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善人スコア

作者:
掲載日:2026/03/13


「善人スコア」

地球規模で導入された新しいシステムである。


①それは善行をするとポイント加点

②通報すると高加点

③助けるより正す方が高加点

④感情は無関係、行動のみ評価


このシステムには更に加点対象一覧がある。

※席を譲る +一点

※ゴミ拾い +二点

※募金 +三点

※違反者通報 +十点

※犯罪者密告 +五十点


更にスコアが高いと、住居ランク。

毎食がどんどん豪華になる。

仕事も優遇される。

全ての税金免除。

善人バッジ表示。


街にはランキングモニターがある。

「今週の模範市民トップ十」

このシステムが導入されてから、街には善行が溢れていた。

電車やバスでお年寄り、妊婦、子供連れに文句を言う人がいなくなったばかりか、皆こぞって席を譲るようになった。

横断歩道や歩道橋で困っている人がいると

みんなが我先にと手を挙げて、手を引いたり、おんぶしたり、補助したりするようになった。

放っておいてもごみ拾いする人達で溢れかえり、街は常に清潔で綺麗に保たれていた。

そうやって、一点、二点、三点とみんなが善行ポイントをこつこつ貯めるようになった。

あるときを境に、善人ポイントの配点に疑問を抱いた人たちが、片方は転ばせ役、片方は転ばされ役として道路で相手を突き飛ばしたのだ。

それを見ていた人が通報すると、一気に十ポイントが貯まった。


それからはいかにルールの中で高得点を得ることができるかを競うような社会になった。

わざと道で物を落とす、誰かが拾ってくれた時、相手がぶつかれば通報する。

そうすると一気に十ポイント入った。

人混みでわざと立ち止まるもの、横断歩道でふらつくもの、荷物を零してしまうもの、全てが十点のチャンスだった。


しかし転ばせていない

単なる事故だと主張する者たちも出てきた。

これは善人ポイント的には白なので今度は通報したものに罰則が与えられるようになった。


それでももっと点数が欲しい者たちが現れ出した、最後の手段五十点狙いだ。

わざと紛らわしい標識を設置して、道交法違反を促すもの、ルール違反を誘発しておいてから通報して、通報。

以前は転ばせ役立ったような人達は、誘導はグレーになるとなんのポイントを得ることも、失うこともなかった。


善行ポイントだったはずが、いつの間にか、やるかやられるかになっていった。


更に善行ポイントは進化していく。

高齢者を急かす、障害がある人に無理をさせる、子供に難しい選択を迫る。

その結果弱者はミスをして、通報されるという、助ける者から、消えていった。


善人ポイントが導入される前の方が、平穏でのびのびと暮らせていた。

私以外にそう思っているものは、沢山いるだろう。

今では毎日が不穏だ。

何かを落とした人がいても、無視しなければならない。

お年寄りが横断歩道で立ち往生していても、無視しなければならない。

上位ランカーの数字はどんどん上がっていく、今では三百超えも当たり前の世界だ。

私は善人にも悪人にもなれず、最初の頃のごみ拾いや、席を譲ったりでこつこつ貯めたポイントを十二ポイント持っていた。

こんなポイントじゃ何にもならないどころか、いつ誰に通報されるかと怯えるばかりだ。


今日友達から聞いた、上位ランカーの仕組みを、彼等は下位ランカーにポイントを譲り、わざと車の前に子供を突き飛ばしたりさせて、通報しまくっているらしい。

興味のあった上位ランカーに対する嫌悪感がじわじわと湧いてくる。


最近では、将来なりたい職業ランキングの一位は、上位ランカーだという。


私は元来人に親切にするのが好きだ、感謝されるからではなく、自分がいいことをしたと言う気持ちになれるのが好きなのだ。


ランキングボードは今日も目まぐるしく変わっていく。


そのうち子供や障害者などの弱いものが狩られ出した、下位ランカーに頼むより、よっぽど効率がいいという理由らしい。

車の前に突き飛ばすだけでいい、階段から突き飛ばすだけでいい。

悪行も善人ポイントは溶かしてしまうようになった。


天気のいい日に歩いていると、あからさまな反社っぽい人が、思いっきり肩にぶつかってきた。「痛てえ!痛えよ!わざとぶつかっただろう」

と叫んでいる

「すみません」

と謝ると

「すみませんじゃねえんだよ!」

と口角泡を飛ばしながら噛みついてくる。

それを見ていた親子連れが

「通報チャンスじゃない?」

と言って通報しだした、

「私は違うんです、事故なんです、本当に違うんです」

と言っていると、反社風の人は

「ああん」

と言いながら胸ぐらを掴んできた。

通報しようとしていた家族は、慌てて相手を通報することにしたようだ。

通報された人が捕まえられるまで、私はずっと小刻みに手足が震えていた。

歯の根が合わないように、かちかち鳴っていた。

もし通報されていたらどうなっていたんだろうと考えるだけで、世界が足元から崩れ落ちる気がした。


それに家族連れの素早い通報が、手馴れていて、額に汗が滲む。


世の中はもうそんな風に回っているんだ。

道の真ん中で呆然と立ち尽くしていた。


私にはあんなふうに素早く通報することも、誰かを助けることもできない。


四歳ぐらいの子供が歩いていた、目の前は国道だ、後ろに男が近づき、もう少しで押そうとしているところだった。

私はついに初めての通報を行った。

私のポイン数値は六十二に跳ね上がった、子供も助かった。

けれど私の中の邪悪な思いが露呈してしまった。

この道路で、そこの歩道橋で

誰かが押されそうになるのを待っていたら?


私は通報を押す側に回ってしまった。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

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