表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/21

宇宙侍の名声


通信機が鳴り続けていた。


「また来た」

ルミが画面を見ながら言う。顔が疲れている。

「十七番目」


銀河丸は操縦席の隣に座って、窓の外を眺めていた。星の海。果てしない。どこまで行っても続く。


「十七?」

「十七の星から、同時に助けを求められてる」


銀河丸は少しの間、黙っていた。


「全部行けないのか」

「行けるわけないでしょ。星と星の距離を知ってる?」

「知らない」


ルミが通信画面を銀河丸の前に広げた。光る点が十七。それぞれに小さな文字。助けてくれ。宇宙侍が来てくれると聞いた。頼む。


「噂が広まったんですよ」ルミが言う。「ホシノ星で勝ったことが。ゴーアを退けたことが。あちこちに流れた」


「俺が勝ったってことが?」


「あなたの名前が先に走ってる、ってこと」


銀河丸はしばらく十七の光点を見つめた。それから言った。


「順番に行く」


「え?」


「全部行けないのは分かった。でも順番に行けば、いつかは全部行ける。みんな待たせるが、必ず行く」


ルミが口を開けたまま固まった。


「……それだけですか? 計画は? 優先順位は?」


「近い順でいい。どこが一番近い?」


「……アラシ星」


「そこから行く」


ルミはため息をついた。深い。宇宙より深そうな息だった。


---


宇宙船が少し揺れた。


操縦桿がガタついている。ルミが顔色を変えて確認する。


「……操縦桿の連結部が」


「壊れそうか」


「壊れかけてる。ホシノ星を出てから一度も整備してないから」


「整備は——」


「できない。私は整備士じゃない。あなたは?」


「大工仕事なら」


「宇宙船は木でできてない」


沈黙。


操縦桿がまたガタつく。ルミが片手で押さえながら操縦する。もう片方の手で通信機を操作する。そんな体勢が続いた。


銀河丸は何もできることがなかった。できることが何もない時は、じっとしているのが一番だと師範に教わった気がする。いや、教わった覚えはないな。自分で決めた。


「銀河丸さん」


「なに」


「ちょっと右を押さえてて」


「こうか」


「もう少し上。そう」


二人で操縦桿を押さえながら、宇宙を飛んだ。


---


時間が経った。


どれくらいかは分からない。宇宙には昼も夜もないから、時間の感覚がずれてくる。江戸にいた頃は日が傾けば夕方だと分かった。ここではそれができない。


銀河丸は窓の外を見ていた。


星がある。星がある。また星がある。


「……おにぎり食いながら旅をしたいな」


「おにぎりって何なんですか。よく言ってるけど」


「米を握ったもの」


「米?」


「食べ物だ。白くて丸い。塩を振って、中に何か入れて、海苔を巻く。それがおにぎり」


「……おいしいの?」


「世界一だ」


「宇宙一とは言わないんですね」


「食ったことがないから分からん。でも江戸一、なのは確かだ」


ルミが少し間を置いた。


「アラシ星に米はないと思う」


「だろうな」


「がっかりしないで」


「分かってる」


分かっている。でもやっぱり、食べたい。


---


夜——という表現が正しいかは分からないが、光が少なくなった頃。


銀河丸が外を見ていて、気づいた。


遠い。かなり遠い。だが確かに見える。


大きな影。船だ。船のような形をした何か。星でも岩でもない。動いている。


「……ルミ」


「何?」


「あれは」


ルミが画面を確認する。顔が変わった。


「……見えなかったふりをしてください」


「え?」


「向こうはまだ私たちに気づいていないと思う。今は。あの影の大きさは——」


ルミが口をつぐんだ。


「ジゴクか」


「分からない。でも——そのくらいの大きさの船を持てる存在は、銀河に何人もいない」


銀河丸は目を細めた。


遠い。まだ遠い。動いているが、こちらには来ていない。どこかへ向かっている。どこへ?


「アラシ星の方角か?」


ルミが計算した。しばらく。


「……違う。もっと遠くを目指してる。今は」


「今は、か」


「今は」


二人は黙った。


操縦桿がまたガタついた。ルミが素早く押さえる。


影は遠ざかっていった。宇宙の暗闇に溶けるように。


銀河丸は視線を前に戻した。アラシ星へ向かう。まず、目の前のことから。


腹が減っては戦はできぬ——おにぎりがないのは痛いが、今は仕方ない。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説と連動した無料ブラウザゲームも公開しています。 https://uchuzamurai.com/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ