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ミヤとバルトが次々に魔物を倒していく光景に騎士たちの士気が上がる。
押され気味だった守りの手がより堅牢になり、終わりが見えてくるのが分かった。
壁の向こうに、一際大きな体躯の魔物が現れた。その姿には見覚えがあった。
額に四つ角を携えた熊に似た魔物。
かつてアナスタシアたちの任命式にも現れた個体に酷似していた。
短く、強く息を吐く。
己の感情を抑えつけるために最も適切に対処した。
(あのときとは違う)
ミヤは一人ではない。支えてくれる仲間がいる。
それなのに胸の奥の騒めきを強く感じた。
例の魔物とミヤの間に立つものはなかった。バルトも騎士たちも別の魔物の相手で手一杯になっている。
魔物から目が離せない。
襲いかかられる前に浄化してしまえばいい。凶悪な爪で切り裂かれるより早く力を行使する。
魔物が地を蹴ると地鳴りがした。ミヤの小さな体が振動で揺れる。立っているのも困難なくらいだった。
(浄化が効いてない……!?)
他の魔物とは明らかに様子が異なっていた。浄化は間違いなく行使された。それなのに熊の魔物には通用していないように見えた。
全身から煙が立っている。
匂いすら伝わってくるほど目前に迫ったとき、彼女の前に立ちはだかる者があった。
カイルだった。
一撃目を鍛錬用の木剣で受ける。鋭い爪で剣はあっという間に木片になって砕け散った。
「カイル!」
喉の奥が焼けるように痛む。
浄化の手を止めるわけにはいかない。倒れ伏した彼の安否を確かめるために駆け寄りたい。
しかし、ミヤにそれは許されていなかった。
二度、三度と力を行使した。それでようやく魔物の足は止まる。
すぐさまカイルの元へと急いだ。
血溜まりの中にいる彼はピクリとも動かなかった。
ミヤはすぐに治癒の力を使おうとした。これまで一度も成功したことはない。無我夢中だった。
(どうしよう……どうしたらいいの!? カイルが死んじゃう……!)
いくら手に力を込めても、習ったように目を閉じて詠唱を口走っても何も変わらなかった。
息ができなくなっていく。
喉が勝手に閉まっていき、苦しくなる。
彼の名を呼びたいのに声が出なかった。
じわじわと広がっていく血の海にどうすることもできない。
目に涙が溜まっていくせいで、前がよく見えない。カイルの肩を揺らし、何の反応もないと分かると絶望が胸を占拠した。
――最後の手段だった。
心の中で『かの人』を呼ぼうとした。その時だった。
「聖女ミヤ。とんでもないことをしてくれたね」
振り返ると、そこには王子が配下の者たちを引き連れて立っていた。




