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双子の部屋は、聖女たちが生活する棟の二階フロア全てだった。ちなみにミヤは最上階の三階だ。南側がミヤのためにあり、北側がアナスタシアの生活域だった。
間取りはそれほど変わらないが、調度品がまるで違う。
ミヤは支給されたものだけで全てだったが、彼女たちは実家から様々なものを持ち込んでいるようだった。
白で統一されたソファーや、床に敷き詰められたフワフワの敷物を見て、(汚してしまったときにはどうするのかしら)と思った。
(貴族独特の洗濯方法があるのかな)
緊張から逃れるように、今の状況からは特に関係がないことを考えた。
双子付きの侍女たちは、聖女たちのために紅茶やお菓子の準備を済ませると、壁面に沿うようにして並び立ったまま、人形のように微動だにしない。それが少し不気味にも思えて、ミヤは肩に力が入ってしまう。
セレフィーナにとって侍女たちの様子は普段通りのものらしい。
彼女の所作は美しい。こちらに手を伸ばした際に衣服の波打つ様さえも、精緻に計算されたもののようだった。
「傷を見せて」
言われたとおりに腕を差し出す。
セレフィーナは無感動に傷跡を眺めた後、「『戻れ』」と呟いた。
瞬く間に傷が塞がっていく。ミヤには一向に応えてくれない聖なる光が眩しく感じた。
「自傷癖があるの? 見た目以上に深い傷で驚いたわ。根性あるのね」
「ううん。これは治癒の練習をしようと思って切ったの」
「わたしはそんな練習したことない。したくもないし」
痛いじゃないのよ、と当然のことを彼女は言う。ミヤは恥ずかしさを隠すために笑ってみせた。
それが気に入らなかったようだ。セレフィーナはムッと唇と尖らせた。
「あなた、お茶会のときも思ってたけど、悲しいときに笑うのはやめたほうがいいわ。どうしても笑ったほうがメリットがあるのなら、傷ついた顔を隠す練習をもっとすることね」
クッキーを食べてもらえなくて、笑って誤魔化したときのことを言っているのだと、すぐに分かった。
ぐっと言葉に詰まってしまう。
彼女の言うことは至極真っ当だ。反論の余地さえない。
「ハァ。泣きそうな顔しないでよ。わたしがいじめてるみたいじゃない」
「私、そんなつもりじゃなかったわ」
「分かってる。お父さまとお母さまにも、よく言われるの。『あなたは言い方が真っ直ぐ過ぎる』って。だから普段はお姉さまに前に立ってもらってるんだけど、二人きりだとそうもいかないわね」
何か思い出したように、セレフィーナは侍女に目線を向けた。するとすぐに一人が近付いてくる。
「ミヤ様。絵本は何が好き?」
「え、と。『創世記』です」
「あら。好みが合うわね。わたしも好き」
一緒に読みましょうということらしい。
「あの……」
「わたしはあなたがどういう人なのか知らない。だから何を言われたら嬉しくて、何をされると嫌なのかさえ分からないの。だからまずは一緒に遊ぶところから始めましょう」
「私とお友だちになってくれるの?」
「お友だちになれるかどうかも判断できないくらい、お互いのことについて知らないって今気付いたわ」
ミヤの表情は花弁が開くように明るくなった。
侍女が本を手に戻ってくる。子ども用に分かりやすく描かれた絵本を、彼女たちは覗き込んだ。




