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「フィンと何を話してた?」
外壁の小部屋に入るとカイルは待ち構えていた。
睨むような目付きで、いかにも不機嫌そうだった。
ミヤは「フィンって誰のこと?」と言いながら定位置である木箱に座る。
その名前に覚えはない。誰のことかは分からなかったが、予想はついた。
最近話した相手で、カイルがその場面を目撃したのであれば騎士か見習い騎士に間違いない。
(座り込んでた子のことかな)
あのとき見られていたと思ったのは錯覚ではなかったようだ。
北部出身特有の抑揚のないイントネーションが特徴的な子だった。少し早口で、ほとんど口元が動かない。ミヤののんびりとした口調とはまるで違っていた。
分かっているくせにと言いたげな視線に気付かないフリをした。
ミヤは知っている。カイルはとてつもないヤキモチ焼きなのだ。
村にいた頃も、他の子と遊んでいると近くには来ずに、遠くのほうでずっと立っている。
そのたびに「こっちにおいでよ。一緒に遊ぼう」と誘うのだが、カイルは頑なに拒否をする。そうしてミヤが一人になったタイミングでサッと近付いてきて腕を引っ張ってくるのだ。
(こういうときのカイルって本当に子どもみたい)
そういうところは嫌いではない。いじけている様子を可愛いとすら思う。
「上半身裸の男に近付くな。節操がない」
「男の子だよ。私たちとほとんど変わらない年齢でしょう? 男の人っていうのはバルトさんみたいな大人のことを言うの」
「一つ下だ」
「ほら。それなら、なおさらその言い方はおかしい」
「呼び方なんてどうでもいい。とにかくアイツとは親しくするな」
駄々をこねるような口調にミヤは思わず笑ってしまう。
「カイルはフィンのことが苦手なの?」
彼が、自分以外の他人を寄せつけない性格であることを知りながらも質問する。
小さな舌打ちだけが返ってきた。
「他の子とも仲良くしなくちゃ」
「お前に言われたくない。ここじゃ友だちがいないのは同じだろ」
「私はいるもん。まずはカイルでしょ。それから、セレフィーナとも友だちになった」
「俺は違う」
「違くないよ。意地悪言わないでよ」
さすがに眉を顰めて見つめると、彼は気まずそうに下を向いた。
「とにかく、嫌なんだ」
「フィンが男の子だから嫌なの?」
(もしかしたら男の子の友だちの中で、自分が一番の仲良しでいたいのかも)
きっとそうだ。
的外れな推測にミヤがうむうむと神妙に頷いている間、カイルは居心地悪く座り直していた。
「アイツはミヤのクッキーを持ってた。どこで手に入れたのか知らないが、例のお化け騒ぎと関係があるかもしれない」
「彼が泥棒したって言いたいの? そんな子には見えなかったけどなぁ」
「そんなの分からないだろ。ミヤはむやみやたらと人を信用する。用心しないと、将来、詐欺師に騙されて壺を買わされるぞ」
「カイルは警戒し過ぎなの」
睨み合い、先に降参したのは彼の方だった。それでもコツコツと足の爪先で床をつついて不満を訴える。
「心配なんだ。村にいた頃と違って、何かあってもすぐに助けに行けない」
守ってもらわなくても結構、と言いかけてやめた。カイルが本気で気遣っているのが分かったからだ。
「じゃあ、助けられる距離にいてよ。私、このあと厨房に行こうと思ってるの。もしお化けに襲われたらカイルが助けて」
「余計なことに首を突っ込むな。フィンじゃなかったらどうする。大人相手だと厄介だぞ」
「大丈夫。一人だったら危ないかもしれないけど、二人でなら何とかなる。私、カイルのことを誰よりも信頼してるの」
紛れもない本心だった。対してカイルは嫌そうな表情を隠すことさえしない。
「はじめから俺も連れていくつもりだっただろ……」
「さすが、よく分かってるね」
「幼馴染だからな」
ミヤがカイルの手を取ると、彼は口元を引き結んだ。
「行くのやだ? おばけこわい?」
「怖いわけあるか」
上目遣いで見つめる。すると彼は遂に降参したようだった。
手を繋いだまま、ひっそりと外へ出る。
月明かりが雲に遮られて一層暗く感じた。見回りの騎士に注意しながら二人は目的の場所まで走っていく。
どちらともなく笑顔になっていくのが分かった。
彼といる時間は特別だ。あっという間に時間が過ぎ去ってしまう。深夜に出歩くという高揚感も相まって、顔を見合わせると笑みが溢れてしまう。
「楽しいね!」
素直に思ったことを投げかけると、彼は頷いた。




