。私は整備士じゃない。あなたは?」
「大工仕事なら」
「宇宙船は木でできてない」
沈黙。
操縦桿がまたガタつく。ルミが片手で押さえながら操縦する。もう片方の手で通信機を操作する。そんな体勢が続いた。
銀河丸は何もできることがなかった。できることが何もない時は、じっとしているのが一番だと師範に教わった気がする。いや、教わった覚えはないな。自分で決めた。
「銀河丸さん」
「なに」
「ちょっと右を押さえてて」
「こうか」
「もう少し上。そう」
二人で操縦桿を押さえながら、宇宙を飛んだ。
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時間が経った。
どれくらいかは分からない。宇宙には昼も夜もないから、時間の感覚がずれてくる。江戸にいた頃は日が傾けば夕方だと分かった。ここではそれができない。
銀河丸は窓の外を見ていた。
星がある。星がある。また星がある。
「……おにぎり食いながら旅をしたいな」
「おにぎりって何なんですか。よく言ってるけど」
「米を握ったもの」
「米?」
「食べ物だ。白くて丸い。塩を振って、中に何か入れて、海苔を巻く。それがおにぎり」
「……おいしいの?」
「世界一だ」
「宇宙一とは言わないんですね」
「食ったことがないから分からん。でも江戸一、なのは確かだ」
ルミが少し間を置いた。
「アラシ星に米はないと思う」
「だろうな」
「がっかりしないで」
「分かってる」
分かっている。でもやっぱり、食べたい。
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夜——という表現が正しいかは分からないが、光が少なくなった頃。
銀河丸が外を見ていて、気づいた。
遠い。かなり遠い。だが確かに見える。
大きな影。船だ。船のような形をした何か。星でも岩でもない。動いている。
「……ルミ」
「何?」
「あれは」
ルミが画面を確認する。顔が変わった。
「……見えなかったふりをしてください」
「え?」
「向こうはまだ私たちに気づいていないと思う。今は。あの影の大きさは——」
ルミが口をつぐんだ。
「ジゴクか」
「分からない。でも——そのくらいの大きさの船を持てる存在は、銀河に何人もいない」
銀河丸は目を細めた。
遠い。まだ遠い。動いているが、こちらには来ていない。どこかへ向かっている。どこへ?
「アラシ星の方角か?」
ルミが計算した。しばらく。
「……違う。もっと遠くを目指してる。今は」
「今は、か」
「今は」
二人は黙った。
操縦桿がまたガタついた。ルミが素早く押さえる。
影は遠ざかっていった。宇宙の暗闇に溶けるように。
銀河丸は視線を前に戻した。アラシ星へ向かう。まず、目の前のことから。
腹が減っては戦はできぬ——おにぎりがないのは痛いが、今は仕方ない。
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