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【聖女の条件:純潔であること】 ~欠陥聖女の私と、幼馴染騎士の秘めたる執着~  作者: えびのおすし


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4/10

4

 お茶会で失敗したミヤを心配したのか、侍女たちが気分転換を提案してきた。

 ミヤは任命式の際の魔物との遭遇でも良いところを見せられなかった。聖女としての特訓を進めたいところだったが、彼女の指導を担当している聖者からも「根の詰め過ぎは良くない」と後押しを受けた。

 それならば行ってみたいところがある、と言えば、その願いはすぐに叶えられた。

 ミヤは騎士に興味があった。

 あれほど恐ろしかった魔物を一太刀で切ってしまうなんて、どんな訓練をしたら、そんなことができるのだろう。

 騎士たちの訓練場は、聖女たちの住まう大聖堂の隣に位置していた。彼らは聖女たちを守るために存在している。有事の際はすぐに駆けつけることができるところで寝起きしているのだ。

 急遽訪れた幼い聖女を騎士たちは快く迎えてくれた。

 出迎えるために訓練を止めて整列しようとしてくれるので慌てて止める。邪魔をしに来たわけではない。気分転換が主な目的だからと説き伏せて戻ってもらった。唯一、聖騎士の一人であるバルトだけは道案内のために残された。

 四十代に見える彼は片眼に大きな傷跡があった。

「隣国との小競り合いのときに油断しましてね」

 大柄な彼は、ミヤの視線に気付いたようで傷の説明をしてくれた。「あと少し避けるのが遅かったら脳天カチ割られてましたね。いやぁ、お恥ずかしい限りで」

 彼のあっけらかんとした口調にミヤも自然と表情が緩んだ。

 手を伸ばすと、バルトは腰を屈めた。

 習った通りに力を込める。治癒能力は聖女の最も基礎的な力だったが、目の傷が治る気配はなかった。何度か試してみたけれど変化はない。

 何か間違えてしまっただろうかと両手を見つめるミヤを、彼は優しく見つめた。

「聖女様。これは治さなくて良い傷なんですよ。ま、両目が見えるようになったら多少は楽になりますが、オレがこれ以上強くなっちまったら他の騎士たちもやる気を失うでしょう。いわゆるハンデってやつですよ」

「ごめんなさい。まだうまく使えないみたいなの。私、一番手の聖女なのに、こんなこともできない」

「あのですねぇ。気負わずとも、ここにはあなたがたを守るために屈強な大人たちがこんなに頭数揃えてるんです。言ったでしょう。有能過ぎると下が働かなくなるんですから、できないことがあるくらいでちょうどいい」

「バルトさんは優しいんですね」

「女性には優しくするように親父からは躾けられてますので」

 ミヤの父親よりも年上の彼は、おどけたように答えた。緊張の糸が緩んでいくのが分かった。

 バルトは聞き上手だった。ミヤの表情が曇るのを察すると、すぐに話題を明るい方向へと持っていった。

 ミヤは久々に会話が楽しいと思った。バルトは双子の聖女付きの聖騎士のため、話す機会はほとんどなかった。彼のように大きな体で顔に傷もある男が表情をなくして立っているだけで、威圧感があって話しかけづらかった。しかし一度言葉を交わしてみれば、コロコロと表情の変わるひょうきんなおじさんという印象だった。

 彼は会話を盛り上げながら道案内も器用にこなした。

「あっちが騎士たちが詰めてるところ。あっちの広間は騎士見習いが剣を振っているところです。見ていきますか? おもしろいですよ、あいつら剣の重さに負けて転ぶんですから」

「剣って重いのねぇ」

「そりゃそうです。魔物の硬い皮膚を切るには、切れ味だけ鋭くてもいけない。見習いどもに真剣は早いので木でできたやつですけど、芯に銅を入れているので、多分ミヤ様は持ち上げることもできないと思います。聖騎士の剣はそれよりも遥かに重い。西方にいる珍しい馬の角から作った特別製です」

「鉄を打った剣じゃないの?」

「化け物を討つには、同じく化け物の身から剝いだものがよく効くそうです。詳しいことはよく分かりませんが。オレの剣で良ければ見てみますか?」

 頷くと、彼は快く腰に下げていた剣柄に手をかけた。

 音もなく抜いた刀身は薄かった。その分、長くて幅が広い。

「向こうが透けて見えるわ」

「すごいでしょう。陽の加減によっては薄紫に光るんですよ」

 ぱちぱちと瞬きをして、食い入るように観察する。これが馬の角だなんて信じられない。まるで宝石のような輝きを持っていた。

 彼は「危ないですから仕舞いますね」と軽々と扱っている。

 ミヤは好奇心が沸いてきて、「ちょっとだけ持ってみてもいい?」と聞いてみる。バルトは驚きながらも恭しく剣を腰から外して鞘をつけたまま手放した。

「あっ、わぁっ。バルトさん、駄目かも! すっごく重い!」

 腰を落として踏ん張っても支えられなかった。すぐさま彼は笑いながら柄を手に取った。

「ね。日頃から鍛えてないと、剣を持つ資格すらないんです。だからオレたちは日頃からこうして鍛錬を欠かさないというわけです。ほら、あそこに資格を持たない哀れな見習いたちがいますよ。存分に見学して鼻で笑ってやりましょう」

 バルトは嬉しそうに騎士見習いたちを指差した。

 ミヤと同い年くらいの少年たちは、突然の訪問客にお互いに顔を見合わせる。

 バルトが手を叩くと、彼らは駆け寄ってくる。総勢で三十名ほどだった。これで半数だという。人数が多いので交代で訓練場を使っているのだと説明された。

「もたもたするな! 聖女ミヤ様に敬礼!」

 少年たちはバラバラと敬礼をした。バルトはそれが不満だったのだろう。何度かやり直させた後で、ようやく振り返った。

「ミヤ様。今は見込みのない奴らですが、あと数年叩いて伸ばせば、運が良ければこの中から聖騎士が出ることもあります。よく顔を覚えてやってください」

「え、と。紹介ありがとう、バルトさん」

 ミヤは彼らの顔を見渡した。真っ直ぐな視線を返してくる者、隣をひそひそと話し合う者など、反応は様々だった。

 その中で、一人の少年に気が付いた。

(あ。カイルだ)

 ミヤが聖女として大聖堂に連れてこられたのと同時期に彼も騎士見習いとなった。

 カイルは同郷の出身だ。村を出る際にミヤがあまりに泣くものだから哀れに思ったのだろう。ついてきて以降、そのままここに居場所を見つけたらしい。

 聖女となってからはとんと接点がなかった。

 それでも村にいるときは毎日のように仲良く遊んだ仲だ。

 顔見知りの存在に嬉しくなって、にこりと笑顔を向けた。

 するとカイルはこちらをチラリとも見ずにプイと顔を背けてしまう。

「あれ? 何で?」

 首を傾げ、彼の顔を見ようと体も傾く。バルトはそんな彼女の肩を支えた。

「何かありましたか?」

「……ううん。何でもないの」

 もしかしたら知り合いだと知られたくないのかもしれない。

(カイルにはカイルの事情があるもんね)

 村では余所者だった彼に友人と呼べる相手は自分くらいなものだった。

(ここでは他の騎士見習いの子たちと仲良くやってるといいな)

 チクリと胸を刺すような寂しさを感じたが、ぎゅっと堪えた。

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