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【聖女の条件:純潔であること】 ~欠陥聖女の私と、幼馴染騎士の秘めたる執着~  作者: えびのおすし


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 頻度こそ落ちたが、ミヤは再び訓練場に顔を出すようになった。

 自由に歩き回って見学していたが、訓練中の騎士たちに手を振りながらバルトの姿を探す。手が空いているときは話し相手になってくれるのだ。

(今日は忙しいみたい)

 一通り見て回ったがバルトは見つからなかった。

 目線は自然と下に落ちる。足元の小石を蹴りながら石畳の通路を進んでいく。足は出入口のほうへと向かっていた。

(でも、カイルの姿を見れたのは良かった)

 昼間は全くこちらに興味がないような態度を崩さないが、それでも偶然を装って目を合わせて、彼はほんの少し口の端を上げる。それだけでミヤは安心する。

 ふと、小石が転がっていった先に座り込んでいる人物に気が付いた。

 見習い騎士のようだ。

 肩で息をしながら、剥き出しの上半身は汗で濡れていた。

「大丈夫?」

 ミヤはその隣にしゃがみこんだ。彼は気怠げに腕を上げ、相手が聖女だと分かると、すぐにその場に直立した。

「も、申し訳ございません!」

 大きな声で敬礼をする少年にポカンとしてしまう。

 騎士や見習い騎士たちは、ミヤを偉い人のように扱いたがるが、彼女としては年齢の近い子に畏まられると困ってしまう。

「お水、取ってこようか? すごく汗かいてるよ」

 ハンカチを差し出すと、彼は恐縮したように何度も首を横に振って後退った。

「聖女様にそんなことをしてもらうわけには」

 その言葉に彼女は首を傾げた。どこかで聞いた訛りだと思ったのだ。

「出身はどこなの?」

 肩に力が入るくらい緊張しているようだった。

 ミヤは対照的に呑気だった。その場に腰を下ろす。「ねぇ。座らないの?」

「すっ」

 そのまま固まってしまうから、隣を指差した。少年はびくびくしながら座ったが、目線は正面を向いたままだった。

「あのね、あなたの発音がどこかで聞いたことがあるなぁって思ったの。北の生まれ? 私は南方のエルシアから来たんだよ」

「……ご存知か分かりませんが、ウィールドからです。あの、『女神様が罪を犯された場所』の」

「絵本で読んだことあるよ。大変だったね。魔物がたくさん出るんでしょう?」

「はい。それで僕と姉は逃げてきました」

 瘴気は北方から国土を侵食していく。

 この帝国の人間ならば、子どもでも知っている常識だ。

 少年は瞬きを繰り返した。白い肌と長い睫毛が特徴的だ。目尻のほくろを見つめてから、ミヤは立ち上がった。

「引き留めてごめんね。無理しないでね」

 自分がいると彼は休まらないらしい。

 そう思い、服についた砂を叩き落とす。視線を感じて訓練場のほうを見やると、カイルがこちらを見つめているのが分かった。



 訓練場を出て、数歩もいかないうちにミヤは足を止めた。考え事をしながら歩いていたからだろうか、彼女に気付くのが遅れてしまった。

 ちょうど座りの良い椅子のように鎮座している石の上で、片足立ちをしている子がいる。聖女だけに支給されるローブをまとった彼女は、双子の聖女の片割れだった。

 ミヤは少しだけ迷った。

 お茶会でも彼女は一言も話さなかった。たまに姉のほうが答えるのみで、妹のセレフィーナはずっと押し黙って姉の影に隠れていた。

「セレフィーナ様?」

 ごきげんよう、と続ける。慣れないお嬢様特有の挨拶に舌が回らない。たどたどしく口にすると、セレフィーナは体勢を変えることなく「ごきげんよう」と返した。

(返事してくれた……!)

 驚きつつも、嬉しくて、ミヤは彼女とじりじりと距離を詰めた。

「何をしているの?」

 セレフィーナの艶やかな長髪が波打った。僅かな動きだけでサラサラと流れていく毛先を目で追いかける。

「特に何もしていないわ。お姉さまがバルトとの訓練に行ってしまって暇だから時間を潰しているだけ」

「バルトと? エレオノーラ様は聖騎士と何の訓練をしているの?」

「そんなの決まっているじゃない。剣術よ。わたしを守りたいのですって」

「聖女の力があるのに?」

「わたしのお姉さまって、時々愛おし過ぎるくらいに間抜けなの。それに、ミヤ様と違って、わたしたちはいくら聖女として研鑽を積んだところで、たかが知れているもの」

 セレフィーナは石から降りると、ミヤと視線を合わせた。

「わたしたちと貴女の間には実力差があり過ぎる」

 そう言って去ってしまおうとする。慌てて、その袖を掴んだ。

「待って。教えてほしいことがあるの」

「なぁに?」

 思いのほか、やわらかく聞き返されて拍子抜けする。ごくりと唾を飲み込んだ。

「私、治癒が使えないの。セレフィーナ様は私たちの中で一番、治癒が得意って侍女たちが話してるのを聞いた。だから、コツを教えてほしくて」

「あんなの簡単よ。精霊に頼めばいいんだもの。それこそ貴女が得意とするところでしょう?」

「……駄目なの。治そうと思って話しかけても、そのときだけ返事をしてくれない」

 ミヤが本気で言っているのが分かったのだろう。それでも信じられないとばかりにセレフィーナは思いっきり顔を顰めた。

「どうしてそんな嘘をつくの?」

「嘘じゃない。この前の出征で私が一度でも治癒をしているところを見たことがある? 使わせてもらえないの、本当に」

 ふぅん、とセレフィーナは思案する。ミヤの言葉に嘘がないか、少しの違和感も見逃さないように観察しているようだった。

 しばらくの沈黙の後、彼女は「わかったわ」と溜息をついた。

「わたしの部屋に来て。まずはその手首の怪我を治してあげる」

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