28-緑の影
腹から突き出た血まみれの骨の手を見つめ、胡月は両目を見開き、信じられないという表情を浮かべていた。
「パチリ」という音。青い円丹は粉々に砕け散り、続いて骨の手は忽然と消えた。
胡月はうめくような声をあげ、骨の手が引き抜かれると同時に、泥のように地面に倒れ込んだ。血が傷口から溢れ出て、一時的に広間に生臭い血の匂いが充満した。
彼はまだ死んではいなかったが、すでに瀕死の状態だった。
金青 と 石蝶 の驚きの叫び声、爆裂音、法宝の唸り声が次々と耳に入ってきた。生涯の様々な出来事が走馬灯のように次々と湧き上がる。
幼少期の貧しい生活、霊根を発見された時の家族の喜び、思いを寄せた師姐が他人に嫁いだ時の無念さ、結丹成功時の意気盛んな様子、必ずや元嬰を凝らすという巨大な野心…これらすべてが手足の冷たさと共に遠ざかっていくようだった…。
しかし胡月は納得できなかった!
彼は三振りの飛刀法宝を煉っており、普段敵と対峙する時は二振りだけを放って敵を殺し、第三の飛刀は決して身から離さなかった。
第三の飛刀はある秘法で煉られたもので、飛ばして敵を傷つける威力は普通だが、通霊護体の面では普通の法宝を大きく凌ぐものだった。
それに、彼は惜しみない心血を注いでこの宝を修練し、つい最近、通霊の域に達したばかりだった。
他人の奇襲に遭った時、たとえ彼が自ら指示しなくとも、この宝は相手の殺気を感じ取り、自動的に護体すべきはずだった!
「奇襲してきた者が、もしや…」
胡月は最後に何かを思い出し、死に切れない思いで最後の凡人の力を振り絞り、ようやく首をわずかに捻った。ついに目尻で背後を見ることができた。
白っぽい影が一つ、 金青 を執拗に追いかけていた。金青は銀の光に包まれて後退しながら逃げ回り、自分の法宝を放って相手を攻撃していた。その白い影を極度に恐れているようだった。
一方、反対側の韓立らは大規模な黒い気に閉じ込められていた。ただ韓立の手には一つの火の色の画軸が握られており、無数の拳大の火の鳥が画軸の中から飛び出し、巨大な火の輪となって黒い気を絶えず衝撃し、近づけないようにしていた。
曲魂と石蝶は韓立のすぐ後ろに立っていた。
曲魂は全身を血の光が覆い、両手からは絶え間なく紫の炎を放ち、火の輪に突入してきた黒い気を打ち散らしていた。
石蝶は白く濁った円い珠を両手に捧げ、光を放っていた。その光は時折網をくぐる黒い気を彼女の周囲に近づけさせなかったが、彼女の目には依然として慌てた色が宿っていた。
胡月は黒い気などには目もくれず、必死に金青を追う白い影を細かく見た。
紛れもなく、あの死んでどれだけ経つかわからない白い骸骨だった。ただ、全身から白い霧を放ち、体は驚くほど敏捷に跳び回っていた。死物の様子は微塵もなかった。
胡月は自嘲気味に笑った!
彼、金丹期の修道士が、一具の死人の骨に罠をかけられるとは、まったく笑える話だ。
この自嘲の念と共に、胡月の意識は暗転し、果てしない長い眠りに落ちた。その自嘲の色は、口元に残ったままだった。
胡月が息を引き取ったのと同時に、韓立は表情を曇らせ、絶えず周囲を警戒していた。
*
さっき、胡月が白骨に奇襲されたのと同時に、近くの壁から突然、大量の陰寒の鬼霧が飛び出し、数人を閉じ込めてしまったのだ。
しかし幸い、韓立はすでに幾分かの準備をしていた。ためらうことなく手に入れたばかりのあの画軸を開くと、結果として画の中から多くの炎をまとった霊鳥が飛び出した。
この全身を妖火に包まれた、姿形が普通のツバメに似た「 脂陽鳥 」について、韓立はある典籍でその詳細を見たことがあった。
それらは精火の中から生まれ、様々な陰鬼や厲魄を食らうことを好み、有名な陰物の天敵だ。
ただ、この鳥はすでに修仙界から絶滅している。画軸に封印されていたのは、この霊鳥の一分の精魂に過ぎず、「脂陽鳥」の分身を放出できるだけだった。
これらの分身は、本物の「脂陽鳥」の姿とそっくりではあるが、威力は天地の差がある!
さもなければ、これらの黒い鬼霧は一時的に追い散らされるだけでなく、綺麗に喰い尽くされるはずだった。
これらの絡みつく鬼霧に対して、韓立はあまり心配していなかった。「青竹蜂雲剣」であれ、喰金虫であれ、それらを容易に破壊できる。
彼に幾分か不安を抱かせたのは、まだ傍らに潜み、手を出していない鬼霧の主だった。
あの白骨については、彼もはっきり見抜いていた。何か霊識があるわけではなく、明らかに誰かに操られている傀儡だ。ただ、この白骨は少し奇怪で、金青の法宝に何度も攻撃されたにもかかわらず、無事だった。どうやら中に何か別の秘密があるようだ。
韓立がそう考えていると、周囲から断続的な鬼の啼き声のようなものが聞こえてきた。
その声は人をゾッとさせる、男でも女でもなく、鋭く耳をつんざき、聞く者に気血を翻させ、心神を不安定にさせる。
韓立は内心で警戒し、たちまち神識を全開にして広間全体を覆った。指を同時に軽く弾くと、二振りの翠緑色の小剣が韓立の前に現れ、韓立の周りをゆっくりと回転し始めた。
「何者だ、ここで化け物まがいの真似をしているのは?早く姿を現せ!」金青はどうやらこの鬼の声に苛立ったようで、猛然と怒鳴った。
声は大きくはなかったが、広間全体を震わせた。鬼の啼き声は、それに応じて本当に止んだ。
それだけでなく、彼の法宝が再び白骨に当たった時、その白骨は一撃でバラバラになり、もはや人の形を成さなかった。
金青は驚きと喜びが入り混じった!
その瞬間、もともと韓立らを閉じ込めていた鬼霧が「シュッ」という音と共に、急いで周囲の壁の中へと縮んでいった。
韓立は大いに意外に思った!彼は金青のこの一喝にそんな威力があるとは思っていなかった。
ちょうどその時、韓立の背後にいた石蝶が振り返ると、この機に乗じて背後の地洞階段へと狂奔した。またたく間に階段の前に到着し、足を踏み入れた。
この光景を見て、韓立は無表情だったが、金青は顔色を変え、内心激怒した。
この女はなんと戦陣から逃走するつもりか?
石蝶の法力は低微だが、手に持っている宝珠は明らかにあの鬼霧に対して抑止力を持っている。彼女をこのまま逃がすわけにはいかない。
そう思うと、金青は考える間もなく口を開き、この女を止めようとした。
しかしその時、異変が再び起こった!
階段に駆け上がった石蝶がわずか二歩進んだところで、側壁が猛然と緑色に光った。すると、恐ろしい鬼の爪が前触れもなく飛び出した。その爪は十本の指が鋭く尖り、全体が碧緑色だった。肉眼で見えないほどの速さで、女性修道士の胸に突き刺さった。
石蝶は悲鳴をあげ、必死に手の宝珠の光を催し、抜け出そうとした。
しかしこの鬼の手は全く恐れる様子もなく、むしろ漆黒の鬼気が鬼の爪から湧き出し、たちまち石蝶を包み込んだ。
この女の叫び声は、途絶えた。
続いて、皮と骨だけの干からびた死体が黒い気の中から放り出された。ちょうど韓立と曲魂の足元に落ちた。
韓立は干からびた死体を見下ろし、血も肉もない様子に、わずかに青ざめた。
金青はすでに血の気が失せ、ただ白い印の法宝をぎゅっと握りしめ、絶えず左右を見回していた。
「へへっ!本尊はふさわしい肉体を一具必要としている。お前たち三人のうち、誰が差し出すつもりか?」広間の四方から陰寒の冷笑が響いた。その声は侮蔑に満ちていた。
この言葉を聞き、韓立の目に冷たい光が宿った。彼は突然、手に持っている画軸をもう一度広げた。身の外を飛んでいた多くの火の鳥がまるで親鳥の巣に帰るように画軸の中へと飛び戻った。続いて韓立は陰鬱な表情で両手で法訣を結んだ。
「ブシュッ」という音。身長一丈(約3m)ほどの巨大な「脂陽鳥」が画軸の中から飛び出した。その全身の炎は極めて眩しく、韓立の頭上を一巡すると、翼を広げて広間の一本の石柱へと飛び去った。
「ドカーン」という大音響。
巨大な鳥が柱に激突しようとした瞬間、緑の光が一閃した。すると、一股の黒い気が化けた怪蛇が柱の中から飛び出し、火の鳥と激突した。
火の鳥は口から白く焼ける精火を吐き出し、怪蛇は墨のように黒い寒気を噴き出した。鳥と蛇の戦いが広間で繰り広げられた。
「ふむふむ!思わぬことだ、乱星海で失伝した久しい 駆霊術 を、まだ会得している者がいるとは。どうやら本尊はお前たちを甘く見すぎていたようだ」声と共に、石柱からゆっくりと奇妙な影が現れた。
韓立と金青は思わず凝視した!
それは碧緑色の人影で、全身が緑の光に透き通り、真の姿はまったく見えなかった。体には腕ほど太い黒い霧のような帯が幾重にも巻きつき、両目は血を滴らせたように鮮やかな赤だった。
この怪影が韓立たちの体を見渡すと、韓立も金青も背筋に冷たいものが走り、相手に心の中のすべてを見透かされたように感じた。思わず互いに顔を見合わせ、相手の目に宿る恐怖の色を見た。
相手が視線だけでこれほどの威圧感を与えるということは、相手の修為が二人をはるかに超えていることを示していた。まさかこの人物は元嬰期の修道士なのか?
しかし怪影の様子は、どうも生きた人間には見えず、むしろ幽鬼に近い。
しかし、もし厲鬼なら、どうしてここまで理路整然と話し、少しも神智を失った様子がない
「貴殿は人間なのか、それとも鬼なのか?」金青は内心の恐怖を必死に押さえ込み、不自然な口調で尋ねた。
「人間?鬼?お前たちはどう思う?」怪影は陰陰と笑い、その言葉には弄ぶような響きが満ちていた。
この言葉を聞き、金青の顔色は極めて険しくなった。
一方、韓立は一言も発せず、全く前触れなく手に持った巻物を素早く広げた。
無数の火の鳥が狂ったように飛び出し、怪影へと殺到した。同時に、怪蛇と戦っていた巨大な鳥も鋭く一声鳴き、相手との戦いを放棄すると一団の灼熱の白い炎へと変わり、怪影へと猛然と飛び込んだ。
怪影はこれを見て、鼻で冷ややかな音を立て、侮蔑の声を放った。
「脂陽鳥?もし本物の本体が現れたなら、本尊も三分畏れるかもしれない。しかし今はただの一筋の残魂に過ぎない。よくもまあ他人の真似をして鬼を喰らい魔を除こうなどと?」
この言葉が口をついて出た瞬間、緑の影は両手を上げた。体の黒い気が刹那のうちに手に凝縮され、続いて「ブッ」「ブッ」と二つの音が響いた。
両手の黒い気が一気に飛び出し、二匹の一本角を持つ墨色の大蛇へと化けた。火の鳥の群れに飛び込み、大いに殺戮を始めた。二つの血盆大口は一突きするたびに、必ず数羽の火の鳥が吸い込まれていった。そして多くの火の鳥が吐き出すかすかな白い炎は、二匹の妖蛇を傷つけることすらできなかった。
その時、巨大な「脂陽鳥」が化した白い火の塊も、すでに目前に迫っていた。だがそれは二匹の墨蛇には目もくれず、むしろ緑の影の本体へと真っ直ぐに飛び込んだ。
緑の影はこれを見て、両目の赤い光が一閃し、さらに鮮やかになった。
体は動いていなかったが、かすかに慎重さがにじみ出ていた。
どうやら「脂陽鳥」の残魂に対して、この影は口で言うほど気楽ではなかったようだ。
「ドン」という音。
緑の影は両手を一振り、二匹の角蛇は手から離れて独自に動き出した。
続いて拳を握りしめ力強く打ち合わせると、碧緑の幽火が両拳の上で勢いよく燃え上がった。そして体を一閃させ、白い火の塊を迎え撃つように、緑の影は猛然と拳を振り下ろした。
結果、韓立と金青の驚いた眼差しの中、白い火の塊は音を立てて四方に飛び散り、またたく間に消え失せた。
そして緑の影の一つの拳に、忽然と乳白色の水晶の珠が現れた。
怪影は残忍な笑いを浮かべ、ためらうことなくその珠を口に放り込み、飲み下した。そして冷たい視線を再び韓立に向けた。
その瞬間、韓立の手に持つ画軸が理由もなく自然発火した。彼は急いでそれを投げ捨てたが、瞬間に灰と化した。
そして二匹の墨蛇と絡み合っていた火の鳥たちも、画軸が灰になったのと同時に一羽一羽消えていった。
韓立は深く息を吸い込んだ。
これらの「脂陽鳥」の分身が相手の敵ではないことは分かっていた。ただ、相手の力量を探るために使っただけだ!
しかし、緑の影が挙手投足の間に陰鬼を専門に封じるこの宝を廃棄し、しかも少しも手がかりをつかめなかったのは予想外だった。
唯一確かなのは、相手が純粋な鬼魅の類ではないということだ!
韓立は表情を変えず緑の影を凝視し、内心ひそかに自分と相手が戦った場合の勝算を推し量っていた。
「よし、お前だ!今、お前の肉体に興味を持った。他の二人は逃げてよろしい!」緑の影は韓立をじっと見つめ、ゆっくりとそう言い放った。
どうやら韓立の攻撃が、彼の癇に障ったようだ。
曲魂はもちろん微動だにしなかったが、金青はこの言葉を聞くと心に雑念が生じ、表情が陰ったり晴れたりした。
まだ直接手を交えたわけではないが、相手は実に計り知れない。たとえ韓立と手を組んでも、金青の推測では勝算はあまりない。
今、怪影が逃げることを許すと言ったことで、金青の心は大きく揺らいだ。
今日、これほど多くの修仙者が自分の目の前で惨死するのを見て、普段は常に心に恥じないと自負していたこの修道士は、初めて命を惜しみ、後日を期そうという考えが浮かんだ。
「どうした?二人に生路を与えているのに、欲しくないのか?ならば本尊が少々手間をかけ、お前たち二人も干からびた死体に変えてやろう!」緑の影は冷ややかな声を出し、陰森とした口調で言った。そして金青と曲魂を一瞥した。
怪影がこのような殺気に満ちた口調で話すのを聞き、金青の顔は何度も赤くなったり青くなったりした後、ついに韓立に向かって拱手し、恥じ入るように言った。
「韓兄、私はここで命を落としたくありません。今回は申し訳ありません」
この言葉を言うと、彼はもう何も言わず、慌ただしく石段の方へ走り去った。韓立を一瞥することもなかった!
韓立は表情を変えず、人に見捨てられたとか怒りといった感情は見せなかった。ただ、目にはかすかな冷たさを宿し、金青の去り行く姿を見つめていた。
一方、緑の影の赤い目には、幾分かの得意げな色が浮かんでいた。
金青が散らばった白骨の山のそばを駆け抜けた時、再び驚くべき変化が起こった。
近くに散らばっていた骨格が突然、彼に向かって攻撃を開始した。弩の矢のように激しく飛びかかってきたのだ。
金青は驚き怒り、体に銀色の光が一閃し、体はその光に包まれた。
しかし、彼が怪影を問い詰めたり法宝を放ったりする間もなく、それらの白骨は白い光を放ち、まるで何もないかのように護体の銀光を貫通し、内部に突き刺さった。
瞬く間に金青の体はボロボロになり、一言も発することなく、地面にどさりと倒れた。
韓立は無表情で地面の死体を見つめ、軽く首を振った。
続いて掌を返すと、一つの霊獣袋が手の中に現れた。同時に、目の前の二振りの飛剣が震え、わずかに緑色の光を放ち始めた。
「面白い!なぜ私が約束を守らなかったのか聞きたくないのか?」緑の影は冷笑しながら言った。
「貴殿が本当に言いたければ、聞かなくても自ら言うでしょう。言いたくなければ、無駄口を叩くだけです」韓立は無表情で言った。
「よろしい!お前、なかなか本尊の気に入ったぞ。もし大難に遭う前なら、おそらく弟子にしたかもしれん。しかし今となっては、本尊は一生弟子を取ることはないし、それに過去の逆徒たちをすべて骨を砕き灰にし、魂を引き抜いて煉魂してやるつもりだ!」緑の影はまず少し意外そうだったが、すぐに声を荒げて冷然と言った。
韓立は表情を動かさず、手を招いた。背後にいた曲魂が護体の血の光を放ち、二歩進んで韓立の脇に立ち、肩を並べて立った。
彼はこれ以上無駄話はせず、雷霆の勢いで敵を一撃で破るつもりだった。
同時に体内の残り数振りの青竹蜂雲剣も、今にも放たれそうな状態で待機していた。
「 血煉神光 !ほう、ほう!お前たちは 極陰 か 極炫 の門下か?」緑の影は曲魂の体の血の光を見るや、体をわずかに震わせた。そして怒りが頂点に達したように笑い出した。
韓立は眉をひそめ、表情をわずかに動かした。
「極陰?貴殿が言っているのは、極陰島の極陰祖師のことか?」韓立は淡々と言った。
彼は漠然と、黒煞教と極陰島の功法の秘密を解き明かせるかもしれないと感じていた。
「極陰祖師!あの逆徒めが何を祖師と名乗るとは!」緑の影は韓立の言葉を聞くや、すぐに激怒して跳び上がった。そして続けて罵詈雑言を浴びせた。
韓立は呆然とした!
この鬼のような存在が、あの極陰祖師の師匠だとは、あまりにも奇怪だった!
韓立は相手の言葉に驚いて呆然としている時だった。
体に緑の光が一閃し、続いて背後で鈍い音がした。
韓立は内心驚き、思わず振り返って見たが、後ろには誰もいなかった。
「まずい!」
ほとんど刹那のうちに、韓立は自分が騙されたと悟った。急いで首を捻り戻すと、考える間もなく残りの七振りの飛剣を放ち、一斉に体の前を護った。
九振りの青竹蜂雲剣を一度に操る、これが韓立の現在の限界だった。
確かに彼が首を戻した瞬間、九振りの飛剣が織り成す剣の光は淡い金色の「 辟邪神雷 」を放った。拳ほどの大きさの緑色の光の塊が電弧の下で跡形もなく消え去った。
韓立は冷や汗をかいた。
危うく、相手の思う壺にはまるところだった。
「 金雷竹 」、お前は金雷竹で鍛えた飛剣を使っているのか。
その時、緑の影は信じがたいという声を発した。
韓立は冷笑を一つ浮かべ、相手を嘲笑しようとしたが、その時、脇の空気に異様な波動を感じた。
彼はほぼ反射的に体をかわしたが、続いて胸に衝撃が走った。あまりにも馴染み深い血の光が彼の胸を貫通し、鮮血が瞬く間に激しく流れ出た。
すぐに、さらに一道の黄色い光が彼に猛然と襲いかかってきた。
「カン」という澄んだ音が響いた。数振りの飛剣が同時に黄色い光を弾き飛ばし、その正体を現した。それはあの 混元鉢 だった。
「曲魂!」韓立は驚き怒って脇に叫んだ。
まず血霊鑽で攻撃され、続いて混元鉢で猛攻された。明らかに曲魂に異変が起きていた。
しかし、人影が一閃すると、曲魂は聞こえなかったかのように緑の影へと飛び去った。
韓立は心念の繋がりから、分神は依然として曲魂の体内にあるが、なぜか曲魂の体の制御を完全に失っていた。
緑の影は「ハハハ」と狂ったように笑い、同様に一道の緑の虹へと化けて曲魂を迎え撃った。
韓立の顔は青ざめていたが、すぐに歯を食いしばり、猛然と法訣を結んだ。そして口を開き、厳しく「収」の一字を吐いた。
遠くにいる曲魂の天霊蓋から、この声に応じて小さな一団の緑光が飛び出し、急いで韓立の方へと戻って体内に溶け込み消えた。
その時、緑の影が化した長虹も曲魂の中に没していた。
韓立は一方の手で胸の傷口を押さえながら、もう一方で悪意に満ちた眼差しで向かい側の「曲魂」を睨みつけた。
「曲魂」はゆっくりと両目を開け、一対の血のように赤い眼玉を現した。




