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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第四卷:乱星海結丹編一海外激戦・虛天殿
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76-蛟喰い

 毒蛟が咆哮を上げると、その身に血の光が大いに輝き、すぐさま韓立に対して行動を起こさんとした。


 しかし、ほぼ同時に、この妖物はたちまち顔色を大きく変え、「ドン」という音とともに両膝を地面に叩きつけ、全身が膨張し変形していくのをただ呆然と見つめるしかなく、やはり身動きも言葉も発することもできなかった。


「死にたいのか!」


 この光景を見た風希は、顔に冷たい光を宿して怒鳴った。


 次の瞬間、彼の姿は突然にもとの場所から消え、幽鬼のように韓立の背後に出現すると、片手を上げて「シュッ」と音を立て黒い鋭い爪へと変え、力強く突き刺してきた。


 その動きは稲妻のように速く、韓立は警戒を強めていたものの、相手の動作に全くついていけなかった。焦燥感が心を掻きむしりながら、必死に体勢を捻った。


「カンッ!」という澄んだ音が響いた。


 まるで巨大な力で押し出されたかのように、韓立は十数丈も後方へと吹き飛ばされ、よろめきながらようやく体勢を立て直した。


 九階の妖獣の爪撃をまともに喰らったにもかかわらず、韓立はその場で心臓を貫かれることはなかった。


 妖修・風希も思わず呆気に取られ、凶悪な光を宿した目で韓立の背中、破れた衣服の下を凝視した。


 そこには銀白色の鱗が見えていた。彼の一撃によって、その鱗の大半は破壊され、内側の漆黒で艶やかな衣服が露わになっていた。


「内甲か?」風希は意外そうだったが、冷たく笑いを漏らすと、再び風と化し、姿を消した。


 この内甲が彼の一撃を防げたのだから、明らかに頂点に立つ至宝だ。だが次は、この甲冑も奴の命を救えまい。


 向かい側に立つ韓立も内心、運が良かったと安堵した。


 もしあの一撃が頭部を狙っていれば、今頃は死体になっていただろう。


 そして、蛮胡子のこの皇鱗甲は確かに異宝で、九階の妖獣の一撃を防げたのだ。


 このかろうじて得た時間を活かし、韓立は体勢を立て直すや否や、躊躇なく全身から青い光と金色の雷弧が迸った。青い光は目を刺すほど眩しく、金色の雷弧は狂ったように踊り、壮観な青元剣盾を形成した。


 同時に両手を上げ、二十余りの青い剣光が体外に噴出し、瞬く間に護盾の内側に新たな防壁を構築した。


 この一連の動作を終えた直後、風希の痩せて背の高い影が韓立の眼前に現れた。


 この妖物の顔は極めて陰鬱で、目に冷たさが走ると、口を開いた。中には眩しいほどの白い光が湧き出ているようだった。


 韓立の表情が急変した。まずい!


 この老妖が妖丹(内丹)を直接攻撃に使うとは、まったく防ぎきれる自信がない。


 韓立の心が冷たくなる瞬間、風希は口を閉じ、突然に体が数度揺らめくと、顔色がみるみる悪化し、立っているのもやっとという様子になった。


 韓立が一瞬呆けたが、すぐに相手の身体が微かに震え、腹部が凹凸に変形し始めていることに気づいた。


 この老妖は他の二妖よりはるかに修行が深いが、やはり霊液の薬力が発動し始めたのだ。


 韓立は大喜びし、遠慮なく指を向けると、二十余本の青竹蜂雲剣が蜂の群れのように一斉に飛び出し、妖物を囲んで乱斬猛刺した。


 しばらくして、韓立の顔に浮かんだ笑みは、徐々に固まり始めた。裂風獣は苦しそうに片膝をつき、両手で腹部を押さえているが、全身から淡い白い光を放っており、剣群がどんなに攻撃しても、この護光を破ることはできなかったのだ。


 しかもこの妖修は、辛うじて頭を持ち上げ、韓立を怨嗟に満ちた眼差しで睨みつけている。言葉は発せないが、その眼には憎悪の色が満ちていた。


 韓立はそれを見て、心臓が「ドキッ」と跳んだ。しかし少し考えた後、この妖物には何か護身の宝物があるに違いないと判断した。


 そうでなければ、彼が自分をここまで憎んでいるのだから、ほんの少しでも法力が使えれば、まず間違いなく自分を捕らえて殺し、恨みを晴らそうとするはずだ。


 そう考えると、韓立の心は少し落ち着き、両手を素早く印結ぶ。すると二十四本の飛剣が一斉に空中へと舞い上がった。


 瞬く間に、二つの眩い青色の光塊が空中で炸裂し、長さ数丈の巨大な青い剣が二本現れた。その刃は冷気森々としている。


 韓立の目に異様な色が走り、黙ったまま口を開くと、二つの青い気塊が飛び出し、それぞれの巨剣に吹きかかった。


 青気に触れると、巨剣は空中で光華を大いに輝かせ、軽やかな剣鳴とともに次々と落下し、凄まじい勢いで白光に包まれた裂風獣へと斬りかかった。


「ドン!ドン!」という二つの轟音が響いた。


 巨剣は白光に激しくぶつかり、青い光と白い光が入り乱れた。しかし二本の剣は白光をわずか数寸へと押し下げただけで、容赦なく弾き返されてしまった。


 この光景を見て、韓立はその場に立ち尽くし、呆然とした。


 一方の風希の顔には、嘲笑の色が浮かんでいた。


 相手のそんな表情を見て、韓立は思わず驚いた。そしてようやく気づいた。相手はまだ苦しみ悶え、身動きが取れない様子だが、腹部は膨らんだり縮んだりを繰り返し、四肢や頭部には異常な膨張は見られない。


 この妖物は、どうやら霊液の薬力を必死に押さえ込んでいるらしい。


 韓立の表情が一変し、何かを思い出したかのように慌てて顔を向け、他の二妖を見た。


 目に入った光景に、彼の背筋が凍った!


 毒蛟と亀妖という二匹の八階妖獣は、身体はまだ膨張しているものの、頭部と四肢は最初に比べてやや小さくなっていた。


 彼らから狂ったように放出される霊気を見る限り、明らかに薬力の抑制を試みている。ただ修行が裂風獣ほど深くないため、効果が遅いだけだった。


 韓立は深く考えている暇などなかった。指を向けて二本の巨剣を操り、瞬時に二本の青い虹へと変え、二妖を別々に狙って斬りつけた。


 この剣で裂風獣をどうにかできないなら、まずはこの二妖を始末する方が良い!


 そして韓立は、腹をくくると腰の霊獣袋を叩いた。無数の噬金虫が渦を巻いて飛び出し、韓立の低い鳴き声とともに、天を覆い地を隠す勢いで白光へと襲いかかった。


 裂風獣はこれほどの数の噬金虫が現れたのを見て、目に一抹の驚きの色を走らせた。


 しかし次の瞬間、無数の飛虫が白光を幾重にも包み込み、喰らい始めた。


 その時、二本の巨剣はそれぞれ巨亀と毒蛟の元へと到達し、斬りつけた。


 二妖は顔色を変えたが、微動だにできず、青い剣光が迫るのをただ見つめるしかなかった。


「カンカンカン!」という激しい斬撃音が響いた。二妖は巨剣の猛攻の下で、毫末の傷すら負わなかった。


 韓立はこれを見て、まるで木像のように呆然と立ち尽くした。


「ありえない…?裂風獣は宝物で護身しているから剣を受け止められたのだ。この二妖には、剣がまさに体に直撃したというのに、それでも毫末の傷も負わせられない!まさか八階の妖獣の肉体が、ここまで堅硬だとは!」


 韓立は我に返ると、もちろんそこで手を引くつもりはなかった。二本の巨剣へと指を向けると、腕ほどの太さの金色の電弧が二本、弾けるように飛び出し、二妖の肉体に確実に命中した。


 毒蛟と亀妖はこれほど太い辟邪神雷に直撃され、苦痛の表情を浮かべたが、すぐに何事もなかったかのように落ち着いた。ただ韓立を睨む目は、当然ながら一層凶悪になっていた。


 おそらく身動きが取れるようになるや、最初に韓立に飛びかかり、彼を八つ裂きにするだろう。


 韓立は背筋が凍る思いだった。


 再び振り返り、自分の噬金虫群を見る。神念を動かすと、全ての噬金虫が飛び上がり、覆われていた裂風獣を露わにした。


 白光は幾分か薄まっていたが、妖獣はなおも白光の中に安泰で潜んでいた。この白光は、これほどまでに対処が難しいのか。数万の噬金虫が一斉に喰らいついても、まだほとんど弱体化できていないようだ。


 この妖獣の護身宝物は、逆天的と言えるほどに強力だった。


 韓立が噬金虫に喰わせ続けるべきかどうか躊躇していると、その裂風獣・風希が口を開いた。


「人間め!たかが結丹期の修士ごときが、化形期の我ら妖族を手に負えると本気で思っているのか?もう少し待て。お前が生きながら死ぬよりも苦しい味を味わえるよう、存分にもてなしてやろう。」妖物は苦しそうにゆっくりと言い放ち、顔には凶悪な色が満ちていた。声は極めて平静だったが、その言葉に込められた狠辣さは、明らかにあふれ出ていた。


「ふん!そうか?」韓立は相手の脅しを聞くと、逆に冷静さを取り戻した。


 躊躇うことなく、空中の虫群へ指を向けると、数万の噬金虫の羽音が一気に高まり、方向を変えて残る二妖へと襲いかかった。


 一方の二本の巨剣は、空中の光罩(防御光壁)へと猛スピードで斬りかかる。


「やめろ!何という愚行を!お前はこれから海の蛟族に終生追われるつもりか。あの風雷翅はまだ煉製が完了していない。取り出せばすべてが台無しだ。それにあの霊翅は風雷の力でなければ駆動できん。お前が手に入れても何の役にも立たんぞ!」妖修・風希は韓立の行動を見るや、ついに慌てふためき、慌てて表情を変えて激しく叫んだ。


 韓立は冷笑を一つ漏らし、全く手を引く様子もなく、瞬く間に虫群が二妖の上に降り注ぎ、光罩も二本の巨剣の猛撃で今にも崩れ落ちんばかりに揺らいだ。


 何しろこの防御壁は煉器用に設けられたもので、防御能力はさほど強くない。


 裂風獣はこの光景を見て、元々碧緑だった瞳が一気に血走った。しかし体内の異物に制約され、打つ手立ては全くなかった。


 瞬く間に、毒蛟が天地を揺るがすような絶叫を上げた。


 続いて鮮やかな赤い血の光が虫群の中で炸裂した。無数の噬金虫がこの血の色に触れるや、黄色い煙と共に黒い水の塊へと化した。


 この血光は、実に猛烈な毒物だったのだ。


 韓立は目を細めた。少し離れた場所の状況が視界に入った。


 噬金虫の喰らいつきに耐えていた毒蛟の鱗甲は、ついに崩壊した。しかし妖身が皮を破られ肉が裂けた結果、無数の血光が体内から噴出し、それによって大群の飛虫が毒水と化した。間もなく、毒蛟の体にびっしりと張り付いていた甲虫は、わずかばかりしか残らなかった。


 この時点で毒蛟もまた全身傷だらけで、大量の碧緑の血が体中から滲み出ており、韓立を見る目は骨の髄まで憎しみに燃えていた。


 韓立は内心、戦慄した。毒蛟の名は伊達ではない。


 噬金虫はすでに普通の法宝すら傷つけられないほどに進化していたが、この毒光を浴びせられれば、あっさりと滅ぼされてしまう。その毒性の恐ろしさが窺えた。


 しかしすぐに韓立の顔に冷笑が浮かんだ。


 この妖物は知るまい、彼の飛虫はこんなものではないと。噬金虫の大半を損耗させる覚悟で、三妖のうち一匹でも滅ぼせればそれで良い。


 そう考えながら、彼は素早くもう一方、無数の飛虫に完全に覆い尽くされている亀妖の方を見た。


 喰い破る「シャリシャリ」という音は、一刻も途切れず鳴り続けていたが、虫の山は微動だにしなくなっていた。


 もし内部に微かに妖気が存在する気配があり、しかも高く盛り上がっていなければ、彼はこの妖がすでに息絶えたかと思ったところだった。


 心中に疑念が湧くが、韓立は深く考える余裕もなく、顔を引き締めると空中へ両手を振り、さらに数匹の霊獣袋を放った。


 すると虫の羽音と鳴き声が一気に煉器室全体に響き渡り、天井には十数万にも及ぶ三色の噬金虫が充満し、屋根全体を覆い隠した。


 これほどの数の飛虫群を見て、毒蛟はまず顔色を変え、次に絶望の色を浮かべた。


 白光の中の風希もまた、表情を一変させ、一瞬の恐怖を露わにした。


 群生霊虫は普通の霊獣に比べ繁殖期間が短く、一度の産卵数も多いとはいえ、繁殖にはやはり百年単位の時間を要する。認主孵化後も、実際に使えるようになるまで数十年の調教育成が必要だ。しかも霊虫の威力が大きければ大きいほど、階級が高ければ高いほど、かかる時間は当然さらに長くなる。


 だから修仙界では、虫使いの術を知る修士は数多くいても、虫使いとして乱星海に名を轟かせた者は稀だ。特に結丹期を超えると、ほとんど聞かれなくなる!


 そのような虫使い修士の大多数は、生涯で千匹以上の規模の霊虫を所有できれば幸運な方だ。それすらも、師匠から弟子へ、その弟子がまた次の代へとこれらの飛虫を伝えていくことで、かろうじてこの規模を保てる場合が多い。


 しかも霊虫類は他の霊獣に比べて脆すぎる。一度の戦闘で霊虫が全滅することも珍しくない。これが他の修士が霊虫の威力を知りながらも、虫使いの術を修める者が少ない理由でもある。


 韓立の噬金虫の恐ろしさは、風希も毒蛟もすでに味わっていた。八九階の妖獣である彼らでさえ、ぞっとするほどだ。だからこそ韓立がこれほどの数を放つのを見て、二妖はこれほどまでに信じられない思いだったのだ。


 もちろん彼らは知らない。これらの噬金虫はまだ成熟体に進化していない霊虫だということを。もし知れば、さらに顔色を失ったことだろう。


 韓立は毒蛟の目に宿った驚愕と怒り、怨毒の色を無視し、神念を動かすと、全ての飛虫の鳴き声が一気に高まった。数筋の流れとなって、次々と毒蛟の体へと猛降下していく。


 結果、血光が毒蛟の傷ついた妖体から再び噴出し、それに掃かれた噬金虫は次々と消滅した。しかし天井の虫群は死を恐れず、絶え間なく旋回して降り注いだ。


 わずか片時の内に、血光は減少し始め、薄れていった。さらに少し経つと、血光はこの妖物の死相浮かべた顔の中で、完全に消え失せた。


 韓立はこれを見て、目を輝かせた!


 虫群は遠慮なく降り注ぎ、毒蛟を瞬時に飲み込んだ。


 間もなく、高く盛り上がっていた虫の山は、高さが低く、大きさが小さくなっていった。


 鱗甲を破られた毒蛟は長くは耐えられず、ついに群虫に喰い尽くされて絶命した。


 この光景を見て、風希はわずかに顔色を変えたが、すぐに表情を平静に戻し、ただ冷徹な眼差しで韓立を見つめるだけだった。


 韓立が低く唸ると、虫群は元の場所から離れ、毒蛟の残骸の一部を露わにした。


 その残骸の中に、拳大の血の色をした妖丹が一つ、不規則に明滅していた。


 韓立の顔に一抹の異様な色が走った。まだ何も行動を起こさない内に、妖丹は青い光を一閃させて宙に舞い上がり、扉の方へと激しく飛び去ろうとした。


 韓立は迷わず指を弾くと、青い剣気が手を離れ、妖丹に命中した。


 妖丹はくるくると乱れ回った後、突然その中から一つの青い光の塊が飛び出した。中には一寸ほどの小さな蛟龍が包まれており、これが毒蛟の精魂(精魂)だった。


 この蛟魂は姿を現したと見るや、驚慌のあまり血の光を一閃させて、すぐに姿を消した。


 韓立の顔に冷たい光が走った。突然、腰のどこかの霊獣袋を叩くと、一筋の緑の光が袋から飛び出し、地面に落ちた。そこに現れたのは、何だか不満そうな、だらりとした小猿だった。あの啼魂獣である。


 韓立はこの獣の機嫌など構っている暇はなかった。その頭を軽く叩くと、啼魂獣は思わず大きな鼻を鳴らし、一道の黄光を噴出した。黄光は空中で一回旋すると、すぐにそばの何もない空間を覆った。


 結果、黄光が一閃した後、血のような赤い色をした小さな蛟魂が姿を現した。


 続いて黄光が後方へと巻き付くように引っ張ると、毒蛟の精魂は啼魂獣の鼻へと引きずり込まれていった。


 この蛟魂はもちろん、虎の口へ飛び込むわけにはいかない。途中で全身に眩い青い光を放ち、この青い光は一時的に黄霞を押しとどめ、その場で動きを止めた。


 さすが化形期の天地霊獣だ。魂魄の力の強さは、六七階の妖獣とは比較にならない。


 もちろんこれは、啼魂獣が幼年期にあるためでもある。さもなければ、その広く知られた名声にやや恥ずかしいかもしれない。


 しかし韓立の本意は、元々この蛟魂を啼魂獣に吸わせることではなかった。


 八階妖獣の妖魂は、この世界では極めて珍しいものだ。彼はそれを無駄にしたくなかった。


 そこで、啼魂獣の黄霞と毒蛟の魂魄が膠着状態にある隙に、韓立は身を翻すと一瞬で側へ移動し、無表情で五本の指を伸ばした。青い光が微かに光るその手は、まったく回避できない妖魂を正確無比に掴み取った。


 わずか一寸ほどの蛟魂は、五本の指の間で必死にもがき暴れた。しかし韓立はもう一方の手のひらを返すと、すでに用意してあった玉瓶を取り出した。


 手を一振り。「ヒューッ」という音とともに、蛟魂は青い光の塊に包まれ、瓶の中へと直接投げ込まれた。


 韓立は素早く瓶に蓋をし、慎重に収納袋へとしまった。これでようやく安堵の息をついた!


 次に、韓立は時間を全く無駄にしない様子だった。くるりと向きを変え、亀妖の方向へと歩き出した。


 しかしその時、空中で「パキン」という脆い割れる音がした。光罩はついに二本の巨剣の連続攻撃に耐えきれず、崩壊したのだ。


 韓立は顔も上げずに片手を広げると、大面積の青い光が噴射され、むき出しになった風雷翅を一気に巻き込んだ。瞬間的に手元へと引き戻された。


 彼は一瞥する暇もなく、振り返ってこの宝を収納袋へと押し込んだ。


 この行動を見て、傍らにいた裂風獣は心臓が血を吐きそうになり、ようやく落ち着いた表情が再び怨毒に満ちた様相へと変わった。


 しかし韓立の視線は、高く積み上がった虫の山へと落ち、口から低い鳴き声を発すると、虫群は地面から飛び立ち、下にいた亀妖を露わにした。


 目に飛び込んだものに、韓立は思わず冷たい息を吸い込んだ。


 この妖物は全身傷だらけで、血と肉がぼろぼろになっていたが、全身から土黄色の淡い光を放ち、むき出しになった肉が絶えず蠢いている。韓立の眼前で、驚くべき速さで再生し、癒えていった。


 瞬く間のうちに、傷口の大半は癒えたかのようだった。


「自治の体(自己再生体質)」


 韓立は驚愕の表情を浮かべ、口の中が苦くなった。


 いわゆる「自治の体」は、妖獣の中では珍しくない。


 多くの低階妖獣が持つ、傷口を自己治癒させ、四肢を再生させる奇怪な能力だ。


 しかしこの本能的な天賦は、高階妖獣の中では非常に稀である。韓立がこれほど多くの六七階妖獣を滅ぼしても、この再生能力を持つものは一体も見たことがなかった。


 目の前のこの八階の亀妖が、まさにこの体質の妖獣だとは、当然韓立は大いに意外だった。


 しかしこれでは、韓立の厄介事は大きくなる。


 この亀妖の首を一閃で斬り落とすか、金丹を砕くことができない限り、噬金虫だけでは一時的に相手を死に追いやることはできない。


 少なくとも相手のこの天賦能力が尽きるまでは、彼には手の施しようがなかったのだ。


 残念ながら、彼の青竹蜂雲剣は煉成されてからわずか数十年。この剣に費やした培煉(育成)の時間は、さらにごくわずかだ。


 だからこの剣は、たとえ材料に三大神木の一つ「天雷竹」を使い、後に極めて珍しい「煉晶」を加えたものであっても、一本の威力としては同階の修士の本命法宝(命の法宝)と比べ、それほど強力とは言えない。


 彼が以前この剣で六七階の妖獣を斬殺できたのは、大半がこの剣の驚異的な数に頼って一気に効果を上げたものだ。数本、あるいは一組十二本の飛剣が一本の巨剣へと合成された時、その威力は当然同日の談ではない。これが成套法宝(セット法宝)の威力が強大な根本的な理由だ。


 しかし今回、明らかに巨剣術を使っても、この二匹の八階妖獣が修練で得た妖体を破るには至らなかった。


 韓立は飛剣が二妖に無効だと知った時、当然驚愕したが、後でよく考えてみると、これも当然のことのようだった。


 高階妖獣の十中八九は妖体を専修しており、中には元々皮が厚く肉が固い種類もいて、妖身を同階の修士の法宝を硬接しても無傷でいられるほどに鍛え上げる者さえいる。


 しかも妖獣の寿命は、普通の修士の数倍、時には数十倍にも及ぶ。


 こうなると、高階妖獣ほど、妖身を人間修士が呆然とするほどに鍛える時間が十分にあるのだ。


 これが原因で、元嬰期以前の修士は、法宝と知恵を頼りに八階以下の妖獣を倒せるが、妖獣が化形期を過ぎて妖身の修練が大成し、さらに知恵が開けると、逆に同階の人間修士を圧倒するようになる。


 蛟龍は天地霊獣の中の鱗甲一族に属し、八階で九階の普通の妖獣に匹敵するほどで、防御力は当然低いはずがない。目の前の亀妖は、亀類の中でも防御力が最も強大な種だ。


 韓立が培煉を始めてわずかな威力しか持たない飛剣では、動けない二妖にどうすることもできなかったのは、さほど奇異なことでもなかったのだ。


 もし相手が元嬰期の老怪(老獪な強者)で、数百年培煉した法宝を持っていれば、二妖が動けなければ当然命はない。


 あるいは、元嬰期の老怪が動けずに地面に横たわっているなら、韓立の現在の飛剣でも易々と斬殺できただろう。もちろん、肉体を妖獣とほぼ同じように鍛えた蛮胡子は、当然例外だ。


 辟邪神雷に関しては、魔功や邪術に対しては鋭いが、妖獣に対してもは克するということはない。神雷の威力は元々金雷竹自体に由来するが、韓立の現在の修為では、その真の威力の十の一、二しか発揮できないのだ。


 これらの事情を理解した韓立は、落胆もしなかった。


 彼はよく分かっていた。元嬰期に進階した後、さらに百年の時間をかけて青竹蜂雲剣を専念して培煉すれば、法宝の威力は当然飛躍的に向上するのだと。


 その時には数本の飛剣が合成した巨剣が、二妖の妖体防御を破ることは、決して難しいことではないだろう。


 何しろ青竹蜂雲剣は、彼が膨大な心血を注いで煉製した頂点の法宝だ。


 その潜在能力の大きさは、韓立も深く信じている。


 現在の韓立は、結丹後期の普通の修士や、七階の一般的な妖獣なら容易に斬殺できる。しかし元嬰期の老怪や八階妖獣に直面したら、正面から戦おうなどという気は起こらない。


 結丹期と元嬰期は、全く異なる世界なのだ!


 これらの考えが、韓立の脳裏を一瞬にして巡った。足元の亀妖と、もう一方の白光の中の風希を交互に見ながら、顔に陰りと晴れが交錯する奇妙な色が幾度か走った。


 彼は自問した。乾藍冰焰(乾藍氷焔)を使って危険を冒して試す以外に、短時間で二妖を滅ぼす方法は全くないと。


 しかしそうだとしても、韓立の推測では亀妖はともかく、裂風獣のあの異常な護体宝物を考えると、この妖を成功裏に滅ぼせる確率はまだ三割に満たない。


 何しろ乾藍冰焰を、彼はまったく制御できず、ましてやその威力を二妖の身に集中させることなどできないのだ。


 これでは、冰焰の実際の効果は当然大きく減じられる。


 さらに韓立を躊躇させたのは、この冰焰が放出はできても回収はできないことだ。もし裂風獣を滅ぼせなければ、この至宝はこの妖にただで献上し、逆に相手の実力を増大させるだけだ。


 それなら、自分で取っておいた方がましだ!元嬰を凝結した後にこの物を煉化すれば、乾藍冰焰は間違いなく彼の将来のもう一つの切り札となるだろう。


 韓立はそれほど長く考え込んだわけでもなく、無駄にできる時間もなかった。


 亀妖の方はまだ、体が膨らんだままだ。しかし裂風獣の腹部は開始時より半分以上小さくなり、顔の陰鬱さはますます濃くなっていた。


 韓立はそれを見て、心臓が冷たくなった。


 間もなく、この妖物は霊液の薬力を完全に抑え込み、再び法力を駆動し、身動きが取れるようになるだろう。


 そこで韓立は歯を食いしばり、かがんで足元の亀妖の収納袋を掴み取ると、足を振り上げて身動きの取れないこの妖を地火池へと蹴り落とした。


 続いて毒蛟の残骸からもう一つの収納袋を見つけ出し、妖丹を回収すると、身を翻して裂風獣の背後に出現し、同様に地火の中へと蹴り落とした。


 それから韓立は二妖の状況など全く顧みず、猛然と青い虹へと化して飛遁して逃げた。


 彼は信じなかった。二妖がどんなに神通に長けていようと、自分が適当な島に潜んでいれば、見つけられるはずがないと。


 結果「ドカン!」という大音響とともに、石門は韓立によって大穴を穿たれ、遁光は行方をくらました。


 煉器室は、静寂に包まれた!


 どれほどの時間が経ったか、地火池から怨嗟極まりない暴虐な声が響き渡った。続いて一道の眩い白光が地火の中から飛び出し、天井を突き破り、洞府の禁制を貫通して、姿を消した。


 次の瞬間、この白光は小島の上空に直接現れ、肉眼では追えない速度で周囲を飛び回ると、再び元の場所へと戻った。


 光華が収まると、九階裂風獣・風希の姿が現れた。


 彼の様子は容姿も変わらず、地火池の中でも無事だったようだ。しかしその顔は歯を食いしばり、しかも片手には相変わらず身動きの取れない亀妖の巨体を掴んでいた。


 亀妖は護身の宝物がなく、全身が煙に燻され火に焼かれ、髭も髪もなかった。地火の中で、かなりの苦しみを味わったようだ。


 裂風獣は両眼に白い光を微かに宿らせて周囲を見回し、陰険に考え込むと、突然に凶悪な表情を浮かべた。


 続いて片手で法決を組み、指の上に白い光が揺らめいた。片時後、顔に一筋の凶暴な色が走った。


 彼は何も言わず、ある方向を定めると、一道の白虹となって空を切り裂いて飛び去った。


 ……


 その頃、万里の彼方で血の色をしたマントを使って狂ったように飛遁していた韓立は、全身に冷や汗をかいた。


 ついさっき、体内で辟邪神雷に封じられていた風霊勁(風霊の気勁)が、突然にもぞもぞと暴れ出し、不安定になったのだ。


 しかし幸い韓立の反応は素早く、急いでマントに注いだ霊力を散らし、精純な霊力でこの異変を強引に抑え込んだ。


 結丹後期に入り、韓立は血色のマントを自在に操ることはまだできなかったが、少なくとも強引に吸い取る霊力を意のままに断ち切ることができるようになった。


 これでこの古宝の実用性は、かなり増した。


 この時韓立の顔色が大きく変わったのは、裂風獣がついに脱出したと理解したからだ。


 彼は即座に、迷わず方向を変え、マントに霊力を注ぎ込み、急加速で飛遁を開始した。


 先ほど彼はこの妖物を完全に怒らせてしまった。追いつかれたら、八つ裂きにされるか、魂を抜かれて煉神されることは間違いない。


 しかし韓立の心を苦々しくさせたのは、これほど離れていても、相手が彼の体内に封じられた風霊勁を制御する手段を持っていることだった。これは韓立の予想を大きく裏切っており、一抹の後悔さえ生じさせた!


 おそらく煉器室にいた時、危険を冒して乾藍冰珠を捨てるのが賢明だったのだろう!


 しかし今さら考えても仕方ない。韓立は血の塊となって、一路狂ったように逃げるしかなかった。


 それからの時間、長くて二、三刻、短くて一飯の間隔で、韓立の体内の風霊勁は必ず暴れた。


 その度にすぐに抑え込んだが、その度に逃げる方向を変えざるを得なかった。位置を特定されて追いつかれるのを防ぐためだ。


 韓立の遁光速度は裂風獣に遠く及ばないが、少なくとも主導権は握っており、その度に相手を大きく引き離すことができた。


 だがその後、風希は風霊勁への感応を頼りに、またもや執拗に追跡して近づいてきた。


 こうして韓立と裂風獣は一追一逃の状態で一ヶ月以上も続き、広大な海原で鬼ごっこを繰り広げた。


 逃亡の途中、韓立は一方ではびくびくし、他方では心底鬱々とした!


 裂風獣に永遠に追われるわけにはいかないので、当然体内の風霊勁を煉化してしまおうと考えた。


 しかしこの物は実に頑強で、韓立が一月費やしても、まったく小さくなった様子はなく、結丹期の彼には煉化など不可能だった。


 やむを得ず、韓立はその考えを捨て、逃げ隠れに専念することにした。


 しかし韓立が少々首を傾げたのは、裂風獣が頻繁に法決を使って彼の位置を探ろうとしなかったことだ。もしそうしていれば、この妖物はとっくに彼を追い詰められていたはずだ。


 これは韓立には理解できなかった!


 韓立はもちろん知らない。数千里も離れた場所で、風希もまた同じように心中悔しがっていたことを。


 彼は法決を多用して韓立の位置を突き止めたいと思わないわけではなかった。しかし彼の現在の状況は、韓立と大同小異だったのだ。


 この妖物は体内の霊液に潜んでいた異物を一箇所に追い詰め、霊力で一時的に包み込んではいた。しかしこの物は一定間隔で必ず暴れ出す。


 その度に遁光を止め、功法を運転して抑え込まざるを得なかった。


 彼は確信していた。静座する時間さえあれば、この物を完全に煉化できると。しかし今は韓立を追跡し続けている上に、残存法力も乏しく、とてもそんなことはできなかった。腹の底に溜まった怨毒の気を抱えながら、必死に追跡を続けるしかなかったのだ。


 亀妖はとっくに回復していたが、風希はその遁光が遅すぎるのを疎んじて、単に後方へ放り出し、単独で追跡を続けていた。


 彼は苛立ちながら、当然韓立の遁速の速さにも驚きを覚えた。


 心の中で、相手にはおそらく何か加速の宝物があるのだろうと、ぼんやりと推測していた。


 日が経つにつれて、韓立の体内の風霊勁の暴発間隔は徐々に長くなっていった。


 始めは数刻おきだったが、半日に一度へ、ついには丸一日経ってようやく韓立が抑え込む一回へと。しかも暴発の威力も、一度ごとに弱まっていった。


 ついに二日間隔の暴発を抑えた後、風霊勁は安定した。裂風獣はついにそれを操ることを諦めたらしい。


 韓立は当然心中大喜びだった。


 この妖獣との距離が開きすぎて法決が効かなくなったのか、それとも別のトラブルに遭遇したのか、いずれにせよこれが脱出の絶好の機会だ。


 韓立は躊躇なく霊液を一滴飲み込み、一つの方向を定めると、一切の遠慮なく空を切って飛び去った。付近の海域をはるかに離れていった。


 韓立から数万里離れた小島で、裂風獣は人気のない荒れた洞窟の中に座り、顔色を青ざめさせて座禅を組んでいた。


 これほどの長きに渡る追跡の末、彼はついに法力が尽き、体内の異物を抑えきれなくなったのだ。


 この妖物は韓立のように万年霊液で瞬時に霊力を回復することはできなかった。やむを得ず、この島に留まり、しばらく時間をかけて心腹の患いを完全に解決し、それから再び韓立を追跡しようと決めたのだ。


 あの心血を注いで煉製した風雷翅は、必ず取り戻さねばならぬ。


 この九階裂風獣は、心の中で骨の髄まで恨み骨髄に徹する毒誓を立てると、ようやく恨めしそうに目を閉じ、忘我の境へと入った。


 ……


 一ヶ月余り後、韓立もまた見知らぬ孤島の上に現れた。


 付近に人間の修士や高階妖獣の気配がまったくないことを確認すると、彼はその島に飛び込み、素早く簡素な石洞を開削した。


 入口にいくつかの行跡を隠す法陣を布くと、急いで洞内に入り座り、風雷翅を取り出した。


 韓立は手のひらに収まるほど小さくなった翼を見つめ、思わず喜色を浮かべた。


 この霊翅は風雷の力で駆動するという。九階妖修・風希自身は風の力しか持たなかったのだから、風雷の力を同時に持つ必要はなく、どちらか一つを有していればこの宝を使えるはずだ。


 韓立自身が辟邪神雷を駆使できるのだから、当然この宝を操る能力はある。


 そしてこの物が風希の妖が言うほどに神妙なら、早く使いこなせば、今後の命を守るのに大いに役立つはずだ。


 ただし、韓立が今手にしているこの霊翅は、よく見るとその上の銀白色の長羽が、かすかに揺れ動き、不安定な様子だった。


 韓立は一目で分かった。これはこの宝を取り出したのが早すぎて、まだ形が定まり固化しきっていないためだ。


 風希が脅したように完全に失敗というわけではないが、時間が経てば確かに威力は大きく減じられるだろう。


 しかし韓立の顔に慌てた様子はなく、即座に爪で人差し指に小さな傷をつけ、精血を一滴、翼の上に垂らした。さらに法決を唱え、まずは認主の儀式を済ませた。


 翼が精血を吸い込むのを目にすると、韓立の目に冷たい光が走り、片手で空中へと放り投げた。


 風雷翅は軽々と空中に浮かび、微動だにしなくなった。


 韓立は見向きもせずに十本の指を弾くと、細い電弧が手を離れ、霊翅へと飛んでいった。低く重い雷鳴が轟いた。


 韓立の表情は真剣で、手から放たれる金弧はますます密になっていく。


 間もなく、淡い金色の電弧のカバーが空中に出現し、風雷翅を包み込んだ。


 雷鳴の音は高さから低さへと変わった。


 電弧のカバーの中で、風雷翅が辟邪神雷の電弧を少しずつ吸収していくのを見て、韓立はようやく安堵した。


 続く十数日の間、韓立は手にした神雷を駆使し、霊翅の風雷の羽を徐々に安定させた。しかも辟邪神雷を吸収したため、銀色の長羽の中にいくつか金の糸が混じった。よく見なければ肉眼ではわからないほどだ。


 裂風獣らがやり残した法宝の形固めを終えると、韓立は即座に雷弧を収め、一片の青い光を吐き出して風雷翅を包み込み、体内へと吸い込んだ。


 その後、彼は石洞を出て小島の上空へ飛び立ち、この宝の使い方と神通力を試そうとした。


 高天に立ち、韓立は静かに息を吸い込み、体内の風雷翅法宝を法力で動かした。


 すると背中に霊気が集中し、続いて「ポッ、ポッ」という音と共に、丈余りの長さの翼が一対、背後に自然と浮かび上がった。


 銀白色の長羽に、かすかに金の糸が混じる。


 韓立は振り返ってそれを見ると、意念を動かし、翼を軽く二度羽ばたかせた。


 まったく重さを感じず、まるで何もないかのようだった。


 彼は少し興味を持ち、片手を伸ばしてそのうちの一枚の風雷翅を撫でてみた。ひんやりとし、微かな痺れを感じた。


 この情景を見て、韓立は眉をひそめ、五指に少し力を込めてみた。すると手のひら全体が容易くその中へと入り込んだ。


「これは?」韓立は内心で疑問が湧き、すぐに内視した。


 あの掌大の風雷翅は、丹田の上で相変わらず安泰に鎮座し、微かに白光を放っていた。体外に浮かんでいるのはこの宝の本体ではなく、完全に霊力で別に幻化された翼だったのだ。


 これは韓立にとって幾分か意外だった!


 気持ちを落ち着けると、韓立は法力をこの翼に注ぎ始めた。すると背後の双翅は銀光を走らせ、わずかに羽ばたくと、彼の体は「ヒューッ」という音とともに、驚くほど軽々と前方へと滑るように進んだ。


 何度か往復して飛んだ後、彼は停止し、顎に手を当ててしばらく考え込んだ。


 速度には特に目立ったところはなく、以前と比べて速くなったわけでもない。やはり雷電の力を注入して試す必要があるようだ。


 そう考えて、韓立はためらわずに辟邪神雷を動かした。二本の淡い金色の電弧が体内の霊翅へと流れ込んだ。


 瞬間、雷音が背後から響き渡った。韓立は慌てて目をやると、双翅の上に銀白色の電弧が走り、意思とは無関係に左右へと広がり、奇怪な気配を漂わせていた。


 韓立が神念を動かすと、「ゴロッ」という鈍い音とともに、眼前に銀光が一閃し、彼の体は瞬移のように十数丈先の場所に現れた。


「雷遁術!」


 韓立はまず驚き、次に心中大喜びした。


 続いて背後の双翅を軽く一羽ばたきすると、再び雷鳴と共に二三十丈先の別の場所に出現した。


 その後の時間、韓立は銀色の雷弧へと化し、瞬時に百丈を移動しながら高天で現れたり消えたりし、まるで幽鬼のように飄忽不定な動きを見せた。


「遁術中最も神秘とされる雷遁術、その速さは普通の五行遁術とは比べものにならぬ!この法宝を長く培煉した後、さらにどれほど逆天的になることか。道理で、九階裂風獣が心血を注いでこの宝を煉製したわけだ。元々天下でも稀な速度を持つ身に、この風雷翅が加われば、おそらくこの世で彼を滅ぼせる者も妖も、指折り数えるほどしかいまい。」一道の銀弧の中から再び姿を現した韓立は、満面に喜びを浮かべて片方の翼を軽く撫でながら、呟いた。続いて全身に白光が走ると、双翅は自ら崩れ去った。


 韓立はこの地に長く留まるつもりはなく、外海を離れ、内海へ戻ることを決めた。


 彼はよく分かっていた。九階裂風獣の追跡を一時的にかわしたとはいえ、あの異常な速度を持ってすれば、間もなく付近の海域をくまなく捜索し、再び追跡をかけてくるだろうと。彼は大人しくその場で待って、この妖に来させるつもりはなかった。


 内海は人間修士の天下だ。あの妖がどんなに神通に長けていようと、深く侵入する勇気はおそらくないだろう。


 内海で元嬰を凝結しさえすれば、この妖を恐れる必要はなくなる。


 虚天鼎のせいで元嬰老怪たちに追われる件については、すでに三四十年が経過しているのだから、風当たりはかなり弱まっているはずだ。


 そして結丹後期の修為さえあれば、蛮胡子ら数名の手強い相手に遭遇しなければ、極陰らに直面しても、力で敵わなくとも逃げ切ることはできるだろう。


 心中で計画を定めると、韓立は島の石洞に戻り、亀妖と毒蛟の収納袋を軽く調べた。


 中には驚くほどの数の妖獣の妖丹や、稀に見る珍しい原料が詰まっていた。


 特にこれらの材料の中に、拳大の漆黒の亀甲と、百枚余りの血のような赤い鱗を見つけた。これはおそらく二妖が化形した時に自ら抜け落としたもので、一層貴重だった。


 韓立は思わず驚きと喜びに包まれた!


 もしこれら二つで護甲を煉製すれば、蛮胡子の皇鱗甲に決して劣らないはずだ。


 しかし今の韓立がそんなことに手を出すはずがなかった。洞窟の入口の陣旗を回収すると、この島を離れ、妙音門の交易地がある海域へと直行した。


 妙音門がすでに伝送陣を建造した以上、これほどの時間が経てば、おそらく準備は整っているはずだ。


 その時は、懇願と威圧を使い分けようと、強行突破しようと、彼はこの伝送陣を借りて内海へと戻るつもりだった。


 韓立は妙音門の交易地がどこに移設されたか知らなかったが、適当に消息に詳しい人間の修士を見つければ、わかるはずだ。


 しかし彼は知らなかった。脱出したあの亀妖が、大海のどこか数千丈の深さの水底洞府で、彼が毒蛟を殺害したことを近海の蛟龍一族の族長、同じく元嬰中期の九階・離火蛟に伝えていることを。

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