表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊王に選ばれた私ですが、幼馴染騎士だけは跪いてくれません  作者: えびのおすし
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

28

 聖地に帰還した際、信じられない光景を目にした。

 ミヤとアナスタシアが、身を寄せ合って笑っている。手元には本があり、その内容について歓談していたのだろう。二人の距離は額がくっつきそうなほどだった。

「なに……してるの……?」

 エレオノーラは足音荒く歩み寄った。手のひらに爪が食い込むほど強く握り込んだ。

「おかえり、エレオノーラ。王都まで迎えに来てくれてたのにごめんね。すれ違っちゃった」

 ミヤの様子は普段と変わりなかった。

 二週間、牢獄に入れられていたとは思えないほどの朗らかさを振りまいている。

 その傍らで口元に笑みをたたえる聖女を、エレオノーラは睨みつけた。

「どうしてまだアナスタシアがここにいるの?」

 当然、彼女が今回の責を負うべきだと思っていた。それなのに、未だにミヤの隣に在ることを許されている。

 もしかしたら真相を彼女は知らないのかもしれないと思った。魔物を招き入れ、聖女ミヤの地位を脅かした。怪我をした騎士も多い。壁面の修理だって、容易ではない。

 なにより、王子に貸しを作ってしまった。何を要求されるか分かったものではない。もし今後、そのせいで再び彼女に危害が及ぶようなことがあったら。もしセレフィーナが泣くような事態になったら。エレオノーラはアナスタシアを許さない。

「なにって、本を読んでたの。おもしろいのよ、これ」

 のんびりとした口調で見当外れな返事が戻ってきた。

「は?」と、エレオノーラの口からは不機嫌な声が零れ出る。ものすごい勢いで頭に血が上った。

「わたし、そんなこと聞いてない。質問に答えて」

「あれ? えっと、あのね。魔物の件かな。あれならもういいの。解決したから」

「アナスタシアに訊いてるの。ミヤは黙ってて」

 睨みつけて黙らせる。困ったように眉を下げた少女は、ちらりとアナスタシアに目配せした。

「決まってるじゃない。ミヤが良いって言ったからよ。それより何なの、ミヤに対してその口の利き方。失礼じゃない」

「ミヤが良くても、わたしが納得してない! あなた、よくものうのうと居座れたものね。今まで仲間みたいな顔をして、わたしたちを騙して、信頼を裏切った! 最低よ!」

「待って。待ってよ、エレオノーラ。アナスタシアだって被害者だよ。そんな言い方しないであげて」

「王子がミヤを保護するか、あのまま切り捨てて本当に犯罪者として断罪するかは、紙一重だった。彼が後者を選択したとき、どうするつもりだったの? まさか、ミヤが連れて行かれたときみたいに部屋に引きこもって関係ない顔するつもりだった?」

「そのときは……お父様に何とかしてもらえばいいって思ってたわ。公爵家から働きかければ、釈放なんて簡単に……」

「公爵家? あなた公爵家の言いなりじゃない。ご父君に『ミヤを見捨てろ』と言われたら? 逆らえないでしょう。臆病者だものね、アナスタシアは」

 アナスタシアは何も言い返せなかった。

 それまでおろおろと二人の間で視線を彷徨わせていたミヤが「エレオノーラ!」と咎める。

「何よ。本当のことじゃない。臆病者、嘘つき。聖女たる純潔さをどこに置き忘れてきたのかしら」

「エレオノーラ。いい加減にして。私が良いって言ってる。だから、良いの」

 ミヤが珍しく怒った顔をしていた。眉間に皺を寄せているところなんて初めて見た。言い返そうとしたが、彼女を目の前にしてしまうと急激に気持ちが萎んでいってしまう。

 頭の中を『ミヤに叱られた』という事実が渦を巻く。それだけで地に落ちていくような心地がするのだ。

 この奇妙な感覚に、エレオノーラは戸惑った。

 ミヤを観察する。

 何かが明確に変わった。そう思った。

 得体の知れない寒気に襲われる。

「王都で、何があったの……?」

 最後に会ったときと今では何かが決定的に異なっている。

 あの監獄で何があったのだろう。ミヤがミヤでなくなってしまった。そんな危惧を抱え、エレオノーラは唇を震わせる。

 ミヤはきょとんとした。

「王都で? 何もなかったよ。あ、精霊王様に会ったことくらいかな。治癒の力をもらったんだよ」

 それだ。精霊王。見たことも、声を聞いたことすらない彼の気配をひしひしと感じる。

 アナスタシアを見て、確信した。

 視線がミヤにだけ向けられている。熱心な信徒のように、彼女だけを唯一のものとして崇めるように。

 息が浅くなっていくのを自覚した。喉が締めつけられる。

 ミヤが、精霊王と同等の存在に近づいてしまった。

 無垢な少女が神聖を帯び、信徒を従えて益々力を得たのだ。

 ごうごうと耳鳴りがするのを感じた。濁流のように押し寄せてくる。

 エレオノーラは今、神を目の前にしている。

 ふらつきながら外に出た。恐ろしかった。はやく逃げたくて、その場を離れた。

 途中、セレフィーナともすれ違う。だが、妹は姉に気付かなかったように傍を通り過ぎた。

 そうして嬉々とした表情でミヤの自室の戸を叩いた。ドアが大きな口を開けて妹を吞み込んでしまう。

 怖気が背筋を這い上がる。エレオノーラは、底知れぬ谷底に突き落とされたような心地がした。

3/16(月)から三章の投稿開始します。

もしよろしければ、評価や誤字報告、ブクマなどいただけたら励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ