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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第四卷:乱星海結丹編一海外激戦・虛天殿
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66-稲妻

 韓立の新たに築いた洞府には、当然ながら専用の煉器室が設けられていた。

 

 彼はそこに密陣を再設置すると、煉晶と万年霊液の瓶を携えて中へ入った。

 

 扉が固く閉ざされると、まる一年もの間、再び開かれることはなかった。

 

 洞府の他の運営は、密室外に残された数体の巨猿傀儡によって行われていた。

 

 こうして洞府は整然と運営され、特に混乱もなかった。

 

 しかし、ある日、予期せぬ事態が発生した。

 

 外から轟音が響き渡り、地面が何の前触れもなく揺れ始めた。密室の壁さえもが震え続け、さらに遠くからは雷鳴と怒涛の音がかすかに聞こえ、次第に音量を増していく。まるで島全体が暴風雨に襲われているようだ。

 

「ドン」と鈍い音を立てて、煉器室の石扉が内側から押し開かれた。

 

 人影が閃き、韓立が冷然とした表情で飛び出してきたが、目には驚きと疑念が浮かんでいた。

 

 彼は耳を澄ませて洞府外の轟音を聞き、腰の収納袋を一叩きすると、一道の黄光が袋から飛び出し、空中で一回転して彼の手に収まった。

 

 それは全長2~3尺の淡黄色の旗で、表面にはいくつかの符文が刺繍されていた。

 

 韓立はためらわず、口を開いて旗竿に青い息を吹きかけた。

 

 たちまち黄光が強く輝き、彼の目に冷たい光が宿ると、手首を振った。

 

 黄光が地面に一直線に突き刺さり、陣旗は瞬く間に地面に消えていった!

 

 韓立の口からは、高低のある呪文の声が漏れていた。

 

 驚くべき光景が展開した。

 

 呪文に呼応して、全ての地面と壁が金色に輝き始め、あたかも純金でできているかのようになった。同時に、震動や轟音も瞬時に鎮静化した。

 

 全てが平常に戻った。

 

 韓立はこの様子を見て表情を緩めたが、目の疑念はまだ消えていなかった。彼は突然、青光に身を変え、洞府の入口へと飛び去った。

 

 しばらくして、韓立は青光に包まれたまま島の上空に現れた。下には霧が立ち込めていたが、この陣法は彼自身が設置したものなので、視界を遮ることはなかった。

 

 しかし、目の前の光景に、彼の表情は何度も変わった。

 

 陣法の禁制が作動していたため、彼の洞府がある山脈は微動だにしていない。しかし、陣法の外の地域は、悲鳴のような轟音と共に激しく震えていた!

 

 丘陵や高台からは土石が滾々と流れ落ち、地面には数丈幅の巨大な亀裂が走り、草木はあっという間に引き倒されていた。

 

 だが、これら全てが韓立を動揺させたわけではない。

 

 さらに驚いたのは、島の片側の海面が狂ったように荒れ狂い、高さ百余丈にも及ぶ大波が島の一側を次々と襲い、島の小半を湖や沼地に変えていたことだ。

 

 波の来る方向、海霧の彼方では、雷鳴の中に低く奇怪な咆哮が混じり、何か猛獣が激怒しているようだった。そしてその咆哮が高まるたびに、雷鳴と大波もさらに激しくなっていく。

 

「もしかして、高級妖獣が近海で暴れているのか?」大波の方向を見つめながら、韓立は考え込んだ。

 

 この威勢からすると、相当な巨体の妖獣に違いない。そうでなければ、これほどの騒動は起こらないはずだ。

 

 そう思うと、韓立の好奇心が湧き上がった。

 

 少し考えた後、彼は身を青光に包み、霧の海へと飛び込み、咆哮のする方向へと遁走していった。

 

 ただし、慎重を期して、彼は気配を消し、遁光も目立たないようにした。瞬く間に、彼の姿は見えなくなった。

 

 海霧を抜けると、韓立は探すまでもなく目標を一目で見つけた。

 

 彼の予想通り、確かに妖獣が海面で暴れていた。

 

 だが、その大きさは予想をはるかに超えていた!

 

 ある程度の大きさは予想していたが、韓立はその巨体に息を呑んだ。

 

 それは彼がかつて見たことのない亀型の妖獣で、その体長は近千丈もあり、海面に浮かぶ山のようだった。

 

 黒光りする甲羅、蛟龍のような青色の頭部を天に向けて嘶き、巨柱のような四肢と数十丈の銀色の尾で周囲の海水を激しく攪拌していた。妖亀の周りでは、滔天の大波と白色の妖風が渦巻き、この一帯の海は完全なる狂暴状態に陥っていた。

 

 しかし、韓立が最も驚いたのはそれではなかった。妖亀が咆哮する上空、万里にわたって広がる黒雲からは、腕ほどの太さの雷が幾重にも降り注ぎ、妖亀を包み込むように激しく打ちつけていた。

 

 それに対し、妖亀は起こした大波と妖風でこれらの天雷を難なく受け止め、無傷だった。ただ、このことで妖亀はますます狂暴化し、元々翠緑色だった目が次第に赤みを帯び始めていた。

 

「化形の劫」

 

 韓立は奇妙な表情で呟き、目は揺らめいていた。

 

「化形の劫」とは、七級妖獣が八級へと進化する際に必ず経験する天雷の劫のことだ。

 

 この劫を乗り越えて初めて、妖獣は形を変え、体の一部を人間の形に変えることができる。そして修行が深まるにつれ、その変化の度合いも異なってくる。

 

 伝説では、十級妖獣になると、完全に人間と見分けがつかなくなるという。

 

 韓立は典籍で何度も化形の劫に関する記述を目にしていたが、実際に目撃するとは、運が良いのか悪いのかわからなかった。

 

 運が良い点は、この妖獣の出現は、奇淵島周辺に八級妖獣が存在する証拠であり、彼の求めている千葉露の手がかりになるかもしれないことだ。

 

 運が悪い点は、この巨亀がこの海域で化形の劫を迎えているということは、その巣もこの辺りにある可能性が高いことだ。

 

 韓立は八級妖獣と隣人になるつもりは毛頭なかった。

 

 たとえ進化したての八級妖獣でも、韓立は避けるべき存在だ。

 

 今のところ、この妖亀はまだ七級なので、彼の洞府を見つけることはできない。しかし、八級に進化した後は、その神通力で洞府を見破られるかもしれない。

 

 ある日、洞府で修行していると、妖亀が訪ねてくる可能性すらある。高級妖獣の縄張り意識は、並大抵のものではないのだ。

 

「やっと築いた洞府を、また捨てなければならないのか?」韓立は内心焦燥感に駆られ、体内の飛剣も騒ぎ始めた。

 

 密室から出る頃には、七十二本の青竹蜂雲剣はすでに煉化が完了していた。

 

 今回の煉晶の煉化は、予想以上に難航した。当初は半年ほどで済むと思っていたが、実際には一年近くかかってしまった。

 

 残りの期間、韓立は飛剣の培養に専念していた。

 

 この妖獣の騒動がなければ、あと数ヶ月は修行を続けていただろう。

 

「この妖獣が劫を終え、力を消耗したところを襲えば、うまくいけば一掃できるかもしれない。失敗したら、すぐに島を離れて他の場所を探せばいい」この考えが浮かぶと、韓立は内心緊張した。しかし、すぐに首を振って否定した。

 

 たとえ力が弱まった八級妖獣でも、彼一人で対抗できる相手ではない。

 

 八級妖獣の実力はわからないが、元嬰期修士の神通力は目にしたことがある。

 

 そんな危険を冒すなら、今の洞府を移転する方がましだ。

 

 残念ながら、噬金虫はまだ孵化しておらず、新しい卵も産んでいない。さもなければ、試してみる価値もあったかもしれない。

 

 韓立は無数の雷光が巨亀の体を走る様子を見つめ、軽くため息をつくと、洞府へ戻る準備をした。

 

 妖獣が劫を終え、自分が覗き見ているのを見つけて災いを招く前に離れるつもりだった。

 

 しかし、韓立が振り返ろうとした瞬間、遠くの空から鋭い嘯き声が聞こえ、天際に金光がちらついた。

 

 そして反対側からは、美しい鳳凰の鳴き声が響き、火炎のような赤い霞みがこちらへと飛来した。

 

 この光景に韓立は一瞬呆然としたが、反応する間もなく、

 

 巨亀からそう遠くない海面で突風が巻き起こり、数十本の太い水柱が噴き上がった。そして海面が盛り上がり、何か巨大なものが浮上しようとしていた。

 

 韓立は驚いて急いで身を隠し、少し距離を取ると、眼前の状況を愕然と見つめた。

 

 青い光が閃いた後、真紅の巨獣が波を蹴って現れ、水面に浮かぶと、馬の嘶きのような奇怪な叫び声を上げ、韓立の両耳を轟かせた。

 

 韓立は驚きのあまり、空中から転落しそうになり、慌てて法力を高めてようやく姿勢を立て直した。

 

 大衍決が体内を駆け巡り、韓立は蒼白い顔で怪獣を凝視し、恐怖の色を浮かべていた。

 

「毒蛟!」

 

 韓立は心の中で叫び、普段は見せない恐怖の表情を浮かべた。

 

 この妖獣は鮮やかな赤色で、体長は百丈もあり、彼が以前に出会った墨蛟とそっくりだった。紛れもない蛟龍、それも蛟類の中でも凶名高い毒蛟だ。

 

 その赤い鱗からは、実体化したかのような霊光が放たれており、間違いなく本物の八級妖獣だった。

 

 この妖獣が放つ無言の圧力は、あの元嬰期の老怪物たちから感じたものと同じだ。

 

 蛟類は上古から存在する天地霊獣の一種で、普通の妖獣よりも修行速度が速く、同じ階級の妖獣よりもはるかに強力な法力と神通力を有している。純血の蛟類なら、上位の敵を倒すことさえ可能だ。

 

 典籍の記述が正しければ、この毒蛟は八級妖獣だが、九級妖獣と正面から戦っても負けることはないだろう。

 

 韓立が顔色を変えないわけがなかった!

 

 彼はすぐに逃げ出すことを考えたが、理性で軽挙を抑えた。

 

 遠くにはまだ二つの遁光がこちらへ向かっており、どうやら敵意を持っているようだ。混乱に乗じて逃げる方が、今行動を起こして発見されるよりましだ。

 

 とはいえ、韓立は血色のマントを身にまとい、両手には五行環と花籠を握った。

 

 これで少し安心できた。

 

 毒蛟はすでに咆哮を止め、巨大な首を振り向けると、まだ雷に抵抗している巨亀を見て、目に異様な光を宿した。

 

 そして体から青い光を放ち、巨大な体が急速に縮小し、変形していった。

 

 しばらくすると、普通の人間ほどの大きさの人型毒蛟が現れた。

 

 頭部は依然として蛟のままだが、体と四肢は人間の形になり、全身を赤い鱗が覆い、後ろには太い蛟の尾がぶら下がっていた。

 

 この化形の様子を見て、韓立は心底震撼した。

 

 人型毒蛟は何の支えもなく波の上に立ち、平然としていた。

 

 しかし化形後、毒蛟は碧緑の目で韓立の隠れている方向を一瞥し、その目に含まれた冷たさで韓立は全身が凍りついた。両手に握った古宝も汗で濡れていた。

 

 幸い、遠くの金光と赤い霞みがほぼ同時に到着した。

 

 毒蛟は韓立を無視し、冷たい視線を空中に現れた三人に向けた。

 

 金光の中には、仙人のような風貌の老道士がいた。背には剣、手には払子を持ち、金色の八卦道袍をまとってひげを撫でながら、人型毒蛟を驚きの目で見つめていた。驚きの中にも、一抹の貪欲さが覗いた。

 

 老道士から離れて立っていたのは、よく似た顔の中年代二人組で、鉄のように青い顔と真っ赤な袍が特徴だった。違いは、一方が大きな赤い瓢箪を背負い、もう一方が丈余りの鬼頭拐杖を持っていることだ。

 

 二人はまず下の巨亀と毒蛟を見、次いで老道士を一瞥すると、無表情で沈黙を守った。

 

 この三人のうち、老道士は元嬰初期の修行者で、中年代二人は結丹後期のレベルだった。しかし不思議なことに、この紅袍二人組は毒蛟と元嬰期老道士の前でも全く怯んでいなかった。

 

「ふふ、霍道友たちにお会いできるとは、貧道は光栄だ」老道士は目をきょろきょろさせると、紅袍二人組に笑いかけて言った。

 

「我々も金霞前輩に会えるとは思わなかった。もしかして、下の妖獣を狩りに来られたのか?そうなら、我々二人は前輩にお譲りしよう」瓢箪を背負った紅袍人が引きつった顔で淡々と言った。

 

 老道士はこの言葉に内心いら立ちを覚えた。

 

 下の毒蛟は九級妖獣に匹敵する。彼一人で倒せる相手ではない。

 

 法術に自信はあるが、この蛟を相手にする勇気すらない。

 

 そこで老道士は眉をひそめると、単刀直入に言った。

 

「霍道友たちは冗談を。貧道一人では毒蛟に勝てない。同様に、道友たちも破天神砂だけでこの妖を倒せないだろう。我々が手を組めば、幾分かの可能性はある。どうだろうか?八級妖獣など、長年見ていない。もし運良く成功すれば、貧道は八級妖丹は要らぬが、この蛟龍の精魂を抽き出すことを譲ってほしい」金霞道士は紅袍二人組をじっと見つめながらゆっくりと言った。

 

 この提案は二人の予想外だったようで、互いを見交わすと、鬼頭拐杖を持った中年が簡潔に頷いて答えた。

 

「よろしい。前輩がそこまでおっしゃるなら、我々もこの機会を逃さぬよう、全力を尽くそう」そう言うと、もう一方の手にはいつの間にか赤い瓢箪が握られていた。

 

 老道士は大喜びで、袖から青い玉環を取り出すと、風に乗せて嗡鳴を響かせた。

 

 下で冷ややかに三人を見つめていた毒蛟は、彼らの会話を理解したようだ。

 

 一瞬険しい表情を浮かべると、何の前触れもなく口を開き、一道の血光を老道士に放った。そして自身は海面から忽然と消えた。

 

 次の瞬間、毒蛟は紅袍二人組の背後に現れ、両手を上げて十本の指から青い光を放ち、襲いかかった。

 

「ガン」という鈍い音と共に、一隻の青色の巨手がこの攻撃を受け止めた。

 

 紅袍修士の鬼頭拐杖が、自動的に巨大な鬼に変身し、二人を救ったのだ。

 

 それでも霍兄弟は驚き、死人のような顔に一瞬恐怖が浮かんだ。

 

 同時に、赤い瓢箪が軽く投げ出され、鳳凰の鳴き声と共に無数の赤い晶砂が噴き出し、百余丈の範囲を真っ赤な世界に変え、毒蛟を閉じ込めた。

 

 一方、毒蛟が吐き出した血光は、老道士の玉環と絡み合い、激しく戦っていた。

 

 金霞老道士が血光を決して近づけまいと真剣な表情でいることから、その危険性がうかがえた。

 

 毒蛟は一対三で戦い、明らかに妖亀が劫を乗り越える時間を稼ごうとしていた。

 

 同様に老道士と紅袍二人組も、毒蛟が不利と見て逃げるのを恐れ、少しずつ妖力を消耗させてから致命的一撃を加えようとしていた。妖亀の方は劫が終わっても力を使い果たしているだろうから、脅威ではない。

 

 こうして、上空では三人対一妖の戦いが繰り広げられ、下では妖亀の劫も佳境に入り、天からはもはや雷電ではなく、銀色の雷球が降り注ぎ、妖亀を震え上がらせていた。

 

 この状況を見て、隠れていた韓立は内心大喜びした。

 

 漁夫の利を得ようなどという愚かな考えは毛頭なく、このレベルの戦いに介入できる力はない。勝者が妖であれ人間であれ、結丹初期の彼など簡単に始末される。

 

 ようやく逃げる機会が訪れたと、韓立は全身の法力を血色マントに注ぎ込み、血光に包まれて飛び去った。

 

 韓立の驚異的な遁光は、戦う三人一妖も驚かせたが、すぐに無視された。

 

 血光の速度は確かに速かったが、韓立の実力が結丹初期と一目でわかったからだ。彼らにとって取るに足らない存在だった。

 

 洞府が発見されるのを恐れ、韓立は霧海ではなく別の方向へ逃げた。

 

 血色マントの驚異的な速度で、一気に数千里も離れた。

 

 後ろから追ってくる気配がないのを確認すると、安心して普通の遁光に切り替え、さらに飛び続けた。

 

 ほぼ一日かけて適当な無人島に着くと、少し休むことにした。

 

 数日間周辺海域をうろつき、あの戦いが終わったと判断すると、慎重に霧海へ戻った。

 

 案の定、霧海の周辺はすでに平穏に戻り、妖獣も修士も天雷も跡形もなく、何事もなかったようだった。

 

 韓立は海面に立ち、少し考え込むと、神識を静かに放って周辺海域を探った。

 

 すると突然、彼は何かを感じ取り、青光に包まれて海中へ沈んでいった。

 

 一飯の時間後、韓立は両手に何かを持って海面から飛び出した。

 

 片手には数丈の長さの銀色の物体——あの巨亀の尾の一部だ。もう一方には半分に折れた鬼頭拐杖で、まだ強い霊気を放っていた。

 

 あの戦いの勝敗は、どうやら簡単には決まらなかったようだ。

 

 劫が終わると、彼らはまた別の海域へ移動したのかもしれない。

 

 元嬰期と八級妖獣のレベルでは、修士が妖丹を奪おうとするのも、妖獣が修士の元嬰を食らおうとするのも、簡単なことではない。

 

 力が劣る方が逃げるのは、それほど難しくないのだ。

 

 韓立は手にした二つの物を見て、慎重な表情を浮かべた。

 

 少し考えた後、彼は両手を振ると、再び二つを海に投げ捨てた。

 

 可能性は低いが、これらの物を通じて追跡されるリスクを冒すつもりはなかった。

 

 周囲をもう一度確認し、修士や妖獣が潜んでいないのを確かめると、霧海へ向かって飛び立った。

 

 洞府外の禁制は無事で、韓立は最後の心配も消えた。急いで洞府に入ると、

 

 当初の計画では、この島を離れるつもりだった。

 

 しかし、三人の修士と妖獣の戦いを目撃した後、考えを改めた。

 

 巨亀の生死はともかく、確実に重傷を負っている。仮に巣がこの海域にあっても、この騒動の後では間違いなく移動するだろう。

 

 それに、これほど隠れた島を再び見つけるのは容易ではない。たとえ見つかっても、他の高級妖獣がいるかもしれない。

 

 そう考えると、ここはむしろ安全な場所のように思えた。

 

 とはいえ、油断は禁物だ。韓立は小島にさらに幾つかの幻陣を設置し、山脈の他の場所にも偽の洞府を二つ作って禁制を張った。

 

 これで強敵が現れても、逃げる機会はある。

 

 すべてを終えると、ようやく安心した。

 

 彼は知らなかったが、この人妖大戦は後に乱星海の妖修大戦の重要な引き金となった。

 

 怒り狂った乱星海の蛟類一族は、人類修士を虐殺する高級妖獣の陣営に加わり、人類修士は甚大な被害を受けることになる。

 

 韓立はしばらくして洞府が無事なのを確認すると、あの大戦のことはすぐに忘れた。

 

 今の彼は、将来の妖獣狩りのため、敵を閉じ込める陣法器具の煉製に専念していた。六七級の高級妖獣を相手にするのだ、決して油断はできない。

 

 そんな中、噬金虫がついに卵を産んだ。

 

 韓立が喜びいさんでそれらの卵を見た時、彼の顔には困惑の色が浮かんだ。

 

 確かに卵は白かったが、表面には黒い斑点が散らばっており、非常に目立つのだ。

 

「これは……」

 

 最初に頭に浮かんだのは、噬金虫が成熟体に進化したのかという考えだった。しかしすぐに自分で否定した。

 

 以前の金虫は確かに強力だったが、不死身に近いとされる成熟体にはまだ程遠い。こんなに早く進化するはずがない。

 

 そこで次に考えたのは、何万という鉄火蟻を食べた影響だった。

 

 あまりにも多くの鉄火蟻を食べたため、予期せぬ進化を遂げたのかもしれない。

 

 韓立の好奇心がかき立てられた。

 

 ただし、これらの卵が孵化するまでには、以前の経験からあと一年ほどかかる。

 

 彼はためらわず、控神法陣を描いて全ての卵に血認主を行った。

 

 その後、隣の金糸蚕の部屋も覗いてみた。

 

 現在の金糸蚕は、五色の珠を食べた二匹を除き、霊薬で延命させても次々と死んでいった。

 

 この二匹も珠の奇妙な薬力で生き延びているが、回復の兆しは見えない。

 

 この時点で韓立も完全に諦め、霓裳草を準備してこの二匹に食べさせ、噬金虫のように卵を産ませることを試みた。

 

 今や彼は確信していた。五色の珠が補天丹でなくとも、体に害はなく、むしろ良い影響を与えると。

 

 半月後、韓立は全ての陣法器具を完成させた。

 

 金糸蚕に霓裳草を与えると、自分は閉関室に入り、五色の珠を服用することにした。

 

 以前使った小さい珠を除き、手元にはまだ六粒残っていた。

 

 ……

 

 閉関室の中央に座り、箱の中の珠をじっと見つめる韓立の表情は冷静そのものだった。

 

 決心がついた以上、ぐずぐずするつもりはない。一粒をつまんで口に入れると、

 

 意外なことに、硬いはずの珠は口の中で柔らかくなり、苦みはあるが容易に飲み込めた。

 

 丹田からは暖かい感覚が広がった。

 

 韓立はわずかに眉をひそめ、内視してみると、

 

 五色の珠は腹の中で無傷で、微かな霞光を放っていた。

 

 少し考えた後、彼は手印を組み、

 

 金丹から細い青い光焰が噴き出し、珠を包み込んで煉化を始めた。

 

 暖かさは瞬く間に灼熱感に変わった!

 

 韓立は目を閉じ、深い瞑想に入った。

 

 二ヶ月後、珠は丹火で完全に溶解したが、特に変化は感じられなかった。

 

 躊躇した後、彼は第二粒を煉化し始めた。

 

 こうして一年余りが過ぎ、六粒全てを煉化し終えた時、

 

 韓立はわずかながら、天地の霊気を吸収し法力に変換する速度が上がったのを感じた。わずかな変化だが、彼は大喜びした。

 

 五色の珠の効果はまだ始まったばかりなのだから。

 

 しかし閉関室を出ると、すぐに現実を突きつけられた。

 

 金糸蚕は十分な霓裳草を食べ、確かに卵を産んだ。百個以上も。しかし、それらの卵は全て死んでいた。

 

 そして二匹の金糸蚕も、産卵後に息絶えた。

 

 韓立は虫室の前で立ち尽くし、無言で死んだ卵を見つめた。

 

 この打撃にもかかわらず、一つだけ収穫があった。

 

 霓裳草の薬性についての検証だ。

 

 以前から、この草が展葉時に高級妖獣に与えると、子孫を増やす効果があるのではないかと疑っていたが、確かめる機会がなかった。

 

 金糸蚕の状況から、その推測はほぼ間違いないようだ。

 

 高級で希少な妖獣ほど、繁殖が難しい。だからこそ高級妖獣は、霓裳草が展葉する時に群がるのだ。

 

「禍福は糾える縄の如し」

 

 金糸蚕のことで落ち込んでいた韓立だったが、数日後に噬金虫が孵化し始めると、再び喜びに包まれた。

 

 孵化した噬金虫は見た目は以前と変わらないが、金色の甲殻には銀の斑点に加え、黒い縞模様が現れていた。そして放つ霊気も、以前とは明らかに異なっていた。

 

 韓立は確信した。これらの噬金虫は、親が大量の鉄火蟻を食べた影響で、普通の噬金虫とは違う進化を遂げたのだ。

 

 具体的な違いを確かめるため、韓立は一袋の噬金虫を携え、再び密室に入った。

 

 半日後、韓立が密室から出てきた時、その顔は抑えきれない興奮に輝いていた。

 

 新しい噬金虫の威力は予想をはるかに超えており、妖獣狩りの成功確率がさらに上がった。

 

 虚天鼎から得た傀儡の部品の研究もしたかったが、数年かかる見込みだったため、一旦保留にした。

 

 そして今、彼は海に出て、高級妖丹を集める準備を整えていた。

 

 陣法器具と霓裳草はもちろん携行する。血玉蜘蛛と啼魂も役に立つだろう。

 

 しかし洞府内の霊薬、特に九曲霊参が心配だった。移植して持ち運ぶには適さない。

 

 この外出がどれほど長引くかわからない。九曲霊参は草木の精で、長く地面から離れることはできない。

 

 考えた末、韓立は新たに孵化した噬金虫の一部を洞府に残すことにした。

 

 彼らに与えた命令は、修士や妖獣が侵入してきたら即座に殲滅するというものだ。

 

 これで、元嬰期修士や八級妖獣でもない限り、洞府は安全だろう。

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