14
アナスタシアからお茶会の誘いを受けて、すぐさまミヤは快諾した。
待ち受けていたのは彼女一人きりだった。
周囲に他の聖女の姿も、例のサンという侍女もいない。アナスタシア付きの聖騎士の姿もなく、ミヤは後ろを振り返って、シンシアをはじめとする侍女たちを下がらせた。
庭園の東屋で二人は向かい合う。
アナスタシアは普段と変わらないように見えた。
「誘ってもらえて嬉しい!」
ミヤは笑顔で紅茶に口をつけた。甘いかおりの中に僅かな香ばしさがある。
すんすんと鼻を動かしていたけれど、目の前の聖女に見られていることに気付いてカップを下ろした。ソーサーに当たった音が口火を切る合図だったかのようだ。
アナスタシアは「来ていただけないかと思いました」と静かに言った。
「どうして? 私はアナスタシア様とも、他の聖女のみんなとも仲良くなりたいって思ってるよ」
「ですが、あなたとわたくしたちでは立場が違う。『はじめの聖女』であるミヤ様は、聖地メディティアでは精霊王と同等の権限を持たれている」
彼女は頑なな態度を崩さない。まるで、あの晩に会話したときのことはなかったことになってしまったかのようだ。
ミヤはそれが寂しくて、シュンと身を縮ませた。
「噂は本当だったのですね。ミヤ様がここに来て、初めにやったことは、当時の聖人たちを全員クビにすることだった」
まるで断罪されているような気持ちだった。容赦のない言い方がミヤは悲しかったけれど、数回瞬きをするだけで堪えた。
それに彼女の指摘は間違っていない。
今回、横領をした聖人たちへの処分と同様に、聖地に来たばかりのミヤは当時の聖人たち全員に国外追放を言い渡した。それにはしっかりとした訳があるけれど、アナスタシアに理解してもらえるかどうかは分からない。
「……どうして、帝国には聖女が必要だと思う?」
唐突な問いにアナスタシアは怪訝そうに眉を顰めた。
「言い方を変えるね。精霊王がいるのにも関わらず瘴気が発生するのはなぜ? 聖女アナスタシア。あなたはそれを考えたことがある?」
ミヤは、まるで別人のように表情をなくしたまま彼女に問いかけた。「聖人たちへの罰は精霊王様がお決めになったこと。私の意志は関係ないの。代理人として履行することを強いられている」
「彼と話したことがあるみたいな言い方ね」
「精霊王様は……聖人たちだけでなく、私たちにも『純潔』であることを求めてる」
「知っているわ。聖女になって最も初めに習うことだもの。純潔さを保つなんて簡単よ。異性に近付かなければいいだけのことなのだから」
「ううん、違う。その教えの意味を言葉のままだと思っているなら、きっとあなたは早くにお役目を終えてしまう」
ぞっとするほどに温度を感じさせない声音だった。
神託のように厳かで、有無を言わせない響きがあった。
「お役目を終えてしまうって……わたくしが浄化に失敗するとでも?」
「聖女が役目を終えるときというのは浄化を完遂すること。これが一番良いよね。でも、もう一つの意味もある。志半ばで命を落とすこと――私が言ったのは後者だよ、アナスタシア様」
彼女は言葉を失ったように唇を震わせた。
風が東屋を抜け、紅茶の湯気が揺れる。その間、両者とも一言も発さなかった。
「でもね、私はアナスタシア様のことも、セレフィーナやエレオノーラ様のことを仲間だと思ってる。四人でお役目を終えたい。誰か一人でも途中で脱落するなんて嫌だし、できるだけ仲良くもしたい。アナスタシア様は私のことが嫌い?」
「好きとか、嫌いとかじゃないわ。あなたのこと何も知らない。だから周囲の噂から判断するしかない。正直、得体が知れなくて怖いわ」
「じゃあ、まずは相手のことを知ることから始めよう。私はミヤ・アルケア。上には兄が一人いて、家族は代々伯爵家の使用人をしてる。幼馴染のカイルは赤ん坊の頃から一緒に育った」
「アナスタシア・アイゼルン。アイゼルン公爵家の長女。下に姉弟が三人。両親については……言うまでもないわね」
ミヤはにっこりと微笑んだ。こんな世間話のような会話すらも拒否されたらどうしようと、内心ではドキドキしていたのだ。
「私たちは協力するほうがいいと思う。聖女は一人では務まらない。四人いなくてはいけないの」
「それも、精霊王様に教えていただいたの?」
彼女の雰囲気が少し緩んだのが分かった。あえて歩み寄ろうという姿勢を示してくれている。
「図書室の本に載ってたよ。今度一緒に行こう。セレフィーナとはもう何回も絵本を借りに行ってるの」
「そうだったの。ええ、もちろん参加させてもらうわ。その……」
「絵本同好会」
「絵本同好会にね」
ミヤは笑って答える。
アナスタシアの表情は固いままだ。それでも、今までよりは距離が縮まったとミヤは感じた。
2/14(土)から二章の投稿を開始します。
もしよろしければ、評価や誤字報告、ブクマなどいただけたら励みになります。




