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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第四卷:乱星海結丹編一海外激戦・虛天殿
252/287

56-どっちかが正義


 如意を手にした韓立は、心中喜びと同時に、大きな安堵を覚えていた!


 ちょうど極陰や万天明らが上空で対峙しているまさにその時、烏丑と玄骨が連携して封じ込めていた火の狼が、二人を驚かせる行動に出たのだ。


 低く唸るや、二つの頭が同時に中央に向かって捻じれ、一回転すると、一本角の銀毛の巨狼へと変貌した。


 この狼は一言も発せず、首を低く垂れると、眩い銀色の光弾が銀色の角から激射された。


 光弾は大きくなく、半尺ほど。しかし角先を離れるやいなや、耳障りな音を発し、一閃して消え、黒蛇の体に大きな穴を開けた後、緑の網に命中して爆裂した。


 銀色の光弾の属性は不明だが、緑の網は触れた途端、色が激変し、瞬く間に灰白色の気団と化し、跡形もなく消え失せた。


 烏丑と玄骨はこれを見て、同時に驚いた。


 烏丑は慌てて両手で印を組み、片手を指さすと、黒い光が手から飛び出し、崩壊寸前の黒蛇に命中した。大穴はすぐに微かな光を放って徐々に塞がり、巨蛇の姿は再び固まった。


 玄骨はと言えば、一驚した後、銀色の巨狼をじっと睨みつけ、何かを思い出したようだった。しかし、一瞬躊躇すると、重々しい表情で口を開け、一振りの碧緑色の小刀を吐き出した。


 この刀は数寸の大きさで、短く柄もなく、刀身は伸縮を繰り返し、一目で非凡の品と分かる。


 韓立は心臓が一拍し、思わずこの法寶を何度も見直した。


 彼の感覚が間違っていなければ、この小刀は紛れもなくあの金雷竹の小箭が変化したものだ。ただ、法術で本来の姿を隠しているに過ぎない。


 玄骨は気でも狂ったのか? 極陰がまさに天上にいるというのに、彼は平然とこの法寶を使うとは。極陰はかつて、まさにこの寶で彼を暗算したのだ!


 確かに使われている幻術は極めて巧妙で、韓立自身の本命法寶も金雷竹でできていなければ、その異様さに気づけなかっただろう。だが、それでもなお危険極まりない。


 もしかすると、この銀狼に何か奇怪な点があり、老魔が危険を冒してでも手に入れたいと願っているのか? 韓立は考え直し、またもや疑問が湧いた。


 そのほんのわずかな間にも、光罩の中の銀色の巨狼は身体を急激に縮小し始めた。瞬く間に一尺ほどのミニチュアサイズの狼へと変貌した。


 すると、銀光が閃き、なんと一閃して消え、半分しか塞がっていなかった大穴から飛び出し、黒蛇の絡みつきから脱したのだった。


 玄骨はこの光景を見るや、即座に小刀を振るい、緑色の光芒を迎撃として放った。


「ドンッ!」という衝突音が響き、銀狼と小刀は同時に斜めに吹き飛ばされた。


 銀狼の身体はなんと、傷一つ負わず、それほどまでに堅硬だったのか。


 偶然にも、銀狼が吹き飛ばされた方向は、ちょうど傍らにいた韓立のほうへと向かっていた。


 こんな好機が舞い込んできて、韓立はあらゆる懸念を頭から振り払い、躊躇なく花籠を銀狼めがけて祭り出した。


 同時に、この寶でも狼を封じ込めきれないかもしれないと恐れ、右手を収納袋に当てると、五つの銅環が連なって袋から飛び出した。


 一口の青い気息を吹きかけると、五色の霞光が閃き、銅環はたちまち見えなくなった。


 ほとんどその直後、澄んだ音が突然鳴り響いた。


 ようやく体勢を立て直した銀狼は、飛び去る間もなく、四肢と頭部に先ほど消えた銅環が浮かび上がった。光が数度閃くと、それらは同時に締めつけた。


 銀狼は矢を受けた飛鳥のように、空中からまっすぐ落下した。


 白い気団へと変化した花籠の古寶は、既に飛び至っており、一気に銀狼を包み込むと、唸り声と共に韓立の手元へ戻り、再び花籠の姿へ戻った。


 この一幕を見て、緑の小刀を回収したばかりの玄骨と、黒い錦の布を取り出そうとしていた烏丑は、呆然とした! 二人とも信じられないという表情を浮かべている。


 しかし、我に返った烏丑は、すぐに逆上した表情へと変えた。


 これはあまりにも奇怪だ! 彼は、無主の寶物を手に入れるのに、玄陰大法さえあれば手のひらを返すように簡単だと思っていたのだ。


 まさか、先に玄骨が奪い取ろうとし、さらにこの寶が簡単には収まらないと知り、ようやく手を空けて別の寶を取り出そうとしたまさにその時、銀狼があっさりと韓立に収められてしまうとは。これは烏丑に狼狽を感じさせると同時に、焦りと怒りを引き起こした!


 玄骨は呆然とした後、幾分か奇妙な表情を浮かべた。


 すぐに何事もなかったような様子を見せたが、韓立は相手の目に一筋の悔しさを見て取った。しかも老魔は、銀狼の体に巻きついた銅環を何度も見つめ、少し困惑しているようでもあった。


 韓立は玄骨の異様さをじっくり考える時間もなく、花籠が戻ると興奮して籠の中を覗き込んだ。


 銅環はまるで銀狼の天敵のようで、この狼をしっかりと拘束し、微動だにさせなかった。


 籠の中は白い気が立ち込め、狼の全身を包み込み、小さな狼の頭だけを露わにしている。それは哀れっぽい様子だった。


 韓立は軽く笑うと、ためらわずに手を伸ばし、狼の頭をそっと撫でた。しかしすぐに、手のひらに青光が現れ、銀狼を包み込んだ。


 しばらくすると、銀狼の姿は薄れ、ついには虚影となり、一振りの玉の如意が現れた。


 韓立が玉の如意を手に取り、喜びながら鑑賞しているまさにその時、儒衫の老人と極陰が、万天明から寶を奪い損ね、彼らを愕然とさせるこの光景を目にしたのだった。


 極陰祖師は内心、眉をひそめた。しかし今、万天明という大敵に直面しており、一時的にこの件に構っている余裕はなかった。


 それに、この寶が韓立の手にあるのも、特に問題はないように思えた。


 何しろ、このような幻形通霊の古寶を、小僧が笑って受け取れるわけがない。後で韓立に素直に差し出させるだけだ。


 そう決心すると、極陰は再び視線を万天明へと向けた。


 天羅雷珠は、修仙者の元嬰を直接傷つけられる稀有な器物の一つだ。彼は十二分の警戒心を持って相手に対処せざるを得なかった!


 しかし残念ながら、この時、彼らが大立ち回りを演じることは運命づけられていなかった。光罩内の高台が再び揺れ始めたのだ。


 今回は前の数回よりもさらに激しく、驚異的だった! まるで地面全体が陥没するかのようだ。


 同時に、一団の眩い青い炎がついに穴口から顔を出した。


 ほんのわずかながら。しかしこの炎が現れた瞬間、穴口を中心に、高台全体が比類なく絢爛な青い巨大な花を咲かせた。この光の花は大きくなり広がり、一気に高台全体に広がった。


 そして「ジリリッ」という音が大きく響き、地面に一層の青みがかった不気味な霜が急速に厚くなり、広がっていった。


 韓立は驚き、反射的に慌てて空中へ飛び立った。


 玄骨の動作も遅くなく、韓立とほぼ同時に身を躍らせて浮上した。


 烏丑だけが少し躊躇した。しかしこのわずかな躊躇が、青い氷を両足から全身へと凍りつかせてしまった。彼の体にまとわりつく玄陰魔気は、一瞬たりとも阻むことができなかった。


 烏丑は恐怖の極みに達し、慌てて飛び上がろうとした。しかし両足はすでに石台にしっかりと凍りついており、氷の層から離れることなど到底できなかった!


 烏丑は恐怖の叫び声を上げた。青い氷の層は瞬く間に彼のふくらはぎへ、そして太ももへと広がっていくのが見えた…


 天上の韓立と玄骨はこの光景を見て、思わず互いを見つめ合い、双方の目に戦慄の色を見た。


 烏丑がこの奇怪な青い氷によって完全に氷像と化そうとしたまさにその時、一本の細い黒い光が天から降り注ぎ、一閃して烏丑の体に命中した。


 たちまち黒い炎が燃え上がり、青い氷は退き溶け落ち、青い煙が幾筋も立ち上った。


 烏丑は大喜びで、自由になると慌てて天へ飛び立ち、生還した顔色だった。


 そしてその時、上からようやく冷ややかな鼻歌が聞こえ、少し苛立たしげな声が響いた。


「気をつけろ。次は必ずしもお前を救えるとは限らんぞ。」


 極陰祖師が天から天都屍火を使って烏丑の命を救ったのだ。


 この時、正魔双方の老怪たちは全員、瞬きもせずに穴口の青い炎を凝視し、それぞれ異なる表情を浮かべていた。興奮している者、緊張している者、そして貪欲な表情の者もいた!


 極陰祖師はさっき、烏丑を救うために軽く手を動かしただけのようで、これらの言葉を発する時も決して振り返らず、ただ唇を舐め、眼に一筋の狂熱の光を宿していた。


 数えきれないほどの年月を伝わってきた乱星海第一の秘寶——虚天鼎が、今まさに正魔の数人の元嬰期修士たちの目の前で、現れようとしているのだ。


 極陰祖師のような陰険で、喜怒を顔に出さない老怪でさえも、心身の全てを穴口へと注がずにはいられなかった。無理もない、烏丑を救ったりあのような言葉を発したりすることに、彼は少し煩わしさを感じていたのだ。


 この時の血玉蜘蛛とあの一対の火蟒は、すでに疲労困憊で身体が微かに震えており、上空の老怪たちは皆、ハラハラしながら見守っていた。しかし誰も手を貸すことはできず、また敢えて手を貸そうとはしなかった。


 穴口周辺はすでに完全に青光の世界となっており、三匹の霊獣の体を覆う赤光がこの寒気を排している他は、これらの老怪たちでさえも、軽々しく低空へ飛ぶことを躊躇っていた。


 そして韓立らは既に穴口から二三十丈離れた位置まで退いており、ただ遠くから見守るしかなかった。


 危機一髪のその時、半空の蛮胡子が顔を上げ、猛然と片側の某所を睨みつけ、面に寒霜を帯びて大声で怒鳴った。


「そこに潜んでいるのは誰だ! この旦那様の前から滾り出て来い!」


 そう言うや、彼は髭髪を逆立てて拳を打ち出し、一丈ほどの金色の巨手が空中に忽然と現れ、躊躇することなくその場所を掴み取ろうとした。


「ドンッ」という鈍い音が響き、そこに青色の光罩が出現し、金手の一撃を文字通り受け止め、破れることなく持ちこたえた。すると、白い人影が光罩の中にゆっくりと現れた。


「お前か!」


「星宮?」


 数人の驚きの声が正魔双方から上がり、蛮胡子と万天明の顔色が一変した。


「星宮の執法長老が、いつからこそこそするようになった? お前たちは決して内殿には入らないと豪語していたはずだぞ?」極陰祖師は苦い顔をして真っ先に詰め寄った。


「咳! 運が悪かったな。虚天鼎の現世にこれほどの騒動が伴うとは思わなかった。この寒気を防御するのにやむを得ず小さな術を使ったら、蛮兄に見つかってしまったようだ。どうやら蛮道友こそが、この場における修力第一人者のようだな。」この白衣の長老は極陰祖師の言葉には答えず、その場に立ちながら蛮胡子に向かってゆっくりと語った。彼の顔には微動だにせず、まるで傍らに潜んでいたのが自分ではなかったかのようだった。


 この光景を見て、極陰は当然内心激怒したが、星宮の名がそこにある。彼は自ら率先して相手を攻撃することはできなかった。


 万天明らもまた、同じく何らかの懸念を抱いているようで、これだけ多くの者が空中で相手を睨んでいるのに、一時的に万籟声を潜めた。


「いや、待て! もう一人はどこだ? 血玉蜘蛛と韓立に気をつけろ!」


 儒衫の老人はこの星宮長老が現れて以来、ずっと顎ひげを捻りながら何かを考え込んでいた。今、相手が曖昧で極めて怪しい様子を見て、細かく考えを巡らせたところ、突然何かを思い出し、慌てふためいて叫んだ。


 遠くまで退いていた韓立はこの言葉を聞いて、思わず呆然とした。


 彼はまだ何が起こっているのか理解できていなかったが、祭壇の反対側の低空から二本の白い虹が迸り出た。それらは灼熱の白光を放ち、鋭く凄まじい轟音を立てながら、それぞれ韓立と血玉蜘蛛に向かって虚空を切って飛来した。そしてその場所に、もう一人の白衣長老の姿が現れたのだった。


 韓立の顔色が突然青ざめた。


「速い、速すぎる!」目の前で白光が一閃した後、これが韓立の脳裏に浮かんだ唯一の考えだった。


 そして彼が間に合った反応は、手に弄んでいた玉の如意を必死に胸の前にかざすことだけだった。


「バンッ」という音と共に、韓立の両手が激しく震え、瞬時に感覚を失った。続いて胸に熱さを感じ、体はまっすぐ後方へ吹き飛ばされた。


 たちまち韓立の耳元は、風を切る音と蛮胡子らが怒り狂って罵る言葉で満たされた。


 韓立が吹き飛ばされた体勢を止める間もなく、背中に激痛が走った。彼の身体は遠くないところにある巨大な護罩に激突し、そのまま罩壁に張り付くようにゆっくりと落下した。


「ふむ?」不思議そうな声が、白い虹を放った星宮長老の口から漏れた。


 彼は抵抗らしい抵抗もなく斬り飛ばされた韓立を数度見つめ、少し意外に思った。


 彼の法寶「貫日剣」をこの距離で撃たれて、真っ二つにならなかったとは、どうやら何か頂級の護身寶物があるらしい。


 だが、それは問題ではない。なぜならもう一振りの飛剣は既に成功を収めているのだ。


 そう思うと、彼の視線は冷たく祭壇の上へと向かった。


 この時の血玉蜘蛛は、もう一筋の白虹によって真っ二つに切断され、血が一面に流れ出ていた。既に小半ば現れていた乾藍冰焰は再び音もなく沈んでいった。


 二匹の異種火蟒だけでは、とても虚天鼎を引き上げることはできない。


 これらすべてを見て、白衣の長老はようやく満足げに二本の白い虹に手を招き、同時に回収した。そして天上の顔色を悪くした正魔双方に向かって、不気味な笑みを浮かべたのだ。


 これらの元嬰期老怪たちは、心神をもう一人に奪われていたため、反応する間もなく、この者が韓立と血玉蜘蛛を奇襲したのだった。今、血玉蜘蛛が実際に斬殺されたのを目の当たりにし、皆怒りを露わにし、目に炎を宿していた。


 蛮胡子に至っては、遠慮なく罵声を浴びせ始めた。そして両手を打ち合わせると、体から金の光が大いに輝き出し、まさに手出しをしようとする様子だった。


 しかし、淡く笑いながら、手を出した星宮の老人は乳白色の蛍光の中に包まれ、無数の星の光へと化して跡形もなく消え去った。ただ一枚の淡い金色の符箓が、軽やかに空中から落ちてくるだけだった。


 全く同じことが、もう一人の光罩の中にいた白衣長老にも起こった。


 同じ白い星の光、彼の身体は微笑みながら、多くの老怪たちの目の前で崩れ散った。その場所には全く同じ金色の符箓が残された。


「星宮の化身符! やはり本体ではなかったのか、本当に本を下したな! これでは、後で清算を求めることもできん。」蛮胡子の顔の激怒の色は急速に収まり、目に異様な光を宿しながら呟いた。


 そして極陰、万天明ら正魔双方の他の者たちは、皆顔色が悪く、ただ呆然と見つめるばかりで、金色の符箓が地面に落ちると、自ら燃え上がって灰となり、何も残らなかった。


 ……


 内殿第五層の隠れた片隅で、胡坐をかいて座る二人の白衣の老人が、暗闇の中で同時に目を開いた。


「今回はついて来て正解だった。さもなければ、虚天鼎は本当に彼らの手に渡るところだった。」その内の一人が、ほんの少し安堵の色を帯びながらゆっくりと言った。


「しかし、化身が彼らに見つかったのは少し早すぎたな。もし虚天鼎が引き上げられた後、彼ら双方がもつれ合い牽制し合っている隙に、我らが密かに突然手を出せば、この寶を奪い取って戻る可能性も十分にあったのに!」もう一人の声は幾分陰寒で、言葉にはまだ残念な気持ちが込められていた。


「ははっ! 人は欲張りすぎてはいかん。今回は正魔が寶を奪う絶好の機会を破壊できただけでも、十分に良い結果だ。我ら星宮が今回の危機を乗り越え、次に虚天殿が再び浮上する時こそ、虚天鼎は星宮の物となるのだ。」最初の人物は意に介さず軽く笑った。


「確かにその通りだが、我ら二人はその日を待てそうにない。本当に見てみたいものだな、補天丹が本当にそんなに不思議かどうかを。なんと霊根の不純さを補い、先天霊根を精練するとは? まったくもって不可思議だ!」陰寒の声は無造作にそう言った。


「確かに惜しいことだ! しかし我らは寿命が尽きようとしている者だ。仮に補天丹を手に入れたとしても、すでに手遅れだろう。だが笑えるのは、誰が流したのか分からない噂だ。あの補天丹には寿命を延ばし、元嬰期の瓶頸を突破する奇効があると。多くの元嬰期老怪たちが、それを真に受けている! 彼らは考えもしないのか。もし本当にそんな不思議な力があるなら、六道と狂婆子がここへ来ないはずがないと。しかしこの丹は結丹期修士が元嬰を凝練するのには大いに益がある。ただ、この丹を煉化するのは実に容易ではないがな。」最初の人物は少し皮肉を込めて言った。


「ふん! 結丹期修士にここへ来る力があるか? それにこれらの者たちは我らと同じく、長年修練しても修力が一歩も進まなかった連中だ。彼らが全ての希望をこれほど名声の高い補天丹に託すのも、無理からぬことだ。もし昔、我ら星宮の老宮主が千辛万苦して何とか一枚取り出していなければ、我らだって同じようにこの物を忘れられずにいるだろう!」


 もう一人はこの言葉を聞き、それ以上何も言わなかった。どうやら可能性が大いにあり、それを認めたようだ。


「我らは早く行こう! 老怪たちが羞恥心から怒り、本当に我らを厄介ごとに巻き込むかもしれん。そうなれば大変なことになる。彼らは今回、大いに腹を立てているぞ!」


 この言葉が出ると、暗闇の中は静まり返り、二度と音は聞こえなかった。あたかもその場所は、あっという間に人も空も消え去ったかのように。


 星宮の二人の推測は正しかった。正魔双方は確かに皆、大いに悔しがり、鬱憤を感じ、面目を失っていた。


 しかし彼らも老獪で狡猾な者たちであり、すぐに冷静さを取り戻した。事ここに至っては星宮の妨害をいくら怒っても無駄だと悟り、それでもなお双方は空中で対峙し続けた。


 韓立もまた、護罩の縁で落下の体勢を止め、再び安定して飛び上がった。


 この時の彼は、自分の両手を驚きと恐れを持って見つめていた。


 ねっとりと血に染まり、虎口(親指と人差し指の間)は完全に裂けていた。しかし彼の視線はそこには向かわず、代わりに右手でしっかりと握った玉の如意へと注がれた。


 そしてその時、空中の万天明が咳払いをし、魔道の数人に向かって何かを言おうとする様子だった。


 しかし同時に、極陰祖師の一対の火蟒がついに支えきれなくなり、悲鳴を上げると同時に蛇口を緩め、元の大きさに縮んでしまった。


 虚天鼎はすぐに震え、ブーンという音を立てて急速に落下し始めた。


 この光景に、正魔の数人は思わずうつむいて見入った。口を開こうとしていた万天明も例外ではなかった。


 極陰祖師はさらに顔色を曇らせ、この光景を眺めながら目には不満の色が満ちていた。


 しかし、予想外のことが起こった!


 虚天鼎は落下する最中、何らかの刺激を受けたのか。突然、ブーンという音が竜の咆哮へと変わり、続いて鈍い雷鳴が響いた。拳ほどの大きさの五色の光団が青い炎の中から迸り出て、天へと飛び立ったのだった。


「補天丹だ!」正魔双方からほぼ同時に、この物の名を叫ぶ声が上がった。その声には驚きと喜びが満ちていた。



 この物が現れると、たちまち天上は大混乱に陥った。


 すでに手を休め和解しようとしていた人々は、すぐに数本の長い光虹と化し、五色の光団を目指して飛び去っていった。


 しかし半ばで、これらの遁光は絡み合い、誰も一歩も前に進むことができなかった。


 一瞬にして光芒が飛び交い、魔気が乱れ舞った。その激しさは先の数倍を超えるものだった!


 そしてその五色の光団は、穴口の真上に軽々と漂い、微動だにしない。あたかも手を伸ばせば掴めるかのように。


 皆ははっきりと見た。一寸ほどの大きさの丹丸が光団の中心でゆっくりと回転している。一回転するごとに、光団は収縮し閃く。まるで生命を持っているかのようだった。正魔の者たちはさらに心を熱くせずにはいられなかった。


 烏丑や玄骨らは呆然としたようで、天上の戦いをぼんやりと見つめていた。


「馬鹿者! 何を見ている! 早くあの補天丹を収めろ。」烏丑の耳に突然、極陰祖師の冷たい声が響いた。


 烏丑はこの言葉を聞くと、ハッと我に返った。すぐに一団の黒気と化し、五色の光団へと突き進んだ。


 しかしその時、玄骨もまた手を出した。ただし今回は補天丹を収めようとしたのではなく、両手を一振りし、二匹の緑色の怪蛇が袖から飛び出し、烏丑の背後を襲いかけたのだ。


 烏丑もかなり機敏で、緑色の怪蛇の攻撃は無音無臭だったにもかかわらず、注意深くそれを察知した。


 彼は前へ飛ぶのを諦め、驚き怒って体勢を変え、急いで防御態勢を取った。


「死にたいのか、俺を襲うとは!」烏丑はもはや心の怒りを抑えきれず、玄陰魔気を唸らせながら周囲に満たし、玄骨の頭上へと覆いかぶせた。


 玄骨は「へへっ」と冷たく笑い、言葉を発さずに同様に緑色の鬼気へと変化させ、陰気に立ち向かった。


「蛮胡子! お前の甥っ子は何をしているんだ?」極陰は当然、烏丑が阻まれた一幕を見た。思わず激怒して蛮胡子に怒鳴った。


「何をしている? もちろん道友が補天丹を独り占めするのを阻止しているさ。まさか、魔道同士だというだけで、本大爷が補天丹をお前に譲るとでも思っていたのか?」蛮胡子は巨大な金手を変幻させながら万天明を遠くから激しく打ちつつ、高らかに笑った。


「お前…」極陰祖師はこの言葉に、顔を真っ青にして怒った。


 蛮胡子のこの言葉は、疑いなく魔道の連携が解けたことを宣言し、補天丹は各自の能力に任せるということだった。


 しかし、この事態は遅かれ早かれ起こることだった。


 虚天鼎は取り出されず、この一粒の補天丹だけが現世した。当然、誰もが手に入れたいと願う。魔道の者だけでなく、向こうの正道三人も今やそれぞれ下心を持っているに違いない!


 極陰祖師は蛮胡子と口論しても時間の無駄だと悟り、諦めた彼は、天都妖屍を変幻させて補天丹を取りに行かせようと考えた。


 しかし向こうの黒痩老人の功法は実に奇怪で厄介だった。こちらが妖屍を放つと、相手の緑の糸がまるで予知していたかのように、即座に絡みついてきて、全く離脱できなかった。これには彼も黒痩老人と蛮胡子を同様に歯噛みするほど憎むようになった。


 実は極陰祖師一人だけがそうだったわけではない。残りの者たちもほぼ同様の状況だった。


 一方ではあの手この手で相手を絡め取り、他方では頭を絞って別の方法で寶を取ろうとする。


 しかし残念なことに、ここにいる老いぼれどもは皆狡猾で、誰も願いを叶えることはできなかった。


 結局のところ、相手を絡め取るのは、相手を振りほどくよりもはるかに簡単なのだ。


 天上の元嬰期修士たちが入り乱れて戦っている間、誰も気づかなかったが、元々護罩の前で韓立が複雑な表情を浮かべていた。


 さっき星宮長老の穿心の一剣を受けて、死んでいなかった。これは彼自身も大いに意外だった。


 何しろ彼は、元嬰期修士の法寶の一撃をまともに喰らったのだから。


 しかし我に返って胸元を見ると、蛮胡子から一時的に借りた「皇鱗甲」に守られていたことが分かった。


 外側の衣服はすでに焦げ黒く、半分しか残っていなかったが、内側の銀鱗がきらめいていた。寶甲は剣を受けた部分がわずかに凹んでいるだけだった。


 これを見て韓立は内心安堵した。幸い彼はこの虚天殿内が危険に満ちていることを知り、この寶甲に何の問題もないと神識で確認した後、すぐに肌身離さず着用していたのだ。


 今や確かに彼の小命を一度救ってくれた。


 しかし韓立はよく分かっていた。白虹の一撃で死ななかった最大の功労者は、やはりあの赤と黄色の玉の如意だったはずだと。


 彼が玉の如意を振ってかろうじて防御した時、かすかに如意の中から一つの銀色の狼の頭が覗いているのを見た。この狼の頭が白虹の威力の大半を相殺してくれたのだ。


 さもなければ、「皇鱗甲」は防御力が驚異的であっても、この一撃をまともに受けて無傷でいられるわけがない。その時は彼も貫通死こそ免れても、重傷を負っていただろう。


 韓立は玉の如意の真の効能を詳しく研究したいと思ったが、今は決して良い時ではなかった。仕方なく一旦収納袋にしまった。


 この時になって初めて、彼は掌の虎口が激しく痛むことに気づいた。


 韓立は微かに歯を食いしばると、両手に白光が走り、傷口は目に見える速さで癒えていった。


 同時に、彼は警戒しながら天上の戦いの群れと、祭壇上で無惨に死んだ血玉蜘蛛の死骸を一瞥した。


 韓立の目に哀しみと陰鬱な色が一瞬走ると、突然眉をひそめ、断固たる表情を浮かべた。


 彼は高台の護罩の縁に沿って、遠くの石段へと密やかに飛び去ろうとした。


 自分の異常な記憶力に頼って。韓立は、あの機関傀儡がこれほど早く再配置されなければ、完全に元の道をたどり、多少のリスクを冒して一層へ逃げ戻れると信じていた。


 これは、ここに愚直に留まり、元嬰期老魔どもに好き勝手に弄ばれるよりずっとましだ。


 何しろ彼が差し出した血玉蜘蛛は無惨に死に、利用価値は完全に消えた。護身符を失った彼は、自分の小命を相手の慈悲に委ねるつもりは毛頭なかった。


 自分の命は自分で掌握するべきだ!


 それに虚天鼎は無事取り出されず、結局補天丹を手に入れられなかった老魔はきっと腹の虫の居所が悪いはずだ。十中八九、彼に当たり散らすに違いない。


 そう考えながら、韓立の動作はますます密やかになり、音もなく後退した。しかし十丈余り飛んだところで、これ以上は構わず加速を始めようとしたまさにその時、耳に一人の声が響いた。


「韓立、どこへ行くつもりだ?」


 玄骨の声は大きくなく、平然と冷ややかだった。しかし極陰らがはっきり聞き取るには十分だった。


 たちまち極陰や蛮胡子らの冷たい視線が、韓立へと一掃された。


 韓立の動きは止まり、思わずその場に立ち尽くした。


 玄骨はともかく! 元嬰期修士の手並みを目の当たりにした韓立は、老怪たちの全力の一撃をかわす自信など毛頭なかった。


 何しろ入口の光罩を破るには、どうしてもほんのわずかな時間がかかる。その時間だけで、極陰は彼を何度も滅ぼせるだろう。


 遠くにかすかに見える石段を見て、韓立は苦笑いした。仕方なくのろのろと元の場所へ戻った。


 この光景を見て、ずっと神識で韓立を監視していた玄骨は、口元に冷たい笑みを浮かべた。


 彼は烏丑を相手にするのに明らかに余裕を見せていた。しかし、この者から離れて補天丹を取りに行こうとする様子は全くなく、何か企んでいるようだった。


 戻ってきた韓立は、恨めしそうに彼を睨みつけ、心に一抹の疑念を抱いた。


「蛮胡子、もし今すぐ本門主の行く手を開けなければ、本門主は天羅真雷を使うぞ!」万天明は五色の光団がすぐ下にあるのを見ながらも、前進しようとすると必ず蛮胡子に金色の巨手で激しく撃退されていた。何度も繰り返し徒労に終わった後、ついに羞恥心から怒り、脅しをかけたのだった。


「天羅真雷! 極陰や青易はこれを恐れるが、本大爷はこの雷の威力を試してみたいものだ。ただ、道友が本大爷に見せてくれるのを惜しむのではないかと心配しているだけだ!」蛮胡子はこの言葉を聞いて一瞬呆けたが、すぐに気にせず冷たく笑った。どうやら相手が本当にこの寶物を使うとは思っていなかったようだ。


「よし、よし! 蛮胡子、これはお前が本門主を追い詰めたのだ。天羅真雷の真の恐ろしさを見せてやろう!」万天明は火に油を注がれたかのように顔色を青ざめさせた。五色の光団を貪欲な目で一瞥すると、ついに冷酷な表情を見せ、歯を食いしばって言った。


 そして彼は躊躇せず天霊蓋を軽く叩くと、清らかな鳴き声が響き、紫光の一片が頭頂から射し出た。続いて二寸ほどの裸の嬰児が、頭上の三尺の位置に浮かび上がった。


 この嬰児は白く柔らかく、全身が紫光に絡みつかれていた。さらに驚くべきことに、その顔立ちは万天明と瓜二つで、しかも嬰児の両手にはそれぞれ一つずつ紫色の丸い珠を握りしめていた。それは透明で温かみのある光沢を放っていた。


「元嬰出竅! 万天明、お前は本当に魂魄を飛散させ神を滅ぼすつもりか?」蛮胡子は元々気にしていなかった表情が一変し、鋭い眼光を射ながら厳然と言った。


「もし補天丹を手に入れられなければ、本人も大限は近い。早死にしようが遅死にしようが違いはない。せいぜい蛮道友が兵解(兵刃による解脱)を手伝ってくれたと思えばよい。」細く不明瞭な声が向こうから響いた。話しているのは紛れもなくその紫光に包まれた嬰児だったが、たったこれだけの言葉でも、少し息が上がっているようで、非常に苦しそうだった。


 そして万天明の肉身本体は、嬰児が現れたのと同時に、すでに目を閉じ、微動だにしなくなっていた。あたかも人事不省のように。


「ふん! 兵解? お前は考えが甘い! 本大爷がお前の元嬰を煉化し、輪廻の機会すら奪うかもしれんことを恐れぬのか?」蛮胡子は万天明の元嬰を死んだように睨みつけ、冷たく言った。


「貴殿に本当にそんな神通力があるなら、本人が貴殿の手で命を落とすのも構わん。だが蛮道友はまず、本門主の真雷をどう受け止めるか考えた方がよいだろう!」嬰児は不明瞭にそう言い終えると、手にした二つの雷丸のうちの一つを、ためらうことなく手のひらから放った。


 この物が嬰児の手のひらを離れると、すぐに爆裂し、車輪ほどの大きさの紫色の光団へと変わり、蛮胡子に向かって凄まじい勢いで飛び去った。


 蛮胡子は両眉をつり上げ、殺気を帯びた表情で金手を一振りし、自分の胸を二度激しく拳で叩いた。すると頭の上から仙楽が響き、金光が四方に射し、同様に肌が淡い金色の嬰児が現れた。


 この嬰児の顔は蛮胡子と同じで、身長は二寸半、万天明のものより少し大きく、たくましく見える。しかしその目は固く閉じ、両手で一面の青々とした小さな盾をしっかりと抱えていた。


 この盾は円形で、非常に精巧で小さく、盾の中心には一粒の豆粒ほどの大きさの透明な晶石がはめ込まれており、鋭い光を放っていた。


 紫色の光団が目前に迫ると、この元嬰は目を開けなかったが、既に察知していたようだ。


 その手の小さな盾を掲げると、淡い青色の光罩が盾から射出され、蛮胡子の全身を守った。


 紫色の光焰は容赦なくその上に衝突した!


 一方の天悟子や極陰らは、二人が元嬰まで出竅させたのを見て、心中愕然とし、この二人が本当に命懸けになるつもりだと悟った。


 天を揺るがす炸裂音が空中に響き渡った。光罩の上空は紫紅色に染まり、直径十余丈の雷雲が突然出現し、蛮胡子を風雨も通さぬほどに包み込んだ。


 紫色の雷電が雲の中で狂ったように閃き、轟音と轟音、刺すような雷光が瞬時に絡み合い、天罰が降り注ぎ、雷神が降臨したかのような恐怖を思わせた。


 他の数人はこっそりとこれを見て、心中震撼した!


 天羅真雷の恐ろしさは以前から聞いていたが、この雷が放たれる時の驚異的な光景は、彼らも初めて見るものだった。さすがに恐ろしい、あの名声に恥じぬものだ。


 しかし、彼らは一方でこの天羅真雷の威力に驚嘆しながらも、手にした攻撃はさらに三分、辛辣なものとなった。


 そして万天明の元嬰は、雷雲に閉じ込められた蛮胡子など見向きもせず、空いた小さな手を招くと、手の中に突然一振りの紫色の小剣が現れた。


 紫光が一閃すると、元嬰と小剣は同時にその場から消えた。


 次に再び姿を現した時は、下の五色の光団からわずか四五丈の距離だった。


「元嬰御剣(元嬰が剣を操る)」


 絡み合っていた四人は同時に顔色を変えた。これは速度が速すぎて見間違えたわけではなく、紛れもない直接の瞬移(瞬間移動)だった。元嬰期修士が元嬰を出竅し肉身の束縛から解放された時、元嬰が持つ特殊能力なのだ。


 しかしこの神妙な遁術は本命の元気を大きく損なう功法であり、元嬰期修士は誰もがこの口訣を知っているが、軽々しく行使することはない。


 今、万天明が予想外にこれを使った。どうして他の者たちの心が引き締まらないことがあろうか!


 極陰と儒衫の老人は期せずして同時に相手を捨て、慌てて身を翻して補天丹へと飛び込んだ。


 そして彼らの相手であった天悟子と黒痩老人は互いに一瞥すると、なぜか虚勢を張っただけで小さな法術を数個放っただけで、二人が離脱するのを全力で阻止しようとはしなかった。


 こうして、極陰と青易居士は当然、絡み合いから無事に抜け出し、飛ぶように下方へ突き進んだ。


 万天明の元嬰は振り返らなかったが、背後で起きたことを察知しており、稚拙な顔に似つかわしくない冷笑を一瞬浮かべた。今の彼の距離なら、次の瞬間には補天丹は彼の掌中にあるだろう。今や彼を阻止できる者がいるだろうか?


 果たして万天明の元嬰は再び閃くと、五色の光団の傍らに現れ、紫色の巨手を幻化させて五色の光団を掴み取った。


 五色の霞光は巨手の五指が握りしめると消え去り、ただ一粒の透き通る五色の丹丸が掌中に残った。


 万天明は心中狂喜した。しかし後から追いかけてきた極陰祖師と儒衫の老人は当然、これで引き下がるつもりはなく、極陰祖師はさらに目に火を噴きながら低く唸った。


「万天明、補天丹を置いていけ!」


 大面積の玄陰魔気が頭上から覆いかぶさってきた。続いて飛来したのは無数の青い光の糸、数え切れないほどだった。


「お前たちに私を封じ込められると思うか?」嬰児は細く鋭い笑い声を上げ、紫光が一閃すると、青光と黒気の包囲網の外へと瞬移した。


 元嬰は十余丈離れた紫色の小剣の上に立ち、嘲笑の色を浮かべて二人を見下ろした。


 しかし彼のこの嘲笑の笑みがほんの一瞬現れた途端、突然恐怖の色を目に浮かべ、信じられないという表情で猛然と天を見上げた。


 すると、稚拙な小さな顔は真っ青になった。


 天上では、万天明の肉身が知らぬ間に高々と掲げられていた。そしてその人物は背が高く、全身が金色に輝いていた。蛮胡子に他ならない!


 ただ今の彼は、髭髪がすべて縮れ、衣服もボロボロで、少しみすぼらしく見えた。しかし全身を覆う金鱗と凶悪な表情が、彼を悪神のように見せていた。


「ありえない、どうやって脱出した?」万天明は信じられず、慌てて雷雲のほうへと目を向けた。すると、顔面に恐怖の色が満ちた!


 あの威勢の良い紫色の雷雲は跡形もなく消え失せており、雷電の影すらなかった。


「へへっ! 万大門主、運が悪かったとしか言いようがないな。本大爷はちょうど昔、一匹の稀有な雷鯨妖獣を始末したことがある。当時は重傷を負ったが、その体内にあった吸雷石は無傷で手に入れたのだ。お前の天羅真雷は確かに恐ろしいが、この珠に威力の大半を吸収された後、本大爷にどうこうできると思うか?」蛮胡子は片手を挙げ、紫光を放つ晶石が手の中に現れた。続いて軽く揺らすと、再び跡形もなく消えた。


「さて、本大爷が三つ数える間に、補天丹を投げてこなければ、今すぐお前の肉身を破壊する。結果がどうなるか、よく分かっているだろう?」


「一」


「二…」


 蛮胡子は万天明に駆け引きや熟考の余地を全く与えず、片手で万天明の肉嚢(肉身)をぶら下げ、もう一方の手は金光を大いに輝かせてその躯殼の頭部に押し当て、躊躇することなく数え始めた。


 万天明は驚きと怒りが入り混じった。彼は元嬰出竅前に確かに肉身に幾つかの禁制を施していたのに、それでも肉身が相手の手に落ちた。


 これは相手が吸雷珠を持っていたことと同様、彼には信じがたいことだった。


 しかし彼には考えを巡らせる時間などなかった。肉身が本当に破壊されれば、中期にまで修練した彼の元嬰は必ず青煙と化す。何しろ彼は、元嬰のみで世間を逍遥できる境地まで達していなかったのだ。


 これが元嬰期修士が、元嬰出竅後にいくつかの大威力の特殊功法を行使できると知りながらも、軽々しく元嬰を離脱させない理由でもある。


 万天明は補天丹が目前にあるのを見ながら、長く蛮胡子の絡みつきから逃れられず、つい一時の貪欲に駆られてこの大忌を犯してしまったのだ。


 今や蛮胡子は一切駆け引きを許さない様子。万天明は内心悔やみつつも、すぐに利害関係を分析した。


 だから相手が「二」と数えた時、彼は歯を食いしばり、ためらうことなく補天丹を天へ投げ、本当に蛮胡子のほうへ飛ばしたのだった。


 万天明の元嬰御剣による補天丹獲得から、彼がやむなく蛮胡子へ補天丹を投げるという劇的な転換は、瞬く間に成し遂げられた。


 蛮胡子は目に喜びの色を宿し、目前に飛来した五色の丹丸を掴み取った。そしてためらわずに片手に力を込め、万天明の肉嚢を反手で力強く投げ飛ばした。


 たちまち肉嚢は向かいの罩壁へと直撃した。もし誰も受け止めなければ、おそらく粉々に砕け散っただろう。


 万天明の元嬰はこれを見て、魂が天へ飛ぶほど驚いた。何も考えずに肉嚢へと飛び去った。幸い距離は少し離れていたが、彼の元嬰御剣による瞬移のおかげで、なんとか阻止に間に合った。


 一方の蛮胡子はその隙に金虹へと身を変え、石段のほうへと逃走した。


 蛮胡子が万天明をここで始末しなかったのは、相手が何と言っても万法門の主であるためだ。もし痛烈な手を下せば、正道と完全に敵対することになる。そして万法門の狂婆子は、彼さえも敵わない正道第一の修士だ。彼は日夜この者に追い回されたくなかった。今や正魔両道の大敵は何と言っても星宮だ。彼は丹を手に入れられればそれで良かったのだ。


 蛮胡子が予想外に補天丹を奪い取り、虚天殿から遁走しようとしているのを見て、天悟子や黒痩老人は当然手放さず、遁光を操って追跡し、決して諦めない様子だった。


 極陰と儒衫の老人は一瞬呆然とした後、互いに一瞥すると、同様に大いに不満そうに身を飛ばして追いかけた。


 ただ極陰祖師が化した黒雲が韓立と烏丑らの頭上を通り過ぎる時、冷たい言葉を放った。


「烏丑! お前と韓立はここで大人しく動くな。本祖師はすぐに戻る。この二体の妖屍を一時的に使わせてやる。」そう言うと、二体の天都妖屍が烏丑の左右に現れ、極陰祖師は瞬く間に虚空を切って去り、影も形もなくなった。


 こうして、数人の元嬰期老怪たちは蛮胡子の金光に続き、前後して石段の護罩を破り、高台から狂ったように追いかけて行った。ようやく肉身に戻ったばかりの万天明さえも、歯を食いしばりながら再び紫光と化して追跡したのだった。

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