星の果てへ
息が白かった。
舟から降りた瞬間、吐いた息が白くなった。足元の地面は白い。空も白い。遠くの山も白い。全部が白く、全部が光を反射して、目がくらむような明るさだった。
寒い。寒いというより、痛い。空気が肌に突き刺さってくる。
「ユキ星です」とルミが言った。「この星は全体が永久凍土に覆われています。住民は体温が低く、逆に暑さに弱い」
「全員が寒いのに強いのか」
「寒さが普通の環境です。あなたにとっての寒さとは違う」
銀河丸は息を吐いた。また白くなった。
街に入ると、深刻な空気がすぐに分かった。
住民は白く半透明の体を持ち、表情が乏しい。感情をほとんど外に出さない人々だった。しかし目の奥に疲れが滲んでいた。
「北の村がヤミ軍に制圧されました」と街の長老が言った。「南の村も、時間の問題です」
ルミが地図を広げた。ユキ星は南北に長い。北の半分がすでにヤミ軍の手にある。
深刻だった。今まで来た星と違い、すでに半分が終わっている。
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銀河丸が状況を把握しようと歩き回っていると、後ろから足音がした。
振り向いた。
ゴーアだった。
四本腕。暗褐色の肌に金色の装甲。眉間に深い皺。
でも今日は、ヤミ軍の旗を持っていなかった。
「一人か」と銀河丸は言った。
「一人だ」とゴーアが答えた。
「なぜここにいる」
ゴーアが少し間を置いた。眉間の皺が動いた。それがゴーアの感情の動き方だと、銀河丸はすでに知っていた。
「お前が言った言葉が、頭を離れない」
「なんの話だ」
「関係あるかどうかは俺が決める——そう言った。その言葉が、何日も頭の中で鳴り続けた」
「……で?」
「俺は長いことジゴクに従ってきた。強者が弱者を支配するのが宇宙の真理だと信じてきた。だが——お前を見ていて、分からなくなった」
ゴーアが銀河丸を見た。
「もう一度だけ戦わせてくれ。今度は『敵』としてではなく——競技者として。俺自身の問いに答えるために」
銀河丸は少し考えた。
「分かった」
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競技の種目はユキ星の氷上反射神経競技だった。
氷の上に立ち、光信号に反応して体を動かす。速度と正確さを競う。体を小さく精密に動かす種目で、この寒さと滑る床の上で行われる。
氷は滑った。
最初の動作で、銀河丸は姿勢を崩した。
ゴーアは四本腕で氷面を押さえ、体を固定して動く。重心の取り方がまるで違う。でも銀河丸には四本腕がない。
別の方法を探した。
腰を極端に低く落とした。江戸の道場での足の運び——なるべく地面を離さず、摺り足で動く。これならば滑りにくい。速度は落ちるが、精度が上がる。
光信号が来た。
体が動いた。
信号。体。信号。体。
ゴーアの反応は速い。四本腕を駆使した動きは複合的で、一つの動作が次の動作の準備になっている。無駄がない。圧倒的な完成度だった。
それでも銀河丸は追いつこうとした。
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終盤、差は縮まっていた。
ゴーアの眉間が動いた。驚きの形に。
信号が連続した。銀河丸は腰を落としたまま、足だけで方向を変えた。摺り足の連続。音が出ない動き。氷の上で静かに、速く。
最後の信号。
二人がほぼ同時に動いた。
判定が出た。
銀河丸の方が、わずかに速かった。
氷が反射した光の中で、二人が立っていた。住民たちが、静かに見守っていた。静寂を美徳とするユキ星の人々は声を上げなかった。ただ、目の奥に何かが輝いていた。
ゴーアが深く、頭を下げた。
「お前は本物だ。宇宙侍、その名に恥じない」
立ち上がった時、ゴーアの目が変わっていた。
「俺はジゴクから離れる。自分で答えを探す」
「そうか」と銀河丸は言った。
「一つだけ聞かせてくれ。お前は弱かった、と言った。江戸という場所で、評価されなかったと。それでも諦めなかったのはなぜだ」
銀河丸は少し考えた。
「諦めたら、おにぎりが食えなくなる気がしたから」
ゴーアが「……」という顔をした。
「今のは冗談ですか」
「半分だ」
ゴーアが長い間の後、小さく笑った。ゴーアが笑うのを、銀河丸は初めて見た。
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ゴーアが去った後、空が暗くなった。
ルミが空を見た。銀河丸も見た。
黒い船が来ていた。
今まで見たどんな船とも違う大きさだった。星の影のような。光を持たず、ただ存在することで宇宙の一部が欠けたように見える。
声が聞こえた。宇宙空間を越えて届く、重く深い声だった。
「私が直接来ることになるとは思わなかった」
間があった。
「その小さな江戸の侍に、会ってみよう」
ルミが銀河丸の腕を掴んだ。力が入っていた。
「ジゴクです」
「分かってる」
「どうするんですか」
「待つ」
「え」
「向こうから来るなら、ここで待つ。逃げる必要はない」
ルミが銀河丸を見た。
銀河丸は空を見上げていた。黒い船が、ゆっくりと近づいてくる。
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