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精霊王に選ばれた私ですが、幼馴染騎士だけは跪いてくれません  作者: えびのおすし
二章

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 まぶしい、とミヤは呟いた。

 今日という日のためにシャンデリアには数百本の蝋燭が灯され、入室した聖女たちを照らした。

 普段は光量を抑えているおかげで、全く別の見知らぬ所に来たようだと感じた。

 影が濃い。チカチカする目を瞬きして、なんてことない表情を作った。

 余裕はなかった。ただでさえ王族との謁見のために即席で身につけたマナー基礎が頭の中で高速で回っている最中だ。

 そこに更に平時とは違う室内の様相を受け入れる余裕など、ミヤにはなかった。

 口元に薄く笑みを浮かべる。

 完璧なはずだ。鏡の前で、アナスタシアやエレオノーラとああでもないこうでもないと何時間も練習したのだから。

 王子が連れてきたという楽団が奏でる音の奔流に意識を乱される。こんなときでなければ、優雅なメロディーに耳を傾けることもできただろう。しかしテーブルについた王子とセレフィーナを前にして、聴覚からの刺激はいっそ暴力的な程だった。

 食堂は狭くはないはずだったが、壁側に護衛の兵士たち、反対側には騎士たちが同様に並んでいるため、一気に圧迫感が増す。

 甲冑に蝋燭の火が反射して煌めく。光が溢れている。目がとろけてしまいそうだ。

 いつまでも入り口で立ち止まっているわけにはいかず、深く息を吸ってから踏み出した。

 履き慣れないヒールの踵が絨毯に刺さる。

 足元がとにかく気になって仕方がない。頭に刺さった宝飾品が重い。自然と視線が下がりそうになり、必死で顎を上げた。

 ミヤが近付くと、まずセレフィーナが立ち上がった。スッと身を引き、道を開ける。

 目の前に来て初めて、この帝国の王子は立ち上がった。

 背が高い。髪の毛が金色で、この場で最も光を放っているのは彼だと思った。

 美形に分類されるのだろう。整った顔付きをしているとは思ったが、それだけだった。

 聖女たちより年上の、少年だった。

(人間だわ)

 絵本の中の王子様とは似ても似つかないと思った。対峙しているのはただの人間。そう認識を改めた。

 王子という神聖じみた色眼鏡で見ることは早々にやめた。

 少しばかり気持ちが楽になった。

「遠い所をようこそお越しくださいました」

 練習通りにドレスの裾をつまんで膝を折る。

「はじめまして、聖女様。会えて嬉しいよ」

 顔が綺麗な人は、声まで格好良い。

 新たな発見に目を瞬かせる。

 口元に上品な笑みを浮かべた。

「殿下とお会いする機会をいただけて光栄です。すぐにお出迎えできず、申し訳ございませんでした」

「いやいや、聖女様は何かと忙しいでしょう。それに、セレフィーナ嬢の話も面白かった。彼女は博識だ」

「……聖女セレフィーナとお呼びくださいませ、殿下。彼女は貴族としてここにいるのではございません」

「ああ、そうだったね。聖女様の言うとおりだ」

 お互いに微笑みを崩さない。心中で嫌な予感が鎌首をもたげる。

 王子とは隣同士に座った。食堂の中央に長く伸びたテーブル。入り口から一番遠いところで二人の権力者は並んだ。

 三人の聖女たちは、念の為、ミヤの側に来るように右手側に席を置いた。その判断は間違いではなかったと、王子と短く言葉を交わしただけでも分かった。

(この人、みんなのことを絶対に聖女って呼ばないつもりね)

 気持ちを落ち着けるために、手に持ったナイフとフォークを見つめて深呼吸をした。

(ナイフをぶん投げてやりたい気分。すっごく失礼な人)

 聖女は国土に蔓延する瘴気を浄化するという使命を背負っている。

 十代の女の子が、たった四人で。

 その覚悟と役目を侮られているような気がした。そしてその読みは間違っていないのだろう。

 先程からセレフィーナの表情がピクリともしない。既に感情を押し殺しているのだろう。

 彼女はとても自分に正直な人間だが、立場を弁えて沈黙を保つこともできる。

(セレフィーナには悪いことしちゃったな……後でたくさん抱きしめよう)

 きっと怒涛の勢いで王子に対する愚痴が溢れ出てくるだろう。

 その姿を想像すると幾分か心が軽くなった。彼に対して良い感情を持っていないのは私だけではないという確信を得たおかげだ。

「お役目の進捗はどうかな。今度、長期で遠征に出ると聞いたよ」

「問題ございません。騎士たちも引き連れて行くつもりですから、魔物の妨害があっても、王家の方に報告しているスケジュールからは遅れないように万全の準備を整えています」

「瘴気が想定より早く広まっているようだけど、それを受けて何か変更は?」

「ありません。……今のところは」

「そう。まあ、期待してるよ。聖女様は歴代の聖女たちよりも遥かに精霊王の寵愛を賜っていると、もっぱらの噂だからね。君が大丈夫と言うなら、そうなんだろう」

 信頼に基づく期待ではないのだろう。試されていると感じた。遠征中に何か一つでもミスをすれば、恐らくそこを強く責められるであろうことは予測できた。

 ミヤは顔を上げる。

 視線だけを彷徨わせ、目当ての人物を見つけると奥歯を噛み締めた。

 出入り口に近いところで直立不動のまま、ちっともこっちを見てくれない幼馴染をしばらく見つめた。彼は正面の兵士のほうを向いている。

 カイルの助けを期待してしまった自分に気付いて、慌てて手元の食事に集中した。

 晩餐会という名の報告会は、表面上は和やかに終わった。「しばらく滞在するね」という王子の言葉に内心で肩を落としたのはミヤだけではない。

 既に限界を迎えていたセレフィーナからの刺すような視線を感じながら、「ええ。喜んで」と答えた。

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