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【聖女の条件:純潔であること】 ~欠陥聖女の私と、幼馴染騎士の秘めたる執着~  作者: えびのおすし
一章

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2

 大聖堂は荘厳な雰囲気に包まれていた。

 第一の聖女任命から半年経ち、今日ようやく第二から第四の全ての聖女が揃ったのだ。

 正面の壇上までの道のりの左右を、聖者たちの白い装束が連なっている。彼らは身動きもせず、視線を小さな少女たちに向けていた。

 少女たちは体をすっぽり覆う正装を身に着けている。

 先頭から二番目の少女はツンと顔を上げて前だけを見つめている。

 それに続くのは不安に満ちた顔つきで手を繋ぎ合う、よく似た雰囲気の双子。

 三人の少女たちの先頭を歩く、一際幼い少女がいた。こちらは一人だけ頭に金糸で装飾された冠を乗せている。

 聖女任命の儀の主役となる彼女たちは、一身に大人たちの期待と、小さな体には不釣り合いな程の大きな責任を負っていた。

 一番前を歩く聖女ミヤは、一足先に任命式を終えている。

 他の子たちよりも早くに才覚を見せたからだ。

 彼女は先輩として良いところを見せようと気負っていたが、四人の聖女たちの中で背丈が最も低いせいで、思っているほど威厳を表せてはいない。

 先輩といっても彼女が他の聖女たちに教えられるのは、高い天井を見上げるとめまいがするからやめておけくらいのもので、聖女としての格に大差はなかった。

(早くみんなと仲良くなりたいな)

 周囲には大人しかおらず、聖女相手に気軽に話しかけてくる者も皆無だった。同年代で同じ役割を与えられた少女たちを前にミヤは喜びが隠せていない。

 緩みそうになる口元を引き結んで、これから楽しい日々が始まることを想像していた。

 大司教様の前まで聖女たちをエスコートすることが、ミヤに与えられた仕事だった。

(絶対にミスは許されないわ)

 気負いつつ歩を進め、無事に大司教の前まで辿り着いた。

 あとは傍に控えているだけでいい。

 静かに頭を下げ、他の聖女たちに道を開ける。ホッと息を吐いて振り返った――そのときだった。

 にわかに出入り口の辺りが騒がしくなる。

 リハーサルになかった事態にミヤは目を丸くした。

 蜘蛛の子を散らすように聖者たちが逃げ惑う。

 その中心に躍り出たのは一体の魔物だった。

 それは熊と酷似した外見をしていた。額から二本の鋭い角が生え、周囲には瘴気が充満している。

(何で!? どうしてこんなところに……!?)

 涎を垂らしながら、猛然と四つ足で迫ってくる。大理石の床が軋む音が、耳に痛いほど響いた。

 ミヤは体が固まってしまう。

 魔物の目的は明白だった。

 魔物は立ちふさがる騎士たちを軽々となぎ倒し、鼻先で払う。

 逃げようとした双子の聖女のうちの一人が転んでしまう。足がもつれ、腰が抜けている。片方が必死で片割れの手を引いた。

「わっ、私が止めますっ!」

 ミヤは彼女たちを守ろうと前に出た。

 彼女には騎士たちのように腕力や武器こそなかったが、瘴気を浄化する力なら持っていた。

 突き出した腕がガクガクと震える。唇がわななき、詠唱さえも儘ならない。

(それでも、私がやらなくちゃ)

 未だ力の使い方を知らない聖女たちを守ることができるのはミヤだけだ。

 しかし、彼女が力を発動する前に白銀の衣に身を包んだ騎士たちが間に合った。先程の平の騎士たちとは一段違う。彼らは聖騎士と呼ばれる特別な存在だった。

 一太刀で魔物を切り捨てる。

 そして、平時と同様にゆっくりと余裕のある動きで彼らは聖女である少女たちを振り返った。

 ミヤは肩で息をしながら、その場にへたり込んでしまう。息も上がっていない彼らとの違いに打ちのめされながら、差し出された手のひらを取った。

「聖女ミヤ、ご無事ですか?」

「え、ええ。大丈夫。他のみんなは?」

 振り返ってみると、他の聖女たちも怪我はないようだった。駆け寄ろうとして、膝から力が抜けてしまう。転びそうになるところを、また聖騎士に支えられた。

 すぐ後ろを歩いていた彼女は、落ち着いているように見えた。同じくらいの年頃の侍女のほうが取り乱しているようだった。彼女はミヤの視線に気付いて、フンとそっぽを向く。

 どうしてそんな態度を取られたのか分からず、ミヤは戸惑う。

 双子の聖女たちは手を握り合いながら震えていた。こちらはミヤのことなど眼中にないようだった。お互いの無事を確かめると、そのまま別室へと向かってしまう。

 他の聖女たちに話しかけるタイミングを完全に逃してしまった。

 立ち尽くすうちに周囲では魔物の後始末が始まっていた。

 やがてミヤ付きの侍女が呼びに来る。

(あ。式の後でお茶しようって誘おうと思ってたんだった……)

 とんだ横槍が入ってしまったせいで、それどころではなくなってしまった。

 シュンと肩を下げて俯く。尖った唇を隠そうとしても、なかなか元には戻らない。

(途中までは上手くいってたのになぁ。今夜の夕食時にでもまた声をかけてみよう)

 そう思いながら、ミヤも大聖堂を後にした。

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