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精霊王に選ばれた私ですが、幼馴染騎士だけは跪いてくれません  作者: 江尾
三章

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 浄化の儀とは、ある一定以上の年齢になった聖女たちが国中を行脚して瘴気を払う儀式のことを指す。

 これまでは短期間の遠征で瘴気の侵食を抑えていた。聖女たちも十六歳になり、ある程度浄化の力も使いこなせるようになっていた。

 浄化の儀の手始めとして選ばれたのは、以前浄化に訪れた東の森付近の山岳だった。

 隣国の国境に面している。敵対している隣国の軍勢がいつ押し寄せてくるか分からないような状況で、あえてそこを選ぶのには理由があった。国王の勅命があったのだ。当然、危険だという反対の声も挙がったが、表立って逆らうことは憚られた。

 準備の最中、ミヤは怒涛の勢いで押し寄せる書類の山を均すことに全力を注いでいた。

 聖地では始まりの聖女であるミヤの許可を得ないと万事が停滞する。難しい文言が並んだ文章に目を回しながらもなんとか判を捺す日々だった。

 そんなことを五日も続けているとミヤの集中力と体力は限界に達した。

 少し前の、ゆったりとした時間を過ごす日常が恋しい。

 みんなの前で弱音を吐くわけにもいかず、隙を見てバルコニーから外を眺めて心を慰める。

(王子はあれから何度も顔を出すけど変なことはしてこない。アナスタシアとセレフィーナの様子も落ち着いてる。心配なのはエレオノーラだけだなぁ)

 ミヤは聖女四人で任務を遂行したかった。

 アナスタシアが荒れているのはお化け騒動の頃から知っていた。だから浄化の儀の前に片をつけることができたのは幸運だったと思うのだ。

(ちょっとだけズルはしたけど解決できた)

 指折り数えていく。ミヤにとって大切なことは両手に収まる程度の数しかない。

 その一つとして、聖女の勤めを最後まで果たすことが挙げられる。幼い頃に精霊王とした約束事だ。そこにミヤは『みんなで』を付け足した。

 だからその約束の障壁になるようなことが起きると、多少は人ならざる者の力を借りることができるというわけだった。カイルのために治癒の力が欲しいと願ったときと同じだ。神との約束は契約だ。ミヤだけが代償を支払うのではなく、精霊王のほうも必ず彼女に与えることになっている。

 精霊王はミヤに治癒の力を与える際、精霊たちに強く命じた。これまで通りはまかり通らぬ、と。第一の聖女であるミヤの呼びかけにこれ以上逆らうようであれば消滅させると脅しをかけた。おかげで最近は快適だ。今まで腫れ物に触れるように距離を置いていた精霊たちがミヤをまるで主人のように慕ってくる。

 そのおかげでミヤの周囲は自然と清らかな空気を纏うようになり、人々に安らぎを与えるようになった。はじめのうちは自覚はなかったけれど、最近の双子の聖女の反応を見ていて気がついた。

 セレフィーナは聖女の中でも特に性質が精霊たちに近しいのだろう。だから、聖域にも似た雰囲気を持つようになったミヤに異常なほどにくっつくようになった。

(猫にまたたびみたいなものね)

 のんきにも捉えられそうな感想を持ったが間違いではなかった。聖女はただの人ではないのだから双子の妹の反応は当然のことだと思った。予想外だったのはエレオノーラのほうだ。

 彼女は今、ミヤを避けているのだ。

(おかしいなぁ。聖女なら精霊王様の雰囲気を感知したら従順になるはずなのに)

 首を傾げ、悩み過ぎて身体まで傾く。

 エレオノーラの変化は不可解だ。意志が強いのか、あるいは神よりも愛する人がいるか。どちらもありそうだ。彼女の意志が強いことは言わずもがな。警戒心が強い代わりに愛情深い子だから、一度愛したらとことん愛し抜く。その対象はどう考えても妹のセレフィーナを置いて他にいなかった。

 だから不思議なのだ。

 妹が好きな人をなぜ姉である彼女も愛さないのか。それどころか避けるというのは一体どういう心境なのだろう。

 ミヤは自身が人並外れた存在になろうとしているということに無頓着だった。理解はしているが、それによって畏れを抱かせるとは考えない。

 彼女にエレオノーラの気持ちは一生分からないのだ。

(浄化の儀までに仲直りしなくちゃ)

 だから一時のことと楽観的に考えてしまう。これまで上手くやってきた仲なのだから、元に戻れると思い込む。

 ミヤは生きてきた世界の狭さゆえに無知で、誰よりも無垢だった。

更新が遅くなってすみません。

執筆以外の創作関連作業に注力しておりました。

本作は不定期更新にはなりますが完結まで持っていけるよう頑張ります。

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