メットの秘密
ルミが銀河丸の腰に下げたメットを見ていた。
じっと見ていた。
何か言いたそうな顔をしていたが、しばらく口を開かなかった。銀河丸が気づいて「なんだ」と言うと、ルミはメットを指さした。
「少し、貸してもらえますか」
「なんのために」
「調べたいことがある」
銀河丸がメットを渡した。
ルミは端末を開いて、メットの内側に近づけた。光を当てながら何かを確認している。眉間に皺が寄った。目が細くなった。
「……これは」
「なんだ」
ルミが顔を上げた。
「銀河の鍵の刻印があります」
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銀河の鍵——古代の宇宙人が作った、七つの遺物。ルミが端末で調べながら説明した。各遺物は人間の身体能力のある一要素を覚醒させる効果を持っていて、七つ揃えると時空の扉を開けることができる。
「時空の扉」と銀河丸は言った。
「あなたが江戸に帰るための道になるかもしれない、ということです。ただ——七つ集めなければ扉は開かない。一つでは意味がない」
「七つ全部か」
「今持っているのは一つ。残りの六つは各星に散らばっているという伝説がある。詳しい場所は分かっていない」
銀河丸はメットを受け取った。
内側に刻まれた文字を見た。読めなかった。でも確かに何か刻まれている。
「この文字、読めるか」
ルミが端末を向けた。「古代語です。翻訳すると——『すべての者に、その場所あり』」
銀河丸はその言葉を繰り返した。
「すべての者に、その場所あり」
言葉が胸の中に落ちた。江戸で一度も言われたことのない言葉だった。
「偶然ここに来たんじゃないかもしれない、ということですよ」とルミが言った。「あなたがこのメットを持っているのに、理由があるかもしれない」
銀河丸は少し間を置いた。
「俺は江戸に帰りたい。でも——まだやり残したことがある気がする」
「分かってます」とルミが言った。「だから七つ集める旅が、江戸への帰り道になる。星々の村を救うことと、帰還の道を探すことが、同じになる」
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旅の振り返りをした。
どちらからともなく始まった。ルミが端末に記録している各星の情報を開き、銀河丸が覚えていることを話した。
「ホシノ星では——あの丸い白いやつを食べた」
「ホシノ星の郷土食です。名前は分かりません。あなたが『おにぎりみたいで全然違う』と言い続けていた」
「甘かった。おにぎりは甘くない」
「当たり前です。おにぎりは米ですから」
「ミズホ星は——白くてぷるぷるしたやつだったな」
「水中で育つ食材の塩漬けです。あなたは食べ始めてから『塩辛い』と言いながら三つ食べた」
「悪くはなかった。でもおにぎりに似て非なるものだった」
「ルイコウのある比較ですね」
「カザ星は——岩の匂いがする乾いた食べ物だった。茶色くて固かった」
「乾燥させた植物系の食物です。ガンドが勧めてくれたやつです」
「固かった。おにぎりより固かった。でも噛むほど味が出た」
「おにぎりとの比較をやめてもらえませんか」
「なぜ。参考になる」
「何の参考ですか」
銀河丸は少し考えた。
「江戸に帰ったら、みんなに話せることができた。宇宙で何を食べたか、ってな」
ルミが端末を閉じた。
「……あなた、江戸に帰ったら一番最初に何をするつもりですか」
「おにぎりを食う」
「そうですか」
「それからまた市井の子供たちに体術を教える。貧乏のまま大家に頭を下げて、道場に行って馬鹿にされる。それだけだ」
ルミがそれを聞いて黙った。
「……それでいいんですか」とルミが言った。
「今は、まだここでやることがある。江戸の話は帰ってから考える」
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その夜、ルミの端末に映像が届いた。
映像には音がなかった。ただ、暗黒の宇宙空間が映っていた。
何もない、はずの場所に——影が動いていた。
巨大な影だった。形が定まらない。光を飲み込んでいる。
影が動いた。何かを見ているようだった。
「ジゴクです」とルミが言った。声が静かだった。
映像の中の影が、こちらを向いたような気がした。
「宇宙侍……面白い存在が現れた」
低い声だった。宇宙空間に響くような、重い声。
「直接、確かめてみるか」
影が消えた。
ルミが端末を閉じた。手が少し震えていた。
銀河丸は暗い宇宙を見た。
ガラス越しに、星が見えた。
旅はまだ、終わらない。
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