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精霊王に選ばれた私ですが、幼馴染騎士だけは跪いてくれません  作者: えびのおすし
二章

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 聖女ミヤという存在は異質だった。

 聖地という、王権を以てしても不可侵な場所で、彼女はただ一人、まるで権力など知りもしない顔をして自由気儘に振る舞っていた。

 実際、彼女自身は己の持つ権限に対しては無頓着だ――と、聖女ミヤを数年間、間近で観察していたアナスタシアは断じている。

 有り体にいえば、中身が年相応なのである。

 聖女たちは今年十六歳になったが、ミヤは同年代の中でも一際無邪気な子どものようだった。

 お菓子の取り合いで本気で拗ね、夜は寂しいと言いながら同じベッドで寝ようとする。中身が子どものまま大きくなったようだとよく思う。

 とはいえ、アナスタシアの世界は狭い。

 十歳で聖地に招かれてから、彼女の世界は閉じた人間関係の中で構築されていた。

 同じく聖女のセレフィーナも不思議な子だ。ただあの子に関しては何も考えていないに等しい。考えたことが全て口から流れ出るので裏表がない。

 対して双子の姉であるエレオノーラは主張しないタイプだ。しかし表情に全て出る。あれはあれで分かりやすくて良い。

 ミヤは素直ではある。

 言葉はストレートで喜怒哀楽もハッキリしている。

 だが時折、彼女は別人のようになってしまう。

 たとえば、精霊王の代理として振る舞うとき。

 たとえば、聖女として重要な決断を下すとき。

 ミヤはミヤでなくなってしまう。

(取り憑かれているみたい)

 あまりの豹変ぶりにアナスタシアはいつも背筋が凍るような思いがする。

 数年、同じ聖女としてだけでなく、彼女と友人として接した身としては、あの子が無理をしていないだろうかと、そればかりが気になる。

 そんなことすら感じさせないくらいに普段の彼女は無垢であり続けた。だからこそ心配なのだ。

 ミヤの幼馴染だという少年。あれは駄目だ。

 彼女の意志を尊重し過ぎる嫌いがある。いざというときに歯止めにならないに違いない。ミヤと一緒ならば地の底に堕ちても構わないとでも思っているのだろう。

 だからアナスタシアは他人に期待するのはやめた。

 友人として、彼女に近しいものとして、あの幼気な少女を自分が守らなくてはならないと思っている。

 聖人たちは当てにならない。

 ミヤの一声で罷免されることを知っているはずなのに己の私腹を肥やす術を画策している者ばかりだ。彼らは大抵、聖女に取り入ろうと過剰に媚び諂うか、逆に非を指摘されないように距離を取るかのどちらかだ。

 侍女たちについては言うまでもない。彼女たちは雇われている身であり、出自は大抵修道院だ。つまり没落貴族の成れの果てか、孤児からの成り上がりということになる。

 騎士たち、そして見習い騎士は、最も避けるべき存在だ。

 彼らはミヤの教育上、大変よろしくない。

 年々美しく成長していくミヤを、あろうことか聖女を、異性として見る者が多過ぎる。

 これに関してアナスタシアは断固、抗議と非難の声を上げ続けてきた。

(ミヤはわたくしたちが大事に、それはもう籠の中の鳥のように箱入りに育ててきた子。そうだというのに男性たちの浅ましいこと!)

 相手にされるとでも思っているのだろうか。

 いや、その前に聖女三人でどんな輩が相手だろうが追い返すつもりではある。

 長い睫毛はミヤの大きな目を更に強調している。鼻はすらりと高く、対して唇は小ぶりで小動物のよう。長く伸ばした髪は腰に届くほどで、春風に吹かれてさらさらと流れていく様は誰もが見惚れてしまう。華奢な体躯は聖女たちの中で目立つ。そのくせ表情がくるくると変わり、飛び跳ねて感情表現をするので目が離せない。

 そんな彼女を好ましいと思うのは分からない話ではなかったが、騎士たちの目付きには見惚れているだけではないと感じさせるのに充分な熱が籠っていることを、アナスタシアはもちろん、ミヤ以外の聖女たちは気付いていた。

 一際、その熱の度合いが高いのがカイルという見習い騎士だった。

 しかし彼に関してアナスタシアは心配していなかった。

 なぜなら執着なら人一倍あるようだが、ミヤが嫌がるようなことはしないだろうという信頼だけはあったからだ。

 カイルの幼馴染に対する感情はじっとりとしていて、執着と愛情がないまぜになっている。守りたいという意志だけは固いようで、それは故郷から一途に彼女を追いかけ続けて平民から騎士を目指していることからも明白だった。

 彼がミヤを害することはない。その点においては間違いない。

 なにより、彼は虫除けにちょうど良かった。

 ミヤに秋波を送る者があれば目ざとく気付いて牽制している。実に好都合だ。是非あのまま、無自覚で無垢な少女を守るために奔走してほしい。

 純粋無垢に見えて、その実、得体の知れない『はじめの聖女』。ミヤ・アルケアに、その頃の誰もが心を奪われ、そして夢中だった。

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